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ポケットの中の気持ち
3
しおりを挟む「それじゃあ、そろそろ本題に入ろっか」
二杯目に頼んだ青リンゴサワーが運ばれたのを見計らい、楓が口を開いた。
「いつ行く? 遊園地」
「そうだな……。俺らの施設実習、十七日からだよな?」
政宗が隣に視線を流すと、「うん」と聖が頷いた。
「そっか。うちらは翌週の二十四日から九月の四日まで」
楓が、スマホのカレンダーを確認した。
施設実習は、土日を除いた十日間だ。
ね、と楓が同意を求めると、「うん」と美乃里が微笑んだ。
「夏休みが九月十三日までだから、施設実習終わってからでも全然行けるけど、どうする?」
楓が皆に問いかけた。
「そうだな。これで全ての実習が終了する訳だから、打ち上げってのもいいかもな」
腕組みしながら、納得した様に政宗が何度も首を上下に振った。
「そうね。いいかも」
両手で頬杖をつくと、美乃里は「どう思う?」と聖に視線を移した。
「俺は……」
二杯目のノンアルビールを飲み下したあと、「早く行きたい」聖が拗ねた顔で呟いた。
「早くって、十七日の前ってこと?」
「うん」
美乃里の問いかけに、聖が答えた。
「そしたら、十三日より前にして欲しいな。家、お寺だから、お盆は何かと忙しくって」
申し訳なさそうに、楓が眉間に皺を寄せた。
「今日はもう五日だから……。え? あと七日しかねぇぞ」
指折り数え、政宗が声を上げた。
「ダメ……かなぁ?」
顔色を伺うように、聖は三人を順に見つめた。
「俺、金土は休めねぇぞ。めっちゃ忙しいからな」
店内をぐるりと見渡し、政宗が答えた。
今日は週の中日の為、比較的空いているが、休日前は予約が入ることもあり、かなりの忙しさが予想される。そんな日に休みを取るのは忍びない。
「おまけに月曜は山の日だろ? てことは、七、八、九はダメだな」
「じゃあ、明日か、十、十一、十二ってこと?」
「だな。十日の山の日は店長に聞いてみないと何とも言えねぇけど」
自信なさそうに政宗が頭を掻いた。
「さすがに明日は急過ぎない?」
美乃里が声を上げた。
「九月じゃダメなの?」
不思議そうに、楓が聖の顔を覗き込んだ。
「だって……」
まるで叱られた子どものように肩をすくめて俯くと、「花火……」小さな声で、聖が答えた。
「え?」
楓が聞き返す。
「遊園地行ったあと、みんなで花火、やりたいんだ」
「花火?」
美乃里が訊く。
「そう。海で。夏の思い出に、みんなで花火やりたいんだ。だって来年になったら、みんなバラバラになっちゃうだろ? 四人一緒の夏は、これが最後かも知れない」
「大袈裟だな」
ははっと政宗が笑った。
「でもわかんないじゃん。社会人になったらみんな忙しくなるし。こんな風に集まって騒げるのだって……」
「まあな。でもだからって、なんで八月なんだよ。別に九月でもいいじゃん」
「ダメだよ!」
聖が両手でテーブルを叩く。重ねられた皿が、カチャリと音を立てた。
「だって、九月は秋じゃん!」
「はあぁぁ?」
細い目を目一杯見開き、政宗があんぐり口を開けた。
「あははは」
突然、美乃里が笑い出した。
「夏らしいことしたいんでしょ? 聖、前も言ってたもんね。海で花火したいって」
「そう! それ!」
人差し指を立てながら、聖が嬉しそうに美乃里を見つめた。
「そうだね。さすがに九月じゃ気持ち上がんないかもね」
腕組みしながら、楓が思案顔で天井を見つめた。
「でしょでしょ?」
二人を交互に見ながら、ほらね、と聖は、政宗に勝ち誇ったような笑みを向けた。
「ま、いいんじゃない? この企画、発案者は聖なんだし。聖の好きなようにやれば?」
楓は視線を戻すと、ね、と政宗と美乃里に同意を求めた。
「賛成」
美乃里が大きく頷いた。
「ま、いいんでない?」
隣を見やり、政宗が笑みを浮かべた。
「やりぃ!」
聖が大きくガッツポーズをする。
「だから、いちいち大袈裟なんだよ。お前は」
呆れた顔で、政宗が笑った。
楓と美乃里も堪らず吹き出す。
四人の笑い声が、店内に響き渡った。
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