82 / 90
1日だけの恋人
4
しおりを挟む月の光が、夜の闇と混ざり合う。
「何お願いしたの?」
ぼんやりとした視界の中で、紫雲が美空の髪をさらりと撫でた。
「何って?」
「あの神社で。美空さん、何お願いしたの?」
言葉を発する度に、筋肉質な紫雲の胸が僅かに震える。
心地良い振動に頬を寄せると、美空はふふっと少し笑った。
「紫雲君の未来に幸あれ、って」
「何それ? だっさ」
さもおかしそうに、紫雲が笑う。
「もう! 笑いすぎだから!」
むくれる美空に「ごめんごめん」と口先だけで謝りながら、紫雲は美空の頭をポンポンと優しく叩いた。
頭からすっぽりと包まれている幸せにこっそり顔を綻ばせ、「紫雲君こそ、何お願いしたの?」わざと拗ねた口調で美空は聞いた。
「俺?」
「さぞかし立派な願い事なんでしょうね? 私なんかよりずっと」
思い切り皮肉を込め、美空は上目遣いに紫雲を睨んだ。
「ったく……」
右の眉と口角を上げ、少し困った表情を浮かべると、紫雲は美空の頭を両腕で抱え込んだ。
「教えない」
「え?」
「内緒」
「何それ?」
美空を腕の中に閉じ込めたまま、「絶対教えない」紫雲はからかうように、くっくっと喉を震わせ笑った。
「ズルい!」
「叶うまで言わない」
「ひどい!」
「美空さん」
紫雲が少し身体を引いた。額に触れたぬくもりが遠ざかり、ほんの少し寂しくなる。
恨めしそうに見つめる美空の頬を右手でそっと包み込むと、紫雲は柔らかく微笑んだ。
「いつか願いが叶ったら……。そしたらちゃんと教えるから」
「でももう、私たち……」
続く言葉を、紫雲が唇で閉じ込めた。
「ん……。紫雲く……」
息をするのももどかしい程、紫雲は夢中で美空を求める。
身体の奥から満たされる幸福感が、美空の思考を奪っていく。
「愛してる」
時折聞こえるハスキーな響きが、美空の全身に心地よい痺れをもたらす。
紫雲の愛に埋め尽くされたその瞬間、美空の目から涙が零れた。
「美空さん……」
溢れる涙を、紫雲の唇が優しくなぞる。
「愛してる……」
二人の愛を確かめるように、紫雲は何度も囁いた……。
0
あなたにおすすめの小説
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる