寂しがりやで強がり

希紫瑠音

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秀次2

謝罪と抱擁(4)

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 そんなに目立つ人なのか、知っていたかと葉月に聞けば、知らないと首を横に振る。

 そうだよな、俺だけじゃなかった。

「悟郎は他人に関心なさすぎ。田中は女子にしか興味なかったものな」

 その通りです。女子の前でいい恰好をみせたいとそればかり考えていた。

 だからあの頃の俺は神野と仲良くなりたかったんだ。

「うるせぇよ。男はそんなモンだろう」
「まぁ、そうかもな」

 と神野が苦笑いを浮かべ、葉月が頷いた。

 早く会って話がしたい。そう思い、美術室のベランダを見上げれば、そこに橋沼さんの姿はなく、気持ちが焦り始める。

「葉月、神野、今日は話を聞いてくれてありがとうな」
「いや。今の田中は悪くねぇ、よ」

 そう葉月が俺の肩を叩く。

「行けよ。先輩が待っているんだろう」
「あぁ。行くわ」

 二人に見送られ、俺は橋沼さんの待つ場所へ向けて走っていった。

 ドアを開けると橋沼さんが俺を出迎えるように手を広げて、その胸におもいきり飛び込むと、しっかりと受け止めてくれた。

「猪突猛進だなぁ」

 何を言っているか意味がわかんねぇけど、謝ることができたと伝えたかった。

「言えたよ、橋沼さんっ」

 少し興奮気味な俺をなだめるように、

「あぁ。よかったな」

 と大きな手が俺の頭を撫でる。

 これだ。俺は橋沼さんにこうしてほしかったんだ。

 嬉しいときや悲しいときに傍にいて慰めたり勇気つけたり、抱きしめたり頭を撫でてスキンシップをする。そんなことができる関係になりたかったんだ。

「橋沼さんのお蔭で勇気がもてたんだ。なぁ、俺と、友達になってくれないか?」

 この歳でいうのって、非常に照れくさいもんだな。

 ちらっと橋沼さんを見ると黙ったまま俺を見ている。あれ、これって失敗したかも。

「ごめん、今のは取消……」
「なんだ、田中と俺は友達じゃなかったんだ」

 言葉が重なり合あい、

「そうなの」
「え、取り消すの?」

 とさらに重なり合った。

 引かれたかと思った。良かった、友達になってくれるってことだよな。ホッとしたよ。

「そうだな、じゃぁ、互いに下の名前で呼び合うか」

 俺もこれからは田中ではなく秀次と呼ばせてもらうからと言われ、一気にテンションが上がる。

「いいのかっ」

 名前呼びだと友達感が増すよな。これからは橋沼さんじゃなくて総一さんと呼ぶのか。なんか、こういうの久しぶりだわ。照れるやら嬉しいやらで口元が緩む。

「あぁ。ほら、呼んでみろ。総一センパイって」

 語尾にハートをつけろよと言われ、流石に少し引いた。

 それ、俺が言ったらただキモイだけじゃん。何を考えているんだと総一さんにジト目を向けた。

「可愛く言えよ」

 これは……、完全に遊んでるな、このやろう。

「総一先輩」

 指でハートの形を作る。あまりにキモくて自分にまでダメージがかえってきた。

 総一さんは口元を手で押さえて震えている。絶対、笑ってやがる。

 くそ恥ずかしいじゃねぇか。

「笑ってんなよ。リクエストにこたえてやったのに」
「ありがとうな、秀次」

 目尻を下げて俺を見ている。なんか、橋本さんがブニャにデレてる時に見せる表情だ。

 くそ、図体のデカイ男を可愛いと思う日がこようとは。

「特別だからな」

 と言い返せば、総一さんは俺の髪を乱暴にかきまぜた。

「わ、ちょっと」

 力が強いから、首が右に左にと揺れる。やめてとその手を掴めば、動きが止まった。

「よし、早速、連絡先を交換しよう」

 スマートフォンをポケットから取り出して、目の前で振るう。

 名前呼びの次は連絡先の交換か。それをし終えて、電話帳を確認する。

 はの行。そこに名前を見つけて、嬉しさがじわじわと込み上げてくる。

「そんなに喜んでもらえるなんて、嬉しいぞ」

 もしかして顔にでてた? 恥ずかしくて総一さんから顔を背けると、頬に柔らかい感触が。

 あれ、これって……。

 そこに手をやり、そしてゆっくりと総一さんを見る。まさかな。キスされる理由なんてないし。

 気のせいだ。きっとあれはなんでない。

 だが、今度は頬に当てた指に柔らかいものが触れて、しかもぬるりと感触までプラスされる。

「て、なにしてくれんの、俺に!」

 なんで、キスしてんの。それに指を舐められたし。

「懐かないにゃんこが甘えてきたから、つい、な」

 と総一さんが言う。

 あぁ、なんだ。猫扱いね、俺は。総一さんならやりかねないか。

「はぁ、俺だからいいものを。他の人だと勘違いされるぞ」
「そうだな。こういうことは秀次だけにする」

 いや、俺だけって、できれば勘弁してほしい。胸がざわざわとして落ち着かない。

「駄目か?」

 怒られた犬のようにしゅんとする総一さんに、駄目だなんて言えないっ。

「わかったよ」

 と言うと、表情が明るくなる。

 驚いたけれど別に嫌じゃなかった。相手が総一さんだからだろうな。

 それにしても、意外とスキンシップが激しいのな。俺だけとか言っていたけれど、なんだか胸がもやもやとした。
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