獣人ハ恋焦ガレル

希紫瑠音

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獣人ハ恋ニ落チル

お仕置き

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 屋敷に着くとすぐに風呂へと連れていかれた。森へ行き納屋に縛られていたため全身が汚れていた。

 ドニたちが帰ると、先に戻った面々が出迎えてくれた。

「ごめんね遅くなっちゃって」

 すぐに戻ると思っていただろう。あたりは薄暗くなっていた。

「なんだ、三人とも汚れているな。風呂に入るといい」

 話はその後にと風呂へ直行することになった。

 風呂で順番に体を洗っていると、

「着替えを持ってきた」

 と外からゾフィードが声をかけてくる。

「ありがとう」
「帰りが遅いから村人とまた何かあったかと心配していた」

 その言葉に、一瞬言葉が詰まった。

「なんだ、そのまさかなのか」

 静かに怒りを含んだ声だった。

「あの、ゾフィード」

 風呂から出ようとするのをファブリスに止められた。

「すまん」

 ファブリスが謝る必要などない。

「俺がっ」
「ドニ、やめろ」

 二人を守るのがファブリスの役目だった。だから謝罪の言葉はドニに言わせない。

 ロシェからそういわれてドニは出ていくことをやめて黙った。

「風呂から出たらリビングにこい。食事の用意をして待っている」

 そう言い残してゾフィードは行ってしまった。 

「ファブリス、俺」

「俺はドニとロシェを頼まれたんだ。それを果たせぬ俺が悪い」

 そうだとしても、ドニが悪いのだ。

「ドニよ、自分を責めるなといっただろう?」
「ファブリス、何を言っても気になると思うぞ。それならゾフィードに仕置きをしてもらえ」
「え、お仕置き!?」
「あぁ、それがいい。ロシェ、お前も仕置きを受けろ」

 ファブリスの耳が動いている。なぜだろう、心なしに嬉しそうだ。

「俺は十分に反省をしているから受けない」

 ロシェは嫌そうな顔をしている。だが、受ければすっきりとする気がして、

「お仕置きを受けるよ。ロシェもね」

 ファブリスをあそこまで怒らせてしまったのだからというと、ロシェは嫌そうな顔をせずにわかったとこたえた。





 風呂から上がりダイニングルームへ行くとすぐに温かい食事が用意される。

 それを食べ終えるとロシェとファブリスは部屋へと戻り、ドニとゾフィードの二人だけとなる。

「疲れただろう。先に休め」

 片づけがすんだら俺も戻るというが、ドニは首を横にふるった。

「ゾフィード、怒っているよね」
「まぁな。ドニ、何か飲むか」
「はちみつ入りホットミルクが良いな」
「わかった」

 鍋でミルクを温めてはちみつをスプーン二杯。それがドニのお気に入りの甘さだ。

 しかも飲みやすい温かさにしてくれるので、カップを手渡されて一口。ホッとして口元がほころんだ。

「美味しい」
「そうか」

 ゾフィードはハーブティを入れたようで爽やかな香りがドニのところまで届く。

「村の人たちにはさ、相手にされていなかったけれど酷いこともされたことはなかった。だから酷い目に合ったけれど、次に会ったら大丈夫って思っていたんだ」

 エイダが謝りに来た時は、やはり村人に悪い人はいないんだと、嫌いにならないで済んでよかったと思った。

 それなのに裏切られてしまった。

「信じたかったのに、ロシェの大切なものを奪おうとしたんだ」

 ドニは自分自身を抱きしめる。

 もしもあの宝石を奪われてしまったら。自分にはどうやっても責任はとれない。

 あれは世界でただ一つだけのものなのだから。

「ファブリスがね、反省をしているのならもういいというんだけど、自分が許せないよ」
「けしてドニが悪いわけではない。手を出したのは村人だろう」
「でも、俺が二人を巻き込んだんだ」

 そう言葉を切り、そして、

「俺にお仕置きをしてほしい」

 と口にした。

「仕置きって、どうしてそうなった」
「許されるのも辛いんだよ。だから痛みと共にすっきりと」
「それを言い出したのは誰だ」
「ロシェだよ。ゾフィードにしてもらえって」

 そう告げるとゾフィードが頭を抱えた。

「わかっているのか? ベッドの上ですることだぞ」

 ドニの中では仕置きといえば平手で尻を叩かれることだ。祖父が生きていたころ、悪戯をしてはお仕置きだと叩かれた。

 とくにベッドの上ではしたことはないが、ここではそうするのだろうか。

 四つん這いになり、ゾフィードに向けて腰を突き上げる。それはまるで抱き合う時の行為のようだ。

「まるでエッチなことをするみたいだね」

 ついつぶやいてしまい、あわてて口を手で押さえる。

「そういうことをするのでは」
「へ」

 目をぱちぱちとさせてゾフィードを見る。

「お尻を叩くんじゃないの?」
「あぁ、そっちの仕置きか。いや、俺たちはふくらはぎを鞭で叩かれる」
「え、えっ、ゾフィード、痛い方じゃなくて、気持ちいい方の」
「ドニが、気持ちがすっきりとか言うから、勘違いをだな」

 それでも、ゾフィードはドニに恋人同士がするように触れようとしてくれたのだろう。

「ゾフィード」

 期待するようにゾフィードを見れば、顔に手を当てて頭を垂れた。

「言っておくがお仕置きだからな、わかっているよな」
「うん、わかっているよ」
「そうか。すぐに片づけを終える」

 片づけを終えてゾフィードがエプロンを外す。そして手を差し伸ばした。
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