想い姫

希紫瑠音

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1・聖と洸

 食事は茎崎くきざきリオにとって苦痛でしかないものだ。 それでも、生きる為に仕方なく、朝と夜だけは食事を摂る。これは両親の代りに自分を育ててくれた祖父母の為にだ。

 両親を事故で失い、それ以来、何を食べても味がしなくなってしまった。それ故に昼休みも食事をとらずに、机に伏せっている。

 誰も話しかけないでほしい。そういう気持ちもあったのだが、一人だけ馴れ馴れしく話しかけてくる男が居た。

「リオちゃん、一緒にご飯食べよ」

 リオが苦手とする部類である、藤間洸ふじまこうは、どんなにそっけなくしても、めげずに話しかけてくる。

 昼休みになると一番にリオの元にきてお昼を誘うのだ。

 他のクラスメイトのように、放っておいてくれたらいいのに。

 だが、洸は諦めない男だ。

 リオは顔色が悪く、華奢な身体をしている。それ故に倒れないかと心配なのだろう。だが、それは余計なお世話でしかない。

「細いな……」

 と腕を掴まれた。

 いきなりなんだ。ムカついて洸を睨みつければ、見慣れた顔の筈なのに、どことなく違う人に見えた。

 何かがおかしいと目を瞬かせていれば、

「俺は洸の弟でひじりだ」

 と、洸と同じ笑顔を向けてくる。

 洸の次はその弟か。本当にお節介だなと思うのだが、何故か嫌な気持ちがなかった。

 次の日の昼には、

「一緒にご飯食べよう」

 そう言うと、大きなお弁当箱がリオの目の前に置いた。

 食事などするつもりは無かったから、リオは首を横に振ると、問答無用で口の中へと玉子焼きが突っ込まれた。

「あ……」

 吐きだそうと思ったが、柔らかい感触に、それを噛んで飲み込むと、甘めの味付けで、どこか懐かしい味がした。

 あの日以来だ。味を感じられたのは。

「おいしい」
「よかった」 

 聖が相好を崩し、

「お前の為に作ったんだぞ」

 と次から次へとおかずを差し出してくる。

 リオの為にと、思いが詰まった弁当。だからだろうか、味を感じられるのは。

 苦痛でしかなかったのに、どれもこれもが美味しくて、食べ終えた頃にはお腹が一杯で苦しくて。だが、気持ちはとても幸せだ。

「また、作ってくるから。一緒に食べよう?」

 と言われて、リオは頷いていた。





 その日から、聖が弁当を作ってきてくれるようになった。リオの為に出汁の利いた和食中心のお弁当を作ってくれる。

「沢山、おたべ」

 里芋の煮物に、聖が自分の祖母に分けてもらったぬか床で作った漬物。鮭の西京漬けに舞茸の天ぷら。そして、おこわ。

 どれもが美味しそうに見える。

「聖の作る煮物、好き……」

 美味そうに頬張る姿を見つめ、聖の口元は緩む。

「お土産で西京味噌を貰ったからさ、作ってみたんだ。鮭、好きだろ?」
「うん」

 リオは魚に箸を伸ばし、身をほぐして口に入れる。

 食べた途端にホッとする。聖の作った物は美味しいだけじゃなく、心を温かくしてくれた。 

 リオは幸せな気分になる。だから、聖の側にいたいし触れて欲しくなる。それは昔に感じた事のある、とても暖かい感情だ。

「なぁ、今度さ、リオの家に泊まりに行っていいか」
「俺の家に?」

 もうすぐ試験もあるし、と聖がリオの顔を覗きこんできた。

 断る理由など無い。一緒に居られるのだから。

 リオは周りに壁を作ってしまうせいで、今まで友達が居なかった。親戚以外の人が部屋に来るのは初めてだ。

「いいよ」 
「やった。じゃあ、金曜日の夜から泊まらせて」

 鼓動が高鳴る。嬉しいという気持ちでいっぱいとなった。

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