聖女と呼ばれても、そこそこ暮らしが一番です~秘密の種は異世界お婆ちゃんの知恵袋~

ユーリアル

文字の大きさ
57 / 64

GMG-059「日常への帰還」

しおりを挟む

「これと、あれも買って帰ろっと」

「食べ物とかはわかるけれど、その辺は育てるつもり?」

 王都となると、お店の数もかなりの物。
 そこで売っている物も多種多様だ。

 郊外にいけば、探索者向けの雑貨なんかもたくさんあった。
 武具や、道具、そして薬草など。

「魔法だけだと、限界がありますしね。これでもっと広がればいいなって」

 本当は私がやるようなことじゃあ、ないのかもしれない。
 でも、何かしてないと……少しだけ、不安なんだ。

 お婆ちゃんの記憶が、何かあった時にあれがあればという経験を思い出させる。
 私にはよくわからないけど、戦争ってことだけはわかる。
 選んで、拾えたもの、拾えなかったもの。

「ふふっ、ターニャちゃんは勉強熱心よね。あら? あれお兄さんたちじゃない?」

「え? あ、ほんとだ!」

 まだ王都に2人とも、いたんだ!

 あっちも私に気が付いたみたいで、駆け寄ってくる。
 旅支度って感じだから、結構ぎりぎりだったかな?

 2人とも、私の買った物を見て、少し驚いた様子だったけどいつもの様子に戻った。
 なんなら一緒に戻ろうということで、合流となる。

 2人の乗ってきた馬車は、シーベイラで共同利用している物。
 実は私が稼いだお金を寄付する形になっているから、今回はそれを使ったみたい。
 それと比べると、私が乗る予定の物はかなり大きい。

「専用の馬車まで買えるとは……ターニャ、気を付けるんだよ」

「ええ、もちろん。ワンダ様に預かってもらえないかお話するわ」

 さすがにカンツ兄さんは、私がどれだけの稼ぎになったかを感じたようだ。
 というのも、竜の鱗はほとんどを国に買い取ってもらった。
 たくさんありすぎても、狙われそうで怖かったのだ。

(一応、実験材料に分けてもらってるけれども)

 私も、お婆ちゃんも知っているようなおとぎ話とかからすると、竜の素材は何かと話が派手だ。
 もしかしたら、水薬もとんでもない効能になるかもしれない。

 どこでそんな実験をしたらいいかという問題もあるし、多すぎる現金をどうするかも。
 外からはわからないだろうけど、今この馬車はそこらの商人じゃ勝てないほどの現金がある。

「変な視線はないな。大丈夫そうだ」

「こちらもです。行きましょうか」

 アンリ兄さん、そしてマリウスさんに外を警戒してもらい、シーベイラへと向かう。
 運んでる物を考えると、もっと護衛の人を雇った方がいいのかもしれない。

(けど、お婆ちゃんは逆効果かもって思うんだ……)

 思い浮かべるのは、宝くじってのに当たった人のその後の話。
 お金があるってわかると、知らない人もたくさん寄ってくるってひどい話だった。
 私もそうなる前に、しかるべきところに預けて、上手く使ってもらおう。

「その考えは良いと思うけどね。たぶん、上手く行くともっと増えるんじゃないかな」

「そっかぁ……」

 カンツ兄さんの、ある意味冷静な分析に少し落ち込むようにすると、シロが慰めてくれた。
 袋から出て、私の足を枕にしていたところで顔をあげて舐めてくるシロ。

 そうだ、私はこの子もちゃんと育てないといけない。
 こんなところで、落ち込んでる場合じゃないよね。

 いざとなったら、魔法で追い払う覚悟を決めてシーベイラへの数日を過ごす。
 家族も一緒の旅は、やっぱり気分が違う。

 しばらくはゆっくりしたいな、そう思いつつ近づいてくる故郷を見るべく御者席に座る私。
 風がいい感じに吹いていて、残っている暑さを飛ばしていくようだった。
 そう、いつの間にか夏は終わり、秋が目の前だった。

 先にワンダ様のところに寄ってから帰るか、悩んだけれど手紙だけは出しておくことにする。
 いきなり大金や、色んなものを持ち込まれても困るもんね。
 今さらと言えば今さらかもしれないけど……も!

 それ以外には特に問題は起きず、シーベイラが見えてくる。
 町の人たちは、私が帰ってくるのを知ると元気に話しかけて来た。
 私も、またあとでねなんて手を振りながら答える。

(帰ってきた、って感じ)

 私の生まれ故郷……ではないけれど、やっぱりシーベイラは私の故郷だ。
 何も変わらないっていうのは無理だろうけど、落ち着ける場所であってほしいなと思うのだった。

「ターニャ、お疲れ。俺は適当に仕事を探してくるよ」

「私も店にいかないと……」

 既に独り立ちしている形の兄2人は、それぞれに仕事がある。
 今回も、無理を言って王都に来てもらったのだから仕方がない。
 少し寂しい別れの挨拶をして、我が家に向かえば……ちょっとふくよかになったかな?という3人。

「お帰りなさいませ、ターニャ様」

「ただいま。元気だった?」

 先頭で挨拶をしてきたカイ君も、出会った頃よりちょっと大きくなったかな?
 聞いてみると、やはり丘は海より生活しやすい、なんて帰ってきた。
 そりゃあ、お水も食料も限られる海の上とは違うよね……。

 太ったというより、元々このぐらいの体格だったかなと思う感じだったので気にしないことにした。

「中身は気にせず、この辺に運んでもらおうかな」

「わかりました!」

 そうして、私を含めて5人で運び込んだ鱗なんかの売却金が詰まった木箱を一か所に集め……閉じ込める。
 魔法を使って、がっちがちだ。砂を岩のように固めてるから、持っていくのは大変。
 砕こうと思えばかなりの音が出るし、そう簡単には壊れないはず。

 魔法使いなら話は違うだろうけど、そんな腕の魔法使いが、ここだけを狙いに来るとは思えない。

「はーっ、やっと落ち着いたわ」

「ひとまず報告を。薬草の栽培、販売は順調です。極端に増えもしませんでしたが、枯れるようなこともありませんでした」

 引き取って雇っている形の3人からの報告か、シーベイラを中心としてけが人が減るだろうと予想できるもの。
 正確には、治療できる人が増えている、ってことになるのかな。
 水薬の相場も、だいぶ安定してるらしいし……いいことだ。

「何をするって決めてはいないけど、また明日からよろしく!」

 これでまた、ゆっくりと色んな事を試せる。
 何からどうしようかと、あれこれと考える私だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...