あの日交わした約束がセピア色にかわっても

紫水晶羅

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冗談だよ

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 晴斗から連絡が来たのは、その週の金曜日だった。

『今日何時に帰れる?』

 休憩に入りがてら美空がスマホを確認すると、LINEでメッセージが入っていた。
『四時半には園を出られると思います』
 今日の勤務は早番だ。突発的なことでも起こらない限り、その時間には退勤できるだろう。

「急にどうしたんだろう?」
 美空が不思議に思っていると、再び晴斗からメッセージが届いた。

『悪いんだけど、紫雲迎えに行ってくれる?』

 ドクンという大きな音が、美空の全身を駆け抜けた。
『どこに?』
 震える指で、美空は返した。
『学校』
『どうかしたんですか?』
『あいつ、また鍵忘れたって。実はよくやるんだよね』
『そうなんですか』
『今日、雨だからバスで行ったんだけど、慌てて出てったから忘れたらしい。俺が行ければいいんだけど、急に残業が入っちゃって』

 普段、紫雲は自転車通学をしている。しかし、雨天は危険な為、バスで通学することになっている。
 わかりましたと打とうとした時、一足早く晴斗のメッセージを受信した。

『良かったら、今夜うちでご飯食べよう』

「え……?」
 咄嗟にスマホから指を離し、美空は画面をじっと見つめた。
『たまには鍋が食べたいな。あいつと二人じゃ滅多にしないし』『帰りに食材買ってきてくれる?』
 美空が見守る中、スマホが無機質な音を立てた。 

 帰りにということは、紫雲と二人でスーパーに行けということだ。
 誕生日におかしな別れ方をして以来、紫雲とは連絡を取り合っていない。
 一体、どんな顔をして仲良く鍋をつつけというのか? ましてや一緒にスーパーで買い物など、想像するだけで恐ろしい。

 美空が返信を渋っていると、『紫雲にもLINEしとくから、あとは二人で話し合って』晴斗からとどめの一文が送られてきた。

 晴斗は、美空と紫雲の危うい関係に全く気付く気配はない。それどころか、率先して二人を仲良くさせようとしている節がある。
 何の疑いも抱いていないだろう晴斗のメッセージに、美空はますます後ろめたい気持ちになった。
『よろしく』と満面の笑みを浮かべるウサギのスタンプを見ながら、『わかりました』美空は文字を打ち込んだ。


 年長児と年中児の担任は、基本、休憩時間が重ならないよう組まれている。
 しかも、恵令奈は本日遅番の為、放課後はすぐに延長保育の部屋に行ってしまう。
 ほんの少しでも話せればと様子を伺う美空だったが、今日に限ってそのチャンスは訪れない。
 結局、恵令奈に相談するタイミングを掴めないまま、放課後を迎えた。

 不安な気持ちを抱えながら支度をしていると、美空の元に紫雲からメッセージが届いた。

『美空さん』『父さんから聞いた?』『校門で待ってていい?』

 久々の三連投に、美空の胸は熱くなる。
 騒ぎ出す鼓動を抑えようと、美空は大きく深呼吸をした。

『うん。聞いたよ。これから園を出るところ』
『わかった』『待ってる』

 紫雲の美空への想いは、単なる推測でしかない。はっきり好きだと言われた訳ではない。
 お辞儀をするクマのスタンプをいくら眺めていても、紫雲の本心はわからない。
「本当は、どう思ってるの?」
 何度もお辞儀を繰り返すクマを見つめ、美空は独り呟いた。

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