愛しき面倒な者へ

希紫瑠音

文字の大きさ
16 / 25
万と一

課長の趣味は

しおりを挟む
 ファンシーな部屋に驚いた。白とパステルカラーのグリーンの壁。窓にはレースのカーテン、そして棚には可愛いものであふれていてる。

「そういえば、子供がいるとか噂があったな」

 小さな男の子と手をつないでおもちゃ屋にいたのを見たと妻子持ちの先輩が話していた。

 謎に包まれた人だから既婚者なのか独身なのかさえ知らなかったが、きっとこの部屋は子供のためなのだろう。

 一ノ瀬が帰ってきたことはわかっているだろうに誰もでてこないということは離婚したのか。

 気になるけれど今は酔っ払いをベッドに連れて行くのが先だ。

 どうにかベッドルームへと連れて行きベッドに寝かせた。ベッドには天蓋がある。

「もしかして奥さんのためなのかな」

 一ノ瀬がよければ自分がどうこう思うことではないのでベッドルームを出てリビングへと向かう。

 可愛いクッションが三つ。そこに体を預けると柔らかく包み込み。

「ふぁ、これ、最高」

 見た目の可愛さにプラス、癒しまで与えてくれる。そして大きなクマのぬいぐるみがそばにある。

「おおきいな」

 それを抱っこすると柔らかくていい匂いがしてきた。

「なにこれ、いいにおい」

 別にぬいぐるみが好きなわけではないがこれは癒される。抱っこして顔を埋めたまま横になると次第に瞼が重くなり意識が薄れていった。







 体を激しく揺さぶられる。

 まだ夢の中へといたいのに相手はそれを許してはくれないようだ。

「うー」

 伸びをしてゆっくりと目を開けば、不機嫌そうな顔が目に入る。

「なぜ、君がいるんだ」

 その顔に驚き体を起こした。抱いていたクマのぬいぐるみはテーブルの上に置かれていた。

「課長を送って、クッションとクマが気持ちよくてそのまま寝てしまいました」

 流石に寝落ちはまずいだろう。

「すみません、すぐに帰ります」

 鞄はどこだとすぐそばを見ればテーブルの下にある。それに手を伸ばすと、

「待て。この部屋を見てなんとも思わないのか?」

 と聞かれた。

「あぁ、ファンシーな部屋ですね」

 色々と気になるところではあるが、聞く勇気はなかった。だから黙っていたのに自分の方からふってくるとは。

 だが、一ノ瀬はその答えに不機嫌になるのではなく驚いている。その反応に万丈まで驚いた。

「えっと、一ノ瀬課長?」
「あぁ、いや、すまん。ひかれると思っていたから」

 どうしてひくことになるのだろう。どんな部屋でも家主がよければそれでいいのではないだろうか。

「お子さんのためですよね。先輩から聞きましたよ。子供と一緒におもちゃ屋にいたと」
「子供、あぁ、だからひかなかったのか。俺は独身だ。それに部屋は俺の趣味だ」

 顔を真っ赤に染めていう。

 俺の趣味、その言葉が頭をめぐる。

「え?」
「だから、これは俺の趣味だ」

 まさか一ノ瀬の趣味だったとは。

「笑いたければ笑うがいい。俺みたいな男が少女趣味だと」

 一ノ瀬が苦しそうな顔をする。知られたくないなかったのだろう。しかも万丈は同じ課の部下なのだ。

「笑いませんよ」

 他人の趣味を笑うなんて、してはいけないことだ。

 それに、会社での一ノ瀬氏か知らなかったので、色々な一面を見れるのは嬉しい。距離が近くなった気がするから。

「そうか」

 気が抜けたか、表情がゆるんだ。それを見てまたもや驚いた。

「意外と、かわいいんですね」

 つい、口に出てしまった言葉に、一ノ瀬の眉間にしわがよる。

「やっぱり馬鹿にしているのか」
「いえ、あっ、これ可愛いですねぇ」

 とテーブルに置かれた大きなくまを手に取る。

「可愛いだろう! 円が誕生日のプレゼントにくれたんだ」

 まどかとは彼女だろうか。一ノ瀬の趣味を知っていてぬいぐるみを贈ったのだから、きっと彼にとって仲の良い存在なのは間違いない。

「いいにおいもしますね」

 フルーツ系の甘い香りがする。

「そうだろう?」

 いつの間にか一ノ瀬もクマに鼻をくっつけていた。

「はぁ、落ち着く」

 意外な距離の近さに俺は驚いて顔を離した。

「ほかのもにおいするんですか?」
「するぞ。日曜に洗ったばかりだから」

 くまから離れうさぎとねこを手にすると顔をはさむ。

 もふっとした感触と意外な行動に目を見開けば、一ノ瀬の口元がほころんでいた。

「こうされると癒されるだろう?」

 確かに柔らかいものに挟まれるのは気持ちがいいが、それよりも万丈は一ノ瀬に釘付けになっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

処理中です...