きんだーがーでん

紫水晶羅

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終止符

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 街中にイルミネーションが輝き、一年で最も華やかな季節がやってきた。
「今年のクリスマスはどうする?」
 カフェテリアの角に飾られているクリスマスツリーを眺め、楓がみんなに問いかけた。

「クリスマスかぁ。去年は確か……」
 おとがいに人差し指を当て、美乃里が宙に視線を彷徨わせた。
「カラオケだろ? 聖がなかなかマイク離さなくて……」
 笑いを堪えるように、ククッと政宗が喉を鳴らした。
「そうそう! めっちゃ歌ってた! ソロコンサートかっつーの」
 その時の状況を思い出し、楓は手を叩いて笑った。

 昨年のクリスマスは、カラオケルームの宴会プランを予約し、四人でささやかなクリスマスパーティーをしたのだった。
 最初は四人で順番に曲を入れていたが、食べたり喋ったりしているうちに、気がつくと聖の独壇場になっていた。

「えー。だって誰も歌わないんだもん」
 ひでぇー、と聖が口を尖らせた。
「しっかし、よくあんだけ歌えるよな。酒も飲んでねぇのに」
 まるで珍しいものでも見るような目で、政宗が聖を引き気味に見つめる。
「飲めない奴に言われたくないね」
 不貞腐れた顔で、聖が反論した。

「ああ……。それが……」
 政宗が口籠もり、恥ずかしそうに頭を掻いた。
「なに? どうかしたの?」
 楓の声に、皆の視線が政宗に集まる。
 三人の顔を順に見たあと、「実は……」政宗が、言いにくそうに切り出した。

「飲めるようになったんだ。ちょっとだけだけど……」

「ええええっ!?」

 政宗の告白に、三人は同時に声を上げた。

 カフェテラス内の学生達が、一斉にこちらを見る。驚きと不快感を露わにしている全ての顔に「すいません」と頭を下げ、三人は再び政宗に向き直った。

「どういうこと?」
 美乃里が訊く。
「実はさ、俺が飲めねぇの、どうやら精神的なもんだったらしい」
「なんだそれ?」
 聖が気の抜けた声で訊いた。

 政宗は、自分が保育の道に進むことになった経緯いきさつと、父親との確執、それから、先日実家に帰った時に弟と交わした会話の内容を、順を追って皆に話して聞かせた。

「あれって、ただの兄弟喧嘩じゃなかったんだ」
 政宗の顔にあった生々しい傷跡を思い出し、楓は自分の頬を押さえた。
「うん。あいつに言われてさ、ものは試しに、少しだけ飲んでみたんだ。親父の造った酒。そしたらさ、前より飲めたっつーか、息苦しくなんなかったっつーか……。とにかく、具合い悪くなんなかったんだ」
 別に美味うまくもなかったけどな、と政宗は顔をくしゃりと歪めると、ハハっと乾いた笑い声を上げた。

「へぇ。弟君に感謝だね」
 テーブルに頬杖をつき、美乃里はにっこり微笑んだ。
「あ、ああ。まあな」
 頬を赤らめ、政宗が視線を外した。
「じゃあさ、今年のクリスマスは、政宗のバイト先でお祝いする?」
 楓が瞳を輝かせる。
「なんのお祝いだよ?」
 政宗が眉根を寄せ、怪訝そうな顔で楓を見た。
「決まってんじゃん。政宗がオトナになったお祝い」
「はあっ? お前それ、違う意味に聞こえんぞ!」
 チラリと美乃里に視線を向けたあと、政宗は真っ赤な顔で抗議した。

「あはは。政宗って、もしかして……」
「おまっ……! っざけんな! それ以上言ったらコロス!」
 きゃー怖い、と大袈裟に、楓が美乃里の腕にしがみつく。
 よしよし、とわざとらしく、その頭を美乃里が笑いながら撫でた。
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