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新たな世界へ
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「……っ!」
美空は両手で口を覆った。
目の前に、シロツメクサの丘が広がる。
花冠を作る小さな手は、愛する者を包み込む大きな手へと形を変えた。
その手が、ゆっくりと箱を開ける。
開け放たれた箱の中から、ダイヤモンドリングが顔を出した。
中央に乗せられた少し小ぶりのダイヤモンドが、陽の光を浴びて眩しい光を放った。
「バイト代貯めて買ったんだ。これが今の精一杯。父さんのには負けるけどね」
恥ずかしそうに頭を掻くと、紫雲は箱から指輪を取り出した。
美空の左手を、紫雲がそっと手に取った。
「俺ね、教員免許と併せて教育発達学も学んだんだ。美空さんのアパートで心理学の本読んで、面白そうだなって思って」
紫雲は懐かしそうに目を細めた。
あのアパートにあった小さなロフトを、紫雲はいたく気に入っていた。少し屈んだ大きな背中を思い出し、美空は顔を綻ばせた。
「心理学を学べば、より深い教育ができる。そうすれば仕事の幅も広がる。丁度、小学校教諭の免許も取れる心理学部を見つけて、ここだって思ったんだ」
一旦言葉を切ると、紫雲は呆れた顔で笑った。
「そしたら美空さん、オランダにいるって聞いて焦ったよ。そこから急遽オランダ語勉強して……。で、現在に至るってわけ」
美空の手を、紫雲の親指が何度も撫でる。
くすぐったくも心地よいその感触に、美空の気持ちも解れていく。
「とりあえずバイトしながら語学を学んで、いずれは小学校教諭を目指そうと思って」
「オランダで?」
「もちろん。日本に帰っても、どうせ俺の居場所ないし」
晴斗と恵令奈の事を思い浮かべているのだろう。悪戯っぽく、紫雲が笑った。
「だからね、追い返されたら困る。ちゃんと引き取ってくれないと」
「引き取るって……」
「美空さん」
紫雲は姿勢を正して座り直すと、真剣な眼差しで美空を見つめた。
「美空さん、前に言ったでしょ? 俺と美空さんの世界は決して交わることはないって」
美空はこくりと頷いた。
「でもきっと、その子……紫織が繋げてくれたんだ。俺たちの世界を」
「紫織が……?」
「俺、まだガキだし、頼りないかも知れないけど、惚れた女の人生を引き受ける覚悟くらいはあるつもり」
「紫雲君……」
「これから一生懸命働いて、美空さんと紫織を必ず幸せにしてみせる。だから……」
一旦言葉を切ると、紫雲は大きく深呼吸した。
美空の胸にも緊張が走る。
想いを込めるようにゆっくり瞬きをしたあと、紫雲は、美空の瞳を真っ直ぐ捉えた。
「俺と、結婚してください」
美空は両手で口を覆った。
目の前に、シロツメクサの丘が広がる。
花冠を作る小さな手は、愛する者を包み込む大きな手へと形を変えた。
その手が、ゆっくりと箱を開ける。
開け放たれた箱の中から、ダイヤモンドリングが顔を出した。
中央に乗せられた少し小ぶりのダイヤモンドが、陽の光を浴びて眩しい光を放った。
「バイト代貯めて買ったんだ。これが今の精一杯。父さんのには負けるけどね」
恥ずかしそうに頭を掻くと、紫雲は箱から指輪を取り出した。
美空の左手を、紫雲がそっと手に取った。
「俺ね、教員免許と併せて教育発達学も学んだんだ。美空さんのアパートで心理学の本読んで、面白そうだなって思って」
紫雲は懐かしそうに目を細めた。
あのアパートにあった小さなロフトを、紫雲はいたく気に入っていた。少し屈んだ大きな背中を思い出し、美空は顔を綻ばせた。
「心理学を学べば、より深い教育ができる。そうすれば仕事の幅も広がる。丁度、小学校教諭の免許も取れる心理学部を見つけて、ここだって思ったんだ」
一旦言葉を切ると、紫雲は呆れた顔で笑った。
「そしたら美空さん、オランダにいるって聞いて焦ったよ。そこから急遽オランダ語勉強して……。で、現在に至るってわけ」
美空の手を、紫雲の親指が何度も撫でる。
くすぐったくも心地よいその感触に、美空の気持ちも解れていく。
「とりあえずバイトしながら語学を学んで、いずれは小学校教諭を目指そうと思って」
「オランダで?」
「もちろん。日本に帰っても、どうせ俺の居場所ないし」
晴斗と恵令奈の事を思い浮かべているのだろう。悪戯っぽく、紫雲が笑った。
「だからね、追い返されたら困る。ちゃんと引き取ってくれないと」
「引き取るって……」
「美空さん」
紫雲は姿勢を正して座り直すと、真剣な眼差しで美空を見つめた。
「美空さん、前に言ったでしょ? 俺と美空さんの世界は決して交わることはないって」
美空はこくりと頷いた。
「でもきっと、その子……紫織が繋げてくれたんだ。俺たちの世界を」
「紫織が……?」
「俺、まだガキだし、頼りないかも知れないけど、惚れた女の人生を引き受ける覚悟くらいはあるつもり」
「紫雲君……」
「これから一生懸命働いて、美空さんと紫織を必ず幸せにしてみせる。だから……」
一旦言葉を切ると、紫雲は大きく深呼吸した。
美空の胸にも緊張が走る。
想いを込めるようにゆっくり瞬きをしたあと、紫雲は、美空の瞳を真っ直ぐ捉えた。
「俺と、結婚してください」
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