あの日交わした約束がセピア色にかわっても

紫水晶羅

文字の大きさ
28 / 90
ふたつのプレゼント

しおりを挟む

 食事の支度を終え、美空がロフトを覗き込むと、紫雲はこちらに背を向け座っていた。
「何見てんの?」
 美空の声にピクリと背中を動かすと、紫雲は神妙な顔で振り向いた。
「これ……」
 躊躇ためらいがちに差し出されたそれは、淡い紫色の箱だった。

「あ……」
「まだ……、持っててくれたんだ……」
 箱の中には、シロツメクサで作られた小さな花冠が入っていた。すっかり色が変わったそれは、乾燥して所々花弁はなびらが取れている。
「うん。だって、紫雲君が一生懸命作ってくれた物だから」
 美空はそれを受け取ると、懐かしそうに目を細めた。
 貰って暫くは壁にかけていたが、乾燥するにつれ形が崩れてきたので、箱に入れて大切に保管していたのだ。箱の色は、紫雲の名前にちなんでいる。

「色、だいぶ変わっちゃったけどね」
「セピア色……」
 紫雲がポツリ呟いた。
「そう、セピア色。昔の写真みたいな色」
「美空さん……」
「ん?」
「もしも……、もしも俺が……」
「何……?」

 思い詰めたような紫雲の瞳が、美空を映してわずかに歪む。

「今もまだ……、あの日の約束……覚えてるって……言ったら……?」
「え……?」
 美空はゴクリと喉を鳴らした。
「今もまだ……、美空さんのこと……」
「紫雲……君……?」

「お嫁さんに……」

「待って!」
 美空は慌てて、紫雲の言葉を遮った。
 胸の鼓動が速くなる。水面みなもに波紋が広がるように、徐々に身体が震え出す。
「どうしたの? いきなり」
 わざととぼけた口調で、美空は聞いた。
「美空さん……」
「なんか、変だよ? 紫雲君」
 動揺を悟られないよう、おどけた顔で美空は笑った。
「あ……」
 一瞬、ハッとしたように大きく目を見開いたあと、紫雲は瞳を左右に彷徨わせた。
 紫雲の口が、戸惑うように僅かに開く。ははっと笑うと、「冗談」紫雲は大きく息をついた。

「お嫁さんじゃなくて、お母さんだもんね、美空さん」
「そう……だよ」
 手の震えを誤魔化すように、美空は拳を握りしめた。
「あの頃の俺に教えてあげたいなぁ」
 宙を見つめ、紫雲は顔を綻ばせた。
「なんて?」
「大好きな美空先生が、お母さんになるんだぞって」
「大好きって……」
「そう。めっちゃ好きだった。今だから言うけど……って、もう父さんにバラされちゃったか」
 自虐的に笑うと、紫雲はそっと瞳を閉じた。
「紫雲君……」
「だから……」

 ゆっくり目を開け、紫雲が美空に向き直る。
 紫雲の瞳が、光を蓄え小刻みに揺れた。

「幸せになってね。美空さん……」

 潤んだ瞳を歪ませたまま、紫雲はにっこり微笑んだ。
「……ありが……とう……」
 ぎこちない笑顔で、美空は答えた。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の肩書き

菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。 私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。 どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。 「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」 近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...