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ふたつのプレゼント
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しおりを挟む食事の支度を終え、美空がロフトを覗き込むと、紫雲はこちらに背を向け座っていた。
「何見てんの?」
美空の声にピクリと背中を動かすと、紫雲は神妙な顔で振り向いた。
「これ……」
躊躇いがちに差し出されたそれは、淡い紫色の箱だった。
「あ……」
「まだ……、持っててくれたんだ……」
箱の中には、シロツメクサで作られた小さな花冠が入っていた。すっかり色が変わったそれは、乾燥して所々花弁が取れている。
「うん。だって、紫雲君が一生懸命作ってくれた物だから」
美空はそれを受け取ると、懐かしそうに目を細めた。
貰って暫くは壁にかけていたが、乾燥するにつれ形が崩れてきたので、箱に入れて大切に保管していたのだ。箱の色は、紫雲の名前にちなんでいる。
「色、だいぶ変わっちゃったけどね」
「セピア色……」
紫雲がポツリ呟いた。
「そう、セピア色。昔の写真みたいな色」
「美空さん……」
「ん?」
「もしも……、もしも俺が……」
「何……?」
思い詰めたような紫雲の瞳が、美空を映して僅かに歪む。
「今もまだ……、あの日の約束……覚えてるって……言ったら……?」
「え……?」
美空はゴクリと喉を鳴らした。
「今もまだ……、美空さんのこと……」
「紫雲……君……?」
「お嫁さんに……」
「待って!」
美空は慌てて、紫雲の言葉を遮った。
胸の鼓動が速くなる。水面に波紋が広がるように、徐々に身体が震え出す。
「どうしたの? いきなり」
わざと惚けた口調で、美空は聞いた。
「美空さん……」
「なんか、変だよ? 紫雲君」
動揺を悟られないよう、おどけた顔で美空は笑った。
「あ……」
一瞬、ハッとしたように大きく目を見開いたあと、紫雲は瞳を左右に彷徨わせた。
紫雲の口が、戸惑うように僅かに開く。ははっと笑うと、「冗談」紫雲は大きく息をついた。
「お嫁さんじゃなくて、お母さんだもんね、美空さん」
「そう……だよ」
手の震えを誤魔化すように、美空は拳を握りしめた。
「あの頃の俺に教えてあげたいなぁ」
宙を見つめ、紫雲は顔を綻ばせた。
「なんて?」
「大好きな美空先生が、お母さんになるんだぞって」
「大好きって……」
「そう。めっちゃ好きだった。今だから言うけど……って、もう父さんにバラされちゃったか」
自虐的に笑うと、紫雲はそっと瞳を閉じた。
「紫雲君……」
「だから……」
ゆっくり目を開け、紫雲が美空に向き直る。
紫雲の瞳が、光を蓄え小刻みに揺れた。
「幸せになってね。美空さん……」
潤んだ瞳を歪ませたまま、紫雲はにっこり微笑んだ。
「……ありが……とう……」
ぎこちない笑顔で、美空は答えた。
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