あの日交わした約束がセピア色にかわっても

紫水晶羅

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背徳の代償

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 目を覚ますと、薄暗い室内に微かな雨音が流れていた。
「ん……」
 重い瞼をこすりながら、美空はのそりと起き上がった。
 どこまでが夢でどこからが現実なのかわからない。ぼんやりする頭を一振りすると、美空はゆっくりドレッサーへと足を運んだ。
「晴斗さん……」
 指輪の箱を開ける。
 純白の輝きが、美空の瞳を鋭く刺した。


 昨日、愛梨と別れてから、美空はずっと考えていた。
 愛梨の言う通り、紫雲は全てを忘れたかったのかも知れない。
 紫雲は今、何も知らないあの頃に戻り、愛梨と幸せに過ごしている。
「私さえいなければ……」
 美空は指輪の箱をそっと閉じた。

 晴斗と過ごした数々の思い出が、浮かんでは消えて行く。
 目を閉じると、まるで陽だまりのような晴斗のぬくもりが、美空の身体を包み込む。
 しかし、それはやがて、焼け付くような熱い炎へと変わって行く。
 燃えるような大きな瞳が、美空の心を震わせる。
 美空を激しく搔き乱すのは、いつだって、紫雲だった。
 美空が強く求めるのは、いつだって、紫雲の笑顔だった。
 あの日美空は、紫雲の愛を受け入れた。
 もう答えは出ていた。
 美空が愛しているのは、晴斗ではなく、紫雲なのだ。

 一度溢れてしまったものは、決して元には戻らない。
 こんな気持ちを抱えたまま、晴斗とは結婚できない。
 やはり全てを話してしまおう。
 美空が決意した時、スマホが着信を知らせる音を立てた。
 恐る恐る画面を確認する。
 そこには大きく晴斗の名前が表示されていた。

「もしもし」
 受話口から流れてくる甘く優しい響きが耳をくすぐり、思わず涙が零れそうになる。
「はい」
 声の震えに気付かれないよう、美空はできるだけ短く答えた。
「今日、会えないかな?」
「今日……ですか?」
「どうしても会いたいんだ。駄目?」
 暫く距離を置きたいと言った美空に配慮しているのか、晴斗の声は、心なしか強張っている。
「今日……」
 美空は、指輪の箱に目を向けた。
 遅かれ早かれ、晴斗とは別れることになるのだ。

「いいですよ」

 覚悟を決めて、美空は答えた。

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