4 / 4
4
しおりを挟む
数か月後、屋敷にヴェンデルの姿がある。
「団長」
「退団を許したが、それで二度と会わんとは言っていないぞ?」
ヴェンデルの腕をもてば、馬を走らせ半刻ほどでたどり着く距離だ。会おうと思えばいくらでも行き来できる。
「そうでしたね」
あの思いだけあれば生きていける。だから自分からはヴェンデルに会う事はしない。そう思っていた。
「そう簡単に離れられると思ったか」
抱きしめられ、肩に額をつける。
「ファース、お前の残りの人生は俺が頂く。異存はないな」
「……はい」
「ついでに、お前はもう退団したんだ。昔のように名で呼んでくれ。敬語も無しだ」
ヴェンデルが団長になったのを気に敬語で話し、団長と呼ぶようになった。
二人きりになる度、友なのだからと言われてきたが頑なに断っていた。
騎士としている間はいくら友であっても、団長と隊員であるからにはそれがけじめだと思っていたからだ。
だが、もうそれも必要ない。
「あぁ、そうだなヴェンデル」
そう名で呼んだ瞬間、ヴェンデルが花が咲いたように微笑んだ。
「なっ」
なんと眩しい事か。
たかが名前。それなのにそんなに嬉しいものなのか。
「ずっと、そう呼ばれたかったぞ」
「これからは、いつでもそう呼んでやる」
その身を抱きしめたいのに抱きしめられない。
だが、かわりにヴェンデルが抱きしめてくれる。
「愛しているぞ」
やっと手に入れたと、額に、頬にとキスを落とす。
「こんなに愛されて、俺は幸せ者だな」
「そうだぞ。俺は一途にお前を想い続けてきたんだ。これからはお前も俺を一途に愛し続けろよ?」
「はは、昔から俺はお前だけだ」
本当の想いに気が付いたのは最近だが、ずっとヴェンデルだけだった。
「あぁ、くそっ、俺を煽るな」
「ふ、好きにすればいい。俺はお前のなんだろう?」
「その通りだ」
とキスをし、軽々と抱き上げられた。
ヴェンデルは暇さえあればファースの元へと来るようになった。そして世話をやきはじめるのだ。
起きると着替えをさせてくれ、顔を濡れた手拭いで拭いてくれて朝食を食べさせてくれる。
トイレへいくと、後から抱きしめられて手が怪しい動きをしはじめる。何回かに一度はそこで尿だけでなく精を放つことになる。
夕刻には風呂を共にし、そこでは一緒に精を放つ。
そして夕食を食べさせてもらい、ゆるりと出来る時は閨でまぐあい、帰る時はキスのみで屋敷に戻っていくのだ。
ヴェンデルが来ない日は子供達の剣術を見たり、現役を退いた仲間とチェスを楽しむ。
口で絵を描く楽しみも覚え、下手ながらも描き続けている。
「あの時、俺の命を貰い受けて下さりありがとう」
生きていてよかったと思えるようになったのはヴェンデルのお蔭だ。
自分を救ってくれただけではなく、愛情もそそいでくれたのだから。
「お前は俺のモノだからな。二度と勝手は許さないぞ?」
「あぁ。ヴェンデルが救ってくれた命、大切にするよ」
互いの唇が自然と吸い寄せられて触れる。折よく稽古を終えた子供達が庭へとやってきて、
「あー、だんちょうとファースさんがキスしてる」
やんややんやとはやしたてる。
「ははは、これは参ったな」
ヴェンデル笑い、つられるようにファースも笑う。
もともと彼は良く笑う男であった。騎士団に入ってからは笑顔が少なくなっていたが、この頃は楽しそうな顔をするようになった。
心が安らぐのであれば嬉しいことだし、こうして共に笑い合えることが幸せだ。
「お前たち、向こうで菓子を貰っておいで」
それを聞くと子供達はよい返事と共に向こうへと行く。それを見つめ、ふ、とヴェンデルを見ればその視線にきがついたか、こちらを見て微笑んだ。
「団長」
「退団を許したが、それで二度と会わんとは言っていないぞ?」
ヴェンデルの腕をもてば、馬を走らせ半刻ほどでたどり着く距離だ。会おうと思えばいくらでも行き来できる。
「そうでしたね」
あの思いだけあれば生きていける。だから自分からはヴェンデルに会う事はしない。そう思っていた。
「そう簡単に離れられると思ったか」
抱きしめられ、肩に額をつける。
