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23.魔法使いまくります
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ロゼッタさんの好意で、ゆっくり二度寝をさせてもらい、更にお風呂にまで入れてもらった。
マクガレンさんという魔術師のいる家らしく、お風呂のお湯を沸かすのも薪を焚いて…ではないらしい。
事前に火の魔法を封じ込めた、魔石と言う物を作っておくらしい。それを水を溜めた浴槽に入れると、程なくお湯になるらしい。
これは自分で見たわけじゃないから、実際のところどうなのかは分からない。けれど、それがあることでこの屋敷の人が助かっているならいいかな。と思ってしまう。
「本当に、また魔法を使われるんですか?」
「うん、そうだよ」
美味しいお昼を食べた後、午後から魔法の特訓をしたいから、アルバートさん達に使いを出してとお願いしたら、案の定ロゼッタさんは良い顔をしてくれなかった。
「また、昨日のようなことを、しなければ、ならなくなりますよ…」
言いづらそうに言葉を濁すロゼッタさんの、言いたいことは私も分かる。それを考えるだけで、顔が真っ赤になって悶えてしまうくらい恥ずかしい。
けれど自分で魔力を回復させられるようにならないと、ずっとあの方法で魔力回復を図らなければならない。自然回復はするみたいだけど、どうやらこの世界の人ほどの回復はしないみたい。
何度も魔法を使って、減った分を回復して。というのを繰り返さないと、回復の仕方を覚えられない。でも覚えなければ、あの方法で回復し続けなければならなくなる。それは、流石に恥ずかしすぎる。だからなんとしてでも、自力で回復できるようにならないといけないのだ。
その決意を、なんとかロゼッタさんに説明する。
「うん、できればあーいうことは好きな人としたい。けれど、今現在あれ以外で私の魔力を回復する方法はないし。それに…私が魔法を使えなければ、この世界の人が苦しむんでしょ?それを分かってて、貞操観念に反するので、魔法は使えません。聖女もできません。って逃げるわけには、いかないよね…。ごめんね、綺麗な聖女様じゃなくて」
湿っぽくなるつもりはなかったのに、説得しようとしていたらドンドン暗い方へ、話が流れちゃった。
ロゼッタさん貞淑そうだから、私のこと嫌いになっちゃったかな。
少し悲しい気持ちで俯いていたら、ギュッとロゼッタさんに抱き締められた。
「……ま、せん…。ハルカ様が、誤るようなことは、一つも…ありませんっ。むしろこの国と何の関係もなかったハルカ様に、救世の聖なる乙女として力を尽くしてもらう私達の方が、我がままで自分勝手なのです。誰がなんと言おうと、ハルカ様は救世の聖なる乙女です。お美しくて、お優しくて、とっても綺麗な聖女様です。それは私が保証いたします。ハルカ様が受け入れた事なのでしたら、私も精一杯お手伝いさせていただきます。ですから、どうぞ存分に魔法を使ってらしてください」
あーもう、ロゼッタさんは優しいなぁ…。
「うん、ありがとう…」
抱き締めてくれる腕には強く強く力が入っているのに、とっても優しくて暖かい。
暗くなっていた心が、パアッと明るくなったような気がする。良い人に巡り会えて、良かった。
「ハルカ様。オーウェン様、エリオット様、アルバート様が到着されました」
コンコンとノックの音が聞こえると同時に、執事のトマスさんが皆が到着したことを知らせてくれた。
「はーい、今行きます。下で待っててもらってください」
「かしこまりました」
「さて、私も準備しなきゃ。ロゼッタさん、ちょっとだけ外に出ててもらえますか?」
魔法を使うにはプリュムに変身しなきゃならなくて、でもそれを見られるのはまだちょっと恥ずかしい。だからロゼッタさんには、外で待ってて欲しいとお願いした」
「かしこまりました」
深く追求することなく頷いてくれたロゼッタさんは、扉の外でお待ちしますと、部屋を出てくれた。
私が魔法を使うときの言葉は、この世界の人には理解されないみたいだけど、そんなことはどうでもいい。
とにかく、自分が恥ずかしいのだ。
いかにもな魔法少女の変身呪文…。どうしようもない状況でもない限り、一人でこっそり変身したい…。
「マジカル!ミラクル!パステルカラーでミラクルコール!マジカルプリュムに大変身!」
キャハッとポーズを決める所までは、羞恥を捨て去ることはできなかった。
なるべくひっそりと変身して、自分がちゃんとプリュムになったことを鏡で確認する。
もちろん、魔法の杖の位置も、確認済みだ。いつでも使えるようにしておかないとね。
「さて行こうか」
カツッとヒールの踵を鳴らして、一歩を踏み出す。
☆ ☆ ☆
『チチンプイプイ、カモシカのように素早くな~れ!』
『チチンプイプイ、鷹の目にな~れ!』
『チチンプイプイ、硬い硬~いのは、亀さんの甲羅っ!』
矢継ぎ早に魔法を唱えて発動させていく、それに伴ってエリオットくんの動きが早くなり、オーウェンさんの動体視力がアップする。
いつもなら目で追いかけるのがやっとのエリオットくんの動きを、オーウェンさんの目が捕らえる。辛うじて打ち込まれる剣を弾き返すのが精一杯だったのが、今はその剣筋がオーウェンさんの目にはハッキリと見えていた。
動きが軽くなった利点を最大に生かして、オーウェンさんから距離をとる為バックステップを踏む、そこにいるであろうエリオットくんを打ち据える為に振り下ろされた剣は、一瞬早く動いた彼の姿を捉えきれずに空を切った。
「今度はこっちから行きます、よっ!」
下がった距離をステップ一つで詰めると、抜き身の剣を片手に構えるオーウェンさんの盾を、駆け上がった。
「えっ?えええ…あれって…ありですか?アルバートさん…」
「はぁ…ええと…アレは流石に…無しじゃ…ないですか?」
ダン!と盾の表面を蹴り上げて、駆け上がるという軽業を見せられた私とアルバートさんは、切迫した戦闘シーンにも関わらず暫しの間、ポカンと口を開いてしまった。
「…参った」
勢いのまま空中でクルリと回転したエリオットくんは、相手に反撃の隙を与えることなく、オーウェンさんの背後を取った。
すらりと抜き身の剣を首筋に当てられては、オーウェンさんも反撃する手立てなく、降参するしかなかった。
「凄いエリオットくん。あんな方法で背後を取るなんて、考えたこともなった」
「ええ、凄いですね。あれではオーウェンも太刀打ちできませんね」
お互い剣を引いて、一戦が終わった二人の所へ走っていく。私もアルバートさんも見たことのない戦法に、少々興奮してしまった。
「いやあ、あれには参った。ハルカのおかげで、エリオットの動きはちゃんと目で追っていられたんだがな。まさか盾をあんな形で越えてくるとは思わなかったよ」
負けてしまったからか、少し悔しさを滲ませながらも、爽やかにそういうオーウェンさんに暗さはない。
「ありがとうございます。それにしても、ハルカの魔法は凄いね。まるで背中に羽が生えたみたいだったよ。いつもよりずっと早く動けたし」
「効果があったなら良かった」
「魔法の詠唱が一切聞き取れないのが難点と言えば難点だが、ハルカの魔法は的確に飛んでくるからな。何を掛けられたか分からなくても、そう困らんが」
そうなのだ、私が魔法を使うときに唱える呪文は、この世界の人の耳には音としてしか聞こえないらしい。何を言っているのかは分からないのだ。
そうじゃなければ、あんな恥ずかしい言葉、毎回叫べない…。
厨二病満載の、やたら長くてもったいぶったかっこいい詠唱を唱えるよりなら、チチンプイプイの方が若干…本当に、若干まし……かも。
「でも、何の魔法をかけられたか分からないって言うのは、確かに不便ですよね。その変、どうにか改善できないかな…?」
オーウェンさんの言っていることは正論なので、改善できるものなら改善したい。でも、恥ずかしい呪文は聞かれたくない、ジレンマである。
「ハルカは呪文を唱える時、生まれた国を考えて唱えているのですか?」
「……うーん…どうなんだろう?呪文を聞かれたら恥ずかしいなぁ、って思ってたりはします」
エヘっと照れ笑いを浮かべて応えると、ふむ、とアルバートさんが腕を組んで考え込んだ。なにか良い案があるのかな?
