懐かぬ猫と寂しがり屋

希紫瑠音

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誕生日に振り回される

(2)

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 買い物を済ませて家に帰る間、荷物を全部持たせてやった。持つと言ったのは神野だしな。

「ただいま」
「おかえりなさい」

 玄関で声を掛ければ弟のとおるが出迎えてくれる。

 透は中学三年生で、俺と違って人懐っこくて可愛らしい顔をしている。いつものように表情を緩めていると、

「そういう顔もするんだね」

 神野に言われてしまう。あ、透に意識がいっていて一瞬忘れていた。

 すぐに表情を引き締めれば、勿体ないと言われる。

「お兄ちゃん、お友達?」
「いや、ただの同級……」
「そう、友達の神野だよ。葉月とは同じクラスなんだ」
「はぁ、友達じゃ」
「そうなんだ。僕は透。よろしくね神野さん。中へどうぞ」

 訂正しようとするが、話はどんどん進んでいく。

「宜しくね。お邪魔します」
「いや、だから」
「今ね、ゲームをしていたんだけど、神野さんも一緒にやらない?」
「いいよ」

 と、リビングへと向かう。結局、訂正はすることが出来ぬまま俺はキッチンへ。

 荷物はテーブルに置かれており、俺はケーキを作る為の材料を取り出し、残りは冷蔵庫へとしまう。

 実はおやつ作りも慣れたもの。透の為に作っているから。

 まぁ、どうせ神野は貰う専門だろうよ。うらやましくなんてねーから。俺は自分で作れるしって、なんだか虚しい気持ちになるな、これ。

「さて、作るか」

 プレーンとココア味のカップケーキを作る。予熱しておいたオーブンへといれて焼きはじめる。焼き上がりは二十分くらい。その間に珈琲をセットし、生クリームを泡立てておく。

 そうこうしているうちに焼き上がり粗熱をとったあと、プレーンの方は生クリームでデコレーションし苺をのせる。ココア味は粉砂糖をまぶした。

 後は神野の分にハッピーバースデーと書かれたピックを差して完成だ。

 皿に二種類のカップケーキをのせて二人の前に出す。

「マジ、うれしい」

 ピックに触れ、ありがとうと口元に笑みを浮かべる。女子達がカッコイイと黄色い声が上がる、爽やかスマイル。

 俺が同じことをすると悲鳴が上がるヤツな。

「お誕生日おめでとう、神野さん」

 透がそう口にした途端、じっとこちらを見る。お祝いの言葉はと言いたいんだろうけれど、俺は知らぬふりをする。

 そんな俺の態度に苦笑いをし、

「葉月、何か言い忘れてない?」

 と催促をするように言うので、

「二度も言う必要はねぇ」

 俺は冷たくそういい返す。

「えぇっ、葉月からのお祝いの言葉は何度でも嬉しいんだけどな」

 そんな二人のやりとりを見て透が楽しそうに笑う。

「お兄ちゃん達って仲良しだね」
「はぁ? 冗談」
「だよね」

 俺と神野の声が重なり、互いに顔を見合わせる。

 なんだ、その嬉しそうな表情は。イケメン故に破壊力が半端ない。眩しくて目を細める。

「頂きます」
「ほら、さっさと食え。そろそろ塾に行く時間だぞ」
「あ、本当だ。頂きます」

 アイスコーヒーをわたし、ガムシロップと牛乳をテーブルに置く。

 透は両方入れていたが神野はそのまま飲む様だ。

「頂きます」

 生クリームの方を一口。神野が相好を崩す。

「美味い」
「だろう?」

 褒められれば気分は良くなるもので、特別にと俺の分の苺を目の前に差し出せば、目を瞬かせて「俺に?」と自分を指さす。

「ほら、あーん」
「……え?」

 驚いた顔をする神野にを見た瞬間、透にすることを無意識にしまった事に気が付いて恥ずかしくなる。

 流石にこれはねぇよな。

 手を引っ込めようとしたが掴まれてしまい、そのまま口元へとはこんでいく。

「なっ」
「うん、美味い」

 目を細めて口角を上げる神野の、その表情に胸がざわついた。

 何だよこれ。

「ゴチソウサマ」

 と髪を撫でられ、目を見開いたまま胸に手を押さえる。

 神野は透と話をし始め、俺は落ち着かぬまま、空いた皿を片付け始めた。





 透が塾へと行ってしまい部屋に二人きりとなる。

 神野がいると落ち着かないので帰って欲しかった。

「そろそろ家のことをしたいから帰れよ」

 帰らせようとそう口にするが、

「用が済んだら追い出す訳?」

 と言い返してくる。

「そうだよ。目的は果たしただろう!」

 早く帰れと迷惑そうな顔をして見せても全然気にする様子はない。それところか、

「冷たいな、葉月は」

 なんていう始末だ。

「ふざけんな」

 これ以上、付き合う気はねぇ。無理やりにでも帰らせようかと彼のすぐそばに立つ。

「誕生日なんだからさ、少しぐらい良いだろ?」

 ソファーに座ったまま、動こうとしなでこちらを見上げる。

「俺には関係ない」

「関係なくない」

 そう言うと、腕を掴まれ引っ張られた。

「なっ」

 バランスを崩しソファーの上に倒れ込めば、神野の手が頬へと触れて撫でられた。

「やめろよ」

 それでなくとも落ち着かないのに、余計に困る。その手を払いのけようとするが、

「俺さ、好きな人に誕生日を祝って貰った事が無くてね」

 ふ、と、寂しそうな表情を浮かべる神野に、その手はぴたりと止まる。

「俺の親って小さい頃に離婚しててさ。母親は仕事で忙しい人でね。誕生日も、好きなプレゼントを買えって金を渡されてね。なんかさ、虚しくならない?」

 だからなのか。俺にケーキを手作りしろと強請ったのは。

 弁当だって、家庭の味に飢えているから、あんなに美味そうに食べるのか。

「だから、せめて葉月だけは俺の誕生日を祝って欲しい」

 それは俺を友達として好きだと思ってくれているという事か。

 クラスの誰でもない、この俺を、だ。

「うわぁ、その反応、やばいって」

 俺を見た神野が両手で顔を覆う。

 何、俺、今、気持ち悪い表情でも浮かべているのか?

「可愛い」
「なっ!」
「もう、さっきから何なのっ。あーんとか、してくるしさぁ。俺、葉月が可愛くてしかたがないよ」
「可愛い、だと!?」

 見た目が怖いと散々言われてきた俺を可愛いだなんて。

「前にさぁ、葉月の作ったおかずを美味しいって褒めた時もさ、嬉しそうに頬染めちゃってさ、たまんないね」

 普段、家族以外に褒められる事がないから、つい顔に出てしまっただけで、まさか、いつも何かを呟いていたのは、俺を可愛いって言っていたのだろうか。考えるだけでいたたまれない気持ちとなる。

「あぁ、もうっ、お前、マジで帰って」

 これ以上、何かを言われたら、俺の気持ちが保てねぇ。

「俺ね、葉月ともっと仲良くなりたいから、これからは教室でも遠慮しないから」

 神野を追い出し玄関のドアの前に座り込む。

 きっと女子には睨まれるだろうし、前のように喧嘩を吹っかけられるかもしれない。

 やっかいな奴にまとわりつかれたと、明日からの事を思うとウンザリとした。
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