あの日交わした約束がセピア色にかわっても

紫水晶羅

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1日だけの恋人

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 月の光が、夜の闇と混ざり合う。
「何お願いしたの?」
 ぼんやりとした視界の中で、紫雲が美空の髪をさらりと撫でた。

「何って?」
「あの神社で。美空さん、何お願いしたの?」
 言葉を発する度に、筋肉質な紫雲の胸が僅かに震える。
 心地良い振動に頬を寄せると、美空はふふっと少し笑った。
「紫雲君の未来に幸あれ、って」
「何それ? だっさ」
 さもおかしそうに、紫雲が笑う。
「もう! 笑いすぎだから!」
 むくれる美空に「ごめんごめん」と口先だけで謝りながら、紫雲は美空の頭をポンポンと優しく叩いた。

 頭からすっぽりと包まれている幸せにこっそり顔を綻ばせ、「紫雲君こそ、何お願いしたの?」わざと拗ねた口調で美空は聞いた。
「俺?」
「さぞかし立派な願い事なんでしょうね? 私なんかよりずっと」
 思い切り皮肉を込め、美空は上目遣いに紫雲を睨んだ。
「ったく……」
 右の眉と口角を上げ、少し困った表情を浮かべると、紫雲は美空の頭を両腕で抱え込んだ。

「教えない」
「え?」
「内緒」
「何それ?」
 美空を腕の中に閉じ込めたまま、「絶対教えない」紫雲はからかうように、くっくっと喉を震わせ笑った。
「ズルい!」
「叶うまで言わない」
「ひどい!」
「美空さん」
 紫雲が少し身体を引いた。額に触れたぬくもりが遠ざかり、ほんの少し寂しくなる。
 恨めしそうに見つめる美空の頬を右手でそっと包み込むと、紫雲は柔らかく微笑んだ。

「いつか願いが叶ったら……。そしたらちゃんと教えるから」
「でももう、私たち……」
 続く言葉を、紫雲が唇で閉じ込めた。
「ん……。紫雲く……」
 息をするのももどかしい程、紫雲は夢中で美空を求める。
 身体の奥から満たされる幸福感が、美空の思考を奪っていく。
「愛してる」
 時折聞こえるハスキーな響きが、美空の全身に心地よい痺れをもたらす。
 紫雲の愛に埋め尽くされたその瞬間、美空の目から涙が零れた。

「美空さん……」
 溢れる涙を、紫雲の唇が優しくなぞる。
「愛してる……」
 二人の愛を確かめるように、紫雲は何度も囁いた……。


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