「ハルカ、すまんがさっき怪我したところを治してもらいたいんだが、いいか?」
「はい、全然OK」
魔力の枯渇は問題だけど、使わなければ減らないし、減らなければ回復させるために努力しない、という、負のループを回避するためにも、できるだけ魔法を使った方が良いだろうという結論になって、些細な怪我でも魔法で治すことになっている。
なんだか手の平の上で、コロコロと転がされた感がしないでもないけど、言っていることは分からなくもないので、アレを考えると恥ずかしくて悶え転がりそうになるけど、頑張って魔法を使っている。
『チチンプイプイ、痛いの痛いの飛んでいけー』
杖の先を怪我をした場所に向けて呪文を唱えると、ふわっと光の花びらが飛び出した。肩の打撲程度の怪我だったからか、現れた花びらの数は少し少ない。
痛めた場所を撫で撫でするように花びらが舞って、そして消えていった。
「うん。それにしてもハルカの魔法は、何度見ても綺麗だな。そして、凄いな。もう全然痛まない」
グルグルと肩を回して、感心したようにオーウェンさんが呟いた。
確かに、自分で言うのも自画自賛で恥ずかしいけど、私の使う魔法の現象はどれも綺麗だ。淡い光の花弁が舞う、光の粒が振り注ぐ。幻想的で神秘的ですらある。
これが自分の力よ!と誇れればいいんだろうけど、どうしても女神様に授けてもらった力って印象が強くて、毎回ありがたいと思ってしまう。なんだろう、仏壇に手を合わせるような感じかな。
「ところで、ハルカ。俺にエリオット並みに俊敏に動ける魔法、ってのはかけられるか?」
「俊敏…ですか…」
「ああ。俺は消して愚鈍ではないと思っているが、速さでいけばエリオットには叶わない。その分、パワーと耐久力には自信がある」
つまり弱点を補強したいってことか。でも…
「動きを早くする魔法はあります。エリオットくんに毎回掛けてますから。でも。それは長所を伸ばす、という意味合いで使ってたので、苦手部分にかけた場合、どんな効果になるかは、かけてみないとわからないです」
「うむ、それじゃあ、ちょっとかけてみてくれるか?いや、余裕があればでいいんだ」
意識を集中して、魔力の残りを確認してみる。まだ半分以上はあるから、大丈夫。そう判断してオーウェンさんに向けて呪文を唱えた。
『チチンプイプイ、動きが早くなーれ!』
あれ、なんか呪文が違う気が…あ、でも発動した。
行動力を上げるときの呪文を度忘れして、見も蓋もない呪文になってしまったが、どうやら魔法として成立したらしい。光の粒がオーウェンさんに降り注いだ。
マクガレンさんという魔術師のいる家らしく、お風呂のお湯を沸かすのも薪を焚いて…ではないらしい。
事前に火の魔法を封じ込めた、魔石と言う物を作っておくらしい。それを水を溜めた浴槽に入れると、程なくお湯になるらしい。
これは自分で見たわけじゃないから、実際のところどうなのかは分からない。けれど、それがあることでこの屋敷の人が助かっているならいいかな。と思ってしまう。
「本当に、また魔法を使われるんですか?」
「うん、そうだよ」
美味しいお昼を食べた後、午後から魔法の特訓をしたいから、アルバートさん達に使いを出してとお願いしたら、案の定ロゼッタさんは良い顔をしてくれなかった。
「また、昨日のようなことを、しなければ、ならなくなりますよ…」
言いづらそうに言葉を濁すロゼッタさんの、言いたいことは私も分かる。それを考えるだけで、顔が真っ赤になって悶えてしまうくらい恥ずかしい。
けれど自分で魔力を回復させられるようにならないと、ずっとあの方法で魔力回復を図らなければならない。自然回復はするみたいだけど、どうやらこの世界の人ほどの回復はしないみたい。
何度も魔法を使って、減った分を回復して。というのを繰り返さないと、回復の仕方を覚えられない。でも覚えなければ、あの方法で回復し続けなければならなくなる。それは、流石に恥ずかしすぎる。だからなんとしてでも、自力で回復できるようにならないといけないのだ。
その決意を、なんとかロゼッタさんに説明する。
「うん、できればあーいうことは好きな人としたい。けれど、今現在あれ以外で私の魔力を回復する方法はないし。それに…私が魔法を使えなければ、この世界の人が苦しむんでしょ?それを分かってて、貞操観念に反するので、魔法は使えません。聖女もできません。って逃げるわけには、いかないよね…。ごめんね、綺麗な聖女様じゃなくて」
湿っぽくなるつもりはなかったのに、説得しようとしていたらドンドン暗い方へ、話が流れちゃった。
ロゼッタさん貞淑そうだから、私のこと嫌いになっちゃったかな。
少し悲しい気持ちで俯いていたら、ギュッとロゼッタさんに抱き締められた。
「……ま、せん…。ハルカ様が、誤るようなことは、一つも…ありませんっ。むしろこの国と何の関係もなかったハルカ様に、救世の聖なる乙女として力を尽くしてもらう私達の方が、我がままで自分勝手なのです。誰がなんと言おうと、ハルカ様は救世の聖なる乙女です。お美しくて、お優しくて、とっても綺麗な聖女様です。それは私が保証いたします。ハルカ様が受け入れた事なのでしたら、私も精一杯お手伝いさせていただきます。ですから、どうぞ存分に魔法を使ってらしてください」
あーもう、ロゼッタさんは優しいなぁ…。
「うん、ありがとう…」
抱き締めてくれる腕には強く強く力が入っているのに、とっても優しくて暖かい。
暗くなっていた心が、パアッと明るくなったような気がする。良い人に巡り会えて、良かった。
「ハルカ様。オーウェン様、エリオット様、アルバート様が到着されました」
コンコンとノックの音が聞こえると同時に、執事のトマスさんが皆が到着したことを知らせてくれた。
「はーい、今行きます。下で待っててもらってください」
「かしこまりました」
「さて、私も準備しなきゃ。ロゼッタさん、ちょっとだけ外に出ててもらえますか?」
魔法を使うにはプリュムに変身しなきゃならなくて、でもそれを見られるのはまだちょっと恥ずかしい。だからロゼッタさんには、外で待ってて欲しいとお願いした」
「かしこまりました」
深く追求することなく頷いてくれたロゼッタさんは、扉の外でお待ちしますと、部屋を出てくれた。
私が魔法を使うときの言葉は、この世界の人には理解されないみたいだけど、そんなことはどうでもいい。
とにかく、自分が恥ずかしいのだ。
いかにもな魔法少女の変身呪文…。どうしようもない状況でもない限り、一人でこっそり変身したい…。
「マジカル!ミラクル!パステルカラーでミラクルコール!マジカルプリュムに大変身!」
キャハッとポーズを決める所までは、羞恥を捨て去ることはできなかった。
なるべくひっそりと変身して、自分がちゃんとプリュムになったことを鏡で確認する。
もちろん、魔法の杖の位置も、確認済みだ。いつでも使えるようにしておかないとね。
「さて行こうか」
カツッとヒールの踵を鳴らして、一歩を踏み出す。
☆ ☆ ☆
『チチンプイプイ、カモシカのように素早くな~れ!』
『チチンプイプイ、鷹の目にな~れ!』
『チチンプイプイ、硬い硬~いのは、亀さんの甲羅っ!』
矢継ぎ早に魔法を唱えて発動させていく、それに伴ってエリオットくんの動きが早くなり、オーウェンさんの動体視力がアップする。
いつもなら目で追いかけるのがやっとのエリオットくんの動きを、オーウェンさんの目が捕らえる。辛うじて打ち込まれる剣を弾き返すのが精一杯だったのが、今はその剣筋がオーウェンさんの目にはハッキリと見えていた。
動きが軽くなった利点を最大に生かして、オーウェンさんから距離をとる為バックステップを踏む、そこにいるであろうエリオットくんを打ち据える為に振り下ろされた剣は、一瞬早く動いた彼の姿を捉えきれずに空を切った。
「今度はこっちから行きます、よっ!」
下がった距離をステップ一つで詰めると、抜き身の剣を片手に構えるオーウェンさんの盾を、駆け上がった。
「えっ?えええ…あれって…ありですか?アルバートさん…」
「はぁ…ええと…アレは流石に…無しじゃ…ないですか?」
ダン!と盾の表面を蹴り上げて、駆け上がるという軽業を見せられた私とアルバートさんは、切迫した戦闘シーンにも関わらず暫しの間、ポカンと口を開いてしまった。
「…参った」
勢いのまま空中でクルリと回転したエリオットくんは、相手に反撃の隙を与えることなく、オーウェンさんの背後を取った。
すらりと抜き身の剣を首筋に当てられては、オーウェンさんも反撃する手立てなく、降参するしかなかった。
「凄いエリオットくん。あんな方法で背後を取るなんて、考えたこともなった」
「ええ、凄いですね。あれではオーウェンも太刀打ちできませんね」
お互い剣を引いて、一戦が終わった二人の所へ走っていく。私もアルバートさんも見たことのない戦法に、少々興奮してしまった。
「いやあ、あれには参った。ハルカのおかげで、エリオットの動きはちゃんと目で追っていられたんだがな。まさか盾をあんな形で越えてくるとは思わなかったよ」
負けてしまったからか、少し悔しさを滲ませながらも、爽やかにそういうオーウェンさんに暗さはない。
「ありがとうございます。それにしても、ハルカの魔法は凄いね。まるで背中に羽が生えたみたいだったよ。いつもよりずっと早く動けたし」
「効果があったなら良かった」
「魔法の詠唱が一切聞き取れないのが難点と言えば難点だが、ハルカの魔法は的確に飛んでくるからな。何を掛けられたか分からなくても、そう困らんが」
そうなのだ、私が魔法を使うときに唱える呪文は、この世界の人の耳には音としてしか聞こえないらしい。何を言っているのかは分からないのだ。
そうじゃなければ、あんな恥ずかしい言葉、毎回叫べない…。
厨二病満載の、やたら長くてもったいぶったかっこいい詠唱を唱えるよりなら、チチンプイプイの方が若干…本当に、若干まし……かも。
「でも、何の魔法をかけられたか分からないって言うのは、確かに不便ですよね。その変、どうにか改善できないかな…?」
オーウェンさんの言っていることは正論なので、改善できるものなら改善したい。でも、恥ずかしい呪文は聞かれたくない、ジレンマである。
「ハルカは呪文を唱える時、生まれた国を考えて唱えているのですか?」
「……うーん…どうなんだろう?呪文を聞かれたら恥ずかしいなぁ、って思ってたりはします」
エヘっと照れ笑いを浮かべて応えると、ふむ、とアルバートさんが腕を組んで考え込んだ。なにか良い案があるのかな?
「ハルカ、すまんがさっき怪我したところを治してもらいたいんだが、いいか?」
「はい、全然OK」
魔力の枯渇は問題だけど、使わなければ減らないし、減らなければ回復させるために努力しない、という、負のループを回避するためにも、できるだけ魔法を使った方が良いだろうという結論になって、些細な怪我でも魔法で治すことになっている。
なんだか手の平の上で、コロコロと転がされた感がしないでもないけど、言っていることは分からなくもないので、アレを考えると恥ずかしくて悶え転がりそうになるけど、頑張って魔法を使っている。
『チチンプイプイ、痛いの痛いの飛んでいけー』
杖の先を怪我をした場所に向けて呪文を唱えると、ふわっと光の花びらが飛び出した。肩の打撲程度の怪我だったからか、現れた花びらの数は少し少ない。
痛めた場所を撫で撫でするように花びらが舞って、そして消えていった。
「うん。それにしてもハルカの魔法は、何度見ても綺麗だな。そして、凄いな。もう全然痛まない」
グルグルと肩を回して、感心したようにオーウェンさんが呟いた。
確かに、自分で言うのも自画自賛で恥ずかしいけど、私の使う魔法の現象はどれも綺麗だ。淡い光の花弁が舞う、光の粒が振り注ぐ。幻想的で神秘的ですらある。
これが自分の力よ!と誇れればいいんだろうけど、どうしても女神様に授けてもらった力って印象が強くて、毎回ありがたいと思ってしまう。なんだろう、仏壇に手を合わせるような感じかな。
「ところで、ハルカ。俺にエリオット並みに俊敏に動ける魔法、ってのはかけられるか?」
「俊敏…ですか…」
「ああ。俺は消して愚鈍ではないと思っているが、速さでいけばエリオットには叶わない。その分、パワーと耐久力には自信がある」
つまり弱点を補強したいってことか。でも…
「動きを早くする魔法はあります。エリオットくんに毎回掛けてますから。でも。それは長所を伸ばす、という意味合いで使ってたので、苦手部分にかけた場合、どんな効果になるかは、かけてみないとわからないです」
「うむ、それじゃあ、ちょっとかけてみてくれるか?いや、余裕があればでいいんだ」
意識を集中して、魔力の残りを確認してみる。まだ半分以上はあるから、大丈夫。そう判断してオーウェンさんに向けて呪文を唱えた。
『チチンプイプイ、動きが早くなーれ!』
あれ、なんか呪文が違う気が…あ、でも発動した。
行動力を上げるときの呪文を度忘れして、見も蓋もない呪文になってしまったが、どうやら魔法として成立したらしい。光の粒がオーウェンさんに降り注いだ。
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