我想う者

希紫瑠音

文字の大きさ
1 / 4

1

しおりを挟む
 このまま命など朽ち果ててしまえば良かった。

 生死を彷徨い、目を覚ましたのは五日後の事だ。

 あるはずのものが無い事に、ファースは絶望感を覚えた。

「あぁ、あぁぁぁ……」

 震えるわが身を抱きしめたい。だがそれすら叶わないのだ。

 後輩の無謀な行いを止める事が出来なかった。逆に追い込まれた彼を助ける為に身を投げ出した結果が両腕を失うこととなった。

 直ぐに仲間が助けに来てくれて命は長らえた。だが、剣を振るえぬ人生など死んだとも同じであった。このまま生きるよりもその手で命を絶ってほしい、そう懇願した。

 だが、討つのではなく打たれた。左の頬を。

「仲間の命を助けたお前が、その命を無駄にするのかっ」

 騎士団長であるヴェンデルに。

 その時はそこで意識が途切れてしまい、次に気が付いた時にはベッドの上に寝かされていた。

 ヴェンデルとの付き合いは彼が五歳、ファースが七歳の頃だ。

 騎士団を引退した祖父がヴァンデルの剣の師匠として招かれ、歳の近いファースは彼と共に剣術を学ぶこととなったのだ。

 共に学んだ日々。ヴァンデルは才能に満ち溢れており、騎士見習いとして同じ団に所属されてからも二人の間にはかなりの差が開いており、正式に騎士となると功績をあげ続け、そして騎士団長へと昇りつめた。

 良き友であり憧れの存在。いつまでも彼の近くで剣を振るい続けたい、役に立てたならと思っていたのにこの有様だ。

 



 意識が浮上する。

 そこは見慣れた宿舎のベッドではなく、広く寝心地の良いベッドで、しかも自分の部屋よりも豪華であったが、見慣れ部屋でもあった。

 ぼんやりと当たりを見わたすと、ドアが開き侍女が洗面器を抱えて中へと入ってくる。

 額を冷やしてくれようとしていたのだろう。ファースが目を覚ましたことに気がつき、良かったと安堵する。

「今、ヴェンデル様をお呼びしてまいります」

 サイドボードに洗面器を置き、頭を下げて部屋を出て行った。

 直ぐに知らせを受けたヴェンデルが部屋へと入ってきて、ベッドの近くに椅子を置き腰を下ろした。

「団長」

 ベッドから起き上がろうとするが両腕が無い事もあり均衡が保てず、ヴェンデルが立ちあがり背中に手をそえて起こしてくれた。

「ありがとうございます」
「あれから五日も目を覚まさぬ故、心配したぞ」

 優しく頬を撫でられ安堵の息を吐く。

 よく見ればヴェンデルの目の下には隈が出来ており、心配させてしまった事にファースは項垂れる。

「このまま永遠に目を覚ますいられたら、どんなに良かったことでしょうか」

 つい、弱音を吐いてしまい、その言葉にヴェンデルは目を見開き、すぐにそれは怒りを含んで鋭くなる。

「お前はまだそんな事をっ」

 振り上げた手が頬を打つ、そう思っていたのだが、強く両肩を掴まれた。

「命を要らぬというのなら、我が貰い受けよう」

 とそのままベッドの上へと組み敷かれて、一瞬、頭の中が真っ白になった。だが、気が付いた時には寝間着の衿を広げられていた。

「なっ」
「両腕がなくとも、これなら俺の役にたつ」

 包帯の上から肌を撫でられる。

「いけません、団長」
「黙れファース。今日からお前は俺の夜伽よとぎの相手をしろ」

 流石にこれから自分の身に何が起きるのかはわかった。ファースはヴェンデルよりは幾分か体格が良いのだが、両腕がない彼には行為を止める術が足しかない。だが押さえつけられてしまえばそれすら出来ずにされるがままとなる。

「団長っ」

 どうにか冷静になり行為を止めてもらいたい。必死に声を掛けるが、

「煩い」

 とキスで言葉を塞がれて、帯を解かれて下穿を外してしまう。むき出しとなったマラに躊躇なくヴェンデルの手が触れて扱きはじめる。

「いけません、団長っ」

 身をよじり逃れようとするが上手くいかない。

「黙れ。お前も男なら、ここをこうされると気持ちが良だろう?」

 立ちあがりかたくなった箇所は感じやすくなり、先の方を爪でカリカリと弄られて甘く痺れて身体が跳ねてしまう。

「あ、うっ」
「ほう、こんなに蜜をこんなに垂らして。甘いかどうか舐めて確かめてやろう」

 ぬるりとした感触。舌先が蜜の溢れる場所を舐めとる。

「貴方が、そんな所を舐めるなど」
「では咥えよう」

 と躊躇うことなくそれを咥えた。

「ひぃ、なぜ、こんな事をっ」

 口では駄目だと言いながら、身体はそれを気持ち良く感じて痺れてしまう。

「あんなに逝かせろと言っておったじゃないか。だから俺の口の中で気持ち良くなってイけ」

 卑猥な音と共に快楽が襲う。このままではイってしまう。

「あぁっ、後生ですから」
「イくが良い」
「団長……、くっ、あぁっ」

 のぼりつめた熱はヴェンデルの口の中へと放たれ、一滴たりとも逃さないとばかりに吸われてしまう。それが更なる熱を生む。

「ふ、こんなものではないだろう?」

 再び立ちあがったモノを見て弓なりに目を細める。

「どうか……、お許しください」

 ヴェンデルの口内に放っただけでは物足りずに欲を曝け出す。あまりに自分が情けない。涙が頬を伝わり落ちていく。 

「だめだ。許さない」

 涙を親指が拭う。

「俺の辛さをお前も味わうがいい」

 仕置きだと言われてキスをされ、手が再び下半身のモノへと触れて高みにのぼらされた。

 枯れるまでイかされ、包帯は汗と血で濡れた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

処理中です...