あの日交わした約束がセピア色にかわっても

紫水晶羅

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母親だなんて思ってない

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 運動会終了後、紫雲は仲良くなった子どもたちと握手したり、写真を撮ったりと大忙しだった。
 その中には、母親の姿もちらほら見られるから驚きだ。カメラを構える父親の心中は、如何なるものか。

 最後の家族を送り出すと、ようやく園は静かになった。
「楽しかったです! また何かあったら声かけて下さい!」
 爽やかな笑顔で挨拶する紫雲に、「ありがとう。またお願いね」園長が満面の笑みで答える。
 一応、受験生なんですけど……。
 美空は心の中で呟いた。親の心子知らずとは、この事か。


 紫雲が帰った後、若い保育士たちに「どういうご関係なんですかぁ?」と、ハートが散りばめられた眼差しで聞かれたが、美空は「昔担任してた子だよ」と誤魔化した。

 晴斗との関係は、まだ公表していない。知っているのは恵令奈と哲太だけだ。
 登坂親子にもその旨は話してあったので、紫雲も口裏を合わせてくれたようだ。
 今回のことは、たまたま近くを通りかかったら運動会をやっていたので、懐かしくて思わず立ち寄ったという事にしてある。

 彼には今度、何かお礼をしなければなるまい。
「何がいいかな?」
 紫雲の喜ぶ顔を想像し、美空は思わず笑みをこぼした。

「なぁに? ニヤニヤしちゃって」
 思案しながら廊下を歩く美空を、恵令奈がすかさず捕まえた。
「別に、ニヤニヤしてなんか……」
 平静を装ったが、恵令奈には全てお見通しだったようだ。
「可愛い息子のことでも考えてたんじゃないの?」
 さすがは百戦錬磨の恵令奈様だ。経験豊富は伊達じゃない。
「違うから!」
 ムキになって否定したが、かえって逆効果だったようだ。
 恵令奈の瞳がキラリと光った。

「よし! 打ち上げしよう!」
 突然話の矛先が変わり、「へっ? いつ?」美空は間抜けな声を上げた。
「そりゃあ、今日に決まってんじゃん!」
「今日?」
「そ。鉄は熱いうちに打てって言うじゃん」
「あの……。言ってる意味が……」
 呆然とする美空とは対照的に、恵令奈はますますヒートアップする。
「いつもの居酒屋で六時ね。哲太先生にも言っとく」
「え? ちょっと……」
「それと……」
 不敵な笑みを浮かべた恵令奈が、美空に顔を近づけた。

「紫雲君も連れてくること」

「……」

 暫く沈黙した後。

「ええええええええっ!?」

 園内に、美空の叫びが響き渡った。

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