「ファース、お前の残りの人生は俺が頂く。異存はないな」
「……はい」
「ついでに、お前はもう退団したんだ。昔のように名で呼んでくれ。敬語も無しだ」
ヴェンデルが団長になったのを気に敬語で話し、団長と呼ぶようになった。
二人きりになる度、友なのだからと言われてきたが頑なに断っていた。
騎士としている間はいくら友であっても、団長と隊員であるからにはそれがけじめだと思っていたからだ。
だが、もうそれも必要ない。
「あぁ、そうだなヴェンデル」
そう名で呼んだ瞬間、ヴェンデルが花が咲いたように微笑んだ。
「なっ」
なんと眩しい事か。
たかが名前。それなのにそんなに嬉しいものなのか。
「ずっと、そう呼ばれたかったぞ」
「これからは、いつでもそう呼んでやる」
その身を抱きしめたいのに抱きしめられない。
だが、かわりにヴェンデルが抱きしめてくれる。
「愛しているぞ」
やっと手に入れたと、額に、頬にとキスを落とす。
「こんなに愛されて、俺は幸せ者だな」
「そうだぞ。俺は一途にお前を想い続けてきたんだ。これからはお前も俺を一途に愛し続けろよ?」
「はは、昔から俺はお前だけだ」
本当の想いに気が付いたのは最近だが、ずっとヴェンデルだけだった。
「あぁ、くそっ、俺を煽るな」
「ふ、好きにすればいい。俺はお前のなんだろう?」
「その通りだ」
とキスをし、軽々と抱き上げられた。
ヴェンデルは暇さえあればファースの元へと来るようになった。そして世話をやきはじめるのだ。
起きると着替えをさせてくれ、顔を濡れた手拭いで拭いてくれて朝食を食べさせてくれる。
トイレへいくと、後から抱きしめられて手が怪しい動きをしはじめる。何回かに一度はそこで尿だけでなく精を放つことになる。
夕刻には風呂を共にし、そこでは一緒に精を放つ。
そして夕食を食べさせてもらい、ゆるりと出来る時は閨でまぐあい、帰る時はキスのみで屋敷に戻っていくのだ。
ヴェンデルが来ない日は子供達の剣術を見たり、現役を退いた仲間とチェスを楽しむ。
口で絵を描く楽しみも覚え、下手ながらも描き続けている。
「あの時、俺の命を貰い受けて下さりありがとう」
生きていてよかったと思えるようになったのはヴェンデルのお蔭だ。
自分を救ってくれただけではなく、愛情もそそいでくれたのだから。
「お前は俺のモノだからな。二度と勝手は許さないぞ?」
「あぁ。ヴェンデルが救ってくれた命、大切にするよ」
互いの唇が自然と吸い寄せられて触れる。折よく稽古を終えた子供達が庭へとやってきて、
「あー、だんちょうとファースさんがキスしてる」
やんややんやとはやしたてる。
「ははは、これは参ったな」
ヴェンデル笑い、つられるようにファースも笑う。
もともと彼は良く笑う男であった。騎士団に入ってからは笑顔が少なくなっていたが、この頃は楽しそうな顔をするようになった。
心が安らぐのであれば嬉しいことだし、こうして共に笑い合えることが幸せだ。
「お前たち、向こうで菓子を貰っておいで」
それを聞くと子供達はよい返事と共に向こうへと行く。それを見つめ、ふ、とヴェンデルを見ればその視線にきがついたか、こちらを見て微笑んだ。
9
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される
水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。
行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。
「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた!
聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。
「君は俺の宝だ」
冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。
これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる