伯爵家の美しきバラと可愛い小鳥

希紫瑠音

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少し前の話 2

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「ヴェルネル、着替えは終わりましたか?」

 ドアの外から声を掛けられる。 

 手紙をたたみ封筒にしまうと荷物を詰めた袋の中へと入れた。

「お待たせしました」
「これは、とてもよく似合います」

 お世辞だということは解っている。こんな枯れ枝のような男に上質な服だけが目立っていることだろう。

「おや、そのペンダントは?」

 シャツの下に隠すのを忘れていた。母親がいつも身に着けていたものだ。

「母の形見です」
「そうですか。ロケットペンダントなのですね」
「はい。中には可愛い花の彫り物があるんです」

 と開いて見せた。

「これは……たしかに可愛らしいですね」

 何やら驚いていたが、花の彫り物が気に入ったのだろうか。ヴェルネルも初めて見た時は同じような反応をしたような気がする。

「大切にしないといけませんね」
「はい」

 シャツの下にしまい、アルフォンスに続き歩いていく。遠巻きにこちらを使用人が見ている。上等な服を着ているからか、中には嫉妬して睨みつけている者もいた。

 決められた以外の時間に外に出るなんて、なんだか不思議な気分だ。

 太陽の光がまぶしくて、顔の前に手をかざして影を作る。

「あの馬車に乗りますよ」

 目の前にとまっているのはとても立派な馬車だった。

 やはり夢を見ているのではないだろうか。上等な服を着て立派な馬車に乗るなんて。

「夢ではありませんから」

 無意識に頬を抓っていたようだ。アルフォンスがくすくすと笑いながら赤くなった頬に触れる。

「さ、お手をどうぞ」

 手を差し伸べられて、どうしたものかと躊躇っていると、

「遠慮なさらず」

 と手をつかまれた。

「はい。ありがとうございます」

 女性にすることではとは思ったが、情けないこの姿を見て手を貸した方がいいと思ったのかもしれない。

 馬車に乗り椅子に腰を下ろすと柔らかくて座り易かった。自分の椅子とベッドとは大違いだ。

 それから、馬車に揺られてどれくらいか、お城が見えてきた。

 街の様子も驚いたが城の大きさに口をあけたままになっていたようで、アルフォンスが教えてくれた。

 なんて恥ずかしいんだと頬に手を当てる。

「外出も許されなかったのですか?」
「はい。部屋の中にいるか、夜の数分だけ散歩をすることしか」
「そうだったのですね」
「その時に王子殿下に会いました」

 運命的な出逢いだった。あの時のことがあったから今こうして外に出れたのだから。

「貴方とセルジュ様が出逢えて良かったです」

 そしてアルフォンスもこの出逢いを喜んでくれている。なんて優しい人なのだろう。

 母親と死に別れてから刺繍しかなかったのだ。

「ありがとうございます」

 涙が頬を伝い落ちていく。それをアルフォンスがハンカチで拭ってくれた。
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