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31.初めての事って、不安だよね
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こちらの世界とは違う魔法。もう一人のプリュムが教えてくれた方法で編み出した魔法が上手く行けば、魔力酔いを起こさずに一度に沢山の人を点から点へと移動させることができるかもしれない。
そうすれば、町の人たちを助けることができる。
そう思うと、自然と胸が浮き立ってきた。
私だって戦には無縁の、ただの女子大生だけど、今は戦える力を持ってしまった。それは自分の意思じゃないけれど、生まれつきのものなんてのは全部自分の意思じゃないしね。
人を助ける力があるなら、一人でも多く助けたい。
戦いなんかない平和な国で生まれ育ったけれど、災害がないわけじゃなかった。想像もしていなかったあの災害の時、手を差し伸べてくれる人がいなかったら、今こうして元気に魔法少女なんてしていられなかった。
恩には恩で返せ。死んだおばあちゃんが言ってた。受けた恩を誰かに返せば、その人がまた誰かに恩を返してくれる。そうして善意の輪を繋いでいくんだ。って言ってた。
「ああ、だめだめ。湿っぽくなっちゃった」
おばあちゃんの事を思い出したら、ちょっと泣きそうになっちゃって、慌ててパタパタと手で顔を仰いだ。
「私は私にできることをやる。その為にも、この魔法がちゃんと使えるって、確かめないと」
小さく握りこぶしを作って自分を鼓舞し、足取り軽く館へと向かうと、なんだか騒がしい声が聞こえてきた。
「なに?」
オーウェンさん達が来て、魔法の特訓をしてる時とかだと割と人の騒ぐ声も聞こえたりするけれど、普段はわりと静かなこのお屋敷が、こんなに騒がしいなんて珍しい。
一体何が起こったのかと、慌てて走り出す。
「…っ、あれは…おじいさん!」
裏庭から聞こえる声を頼りに走っていくと、庭師のおじいさん、トムさんがワタワタと走り回っていた。
「どうしたんで…っ、キャー!やだっ、なにこれっ、やっ…イヤーッ!」
走っていった先は、阿鼻叫喚だった。
何もない空間から、ぞろぞろと森の動物や虫達が列を成して出現してきていたのだ。
リスや、いたち、うさぎなんかの小動物、トカゲやカエル、私には見分けの付かない虫達が、ふっと現れるのはなんとも恐怖の現象だった。
「なにー、これやだっ、えっ、なんで?」
動物達も突然目の前に現れた私とお爺さんに驚いているのか、バラバラと四方に散っていく。
そんな騒ぎを聞きつけたのか、人の気配が遠くからしてきた。
「どうした!なにがあったんだ!」
後ろにアルバートさんを引き連れたマクガレンさんが、もう身体は大丈夫なのか小走りで走ってくる。
「それが旦那様、突然この動物達が現れまして…あっしも何がなんだか分からないんでございます」
被っていた帽子を手に取って、しどろもどろになりながらお爺さんが説明してくれた。よっぽど気が動転しているのか、手にした帽子を握ってこねくりまわすから、帽子がヨレヨレになってしまっている。
「突然動物が湧いて出るなど、そんなおかしなこと…」
はい、起こってるんです。
さっきまでの勢いはなくなったけれど、それでも時折ポツリポツリと動物だったり虫だったりが、なにもない空間から飛び出してくる。
信じられないものを見たような顔をしていたマクガレンさんとアルバートさんだったけど、立ち直るのは若さの分だけアルバートさんの方が早かった。
「師匠、これは、転移魔法では…?」
「え?…っ!…」
転移魔法…。そう聞いた瞬間、ハッと転移魔法を発動させっぱなしだったことを思い出した。
確かに何もない空間から動物が出てくるなんていうのは、普通じゃありえない現象だし、これが転移魔法なら納得がいく。
「ハルカ、まさか君がこれを?」
ここで魔法が使えるのは私とマクガレンさんとアルバートさんの三人。そのうち、マクガレンさんとアルバートさんが魔法を使っていないなら、残るは私一人。
簡単な消去法の果てに確かめるように私を見つめてきたアルバートさんの視線に、思わず首が竦んでしまった。
「ご、ごめんなさい!ちょっと色々あって、なんとか転移魔法が発動できたから、ちゃんと使えるかどうか確認してもらおうと思ってたんだけど、まさか動物が通るとは思ってなくて…」
ごめんなさいと、頭を下げた。
ちゃんと、消しておけば良かった。アルバートさんかマクガレンさんを連れて行ってから、魔法を発動させれば良いだけなのに、ちょっと上手く行ったと思っていい気になってたからこんなことになっちゃうんだ。
「魔法、消してきます!」
「あっ、ハルカっ…」
失敗してしまった恥ずかしさと居たたまれなさで、アルバートさんの顔がまともに見れなくて、下げた頭を上げきらずに後ろを向いて走り出した。
後ろからアルバートさんの声が聞こえたけど、それよりも先に魔法を消してこの騒ぎを収めないとと、そればかり考えて私は必死に走った。
どうしてこう、上手くいかないんだろう。
役に立ちたいと思って頑張るのに、いつも空回りしちゃう。
お世話になってるマクガレンさんに迷惑かけちゃうなんて、ほんとに私ってだめだなぁ。
久しぶりにがっつり落ち込みながら走っていくと、私がさっき発動させた転移ゲートがまだ淡いピンク色に光って建っていた。
「良かった…のか?いやいや、早く消さないと」
まだ転移のゲートが残っていることを一瞬喜んじゃったけど、これが残ってたら生き物がここを通ってお屋敷の方へ迷惑をかけちゃう。だから消さなきゃ。
「えーと、消すときは……デリート!」
プリュムが教えてくれた知識は確かなもので、消去の呪文を唱えると同時に、ピンクのゲートはゆらりとその姿を揺らめかせながら消えていった。
「…良かった、消えた。これで、とりあえず勝手に動物とかが通ることはないね」
パンパンと手を払うと、腰に手を当ててゲートがあったところを感慨深げに見下ろした。
「消して、しまったんですか…はぁ、はぁ…はっ…」
「え?…あ、アルバートさんっ!」
よしよし上手くいったと思っていたらら、背後から息切れしたアルバートさんの声が聞こえてきた。
「え、あ、あのっ、だってこのままじゃ、動物が…」
「ああ、そうですね…では……もう一度転移魔法を見せてもらうことは可能ですか?」
ちょっと考え込んだ後、申し訳なさそうにアルバートさんが切り出してきた。
「あ、はい。大丈夫です」
「それでは、ここからさっきの場所まで同じように道を作ってくれますか?通ってみます」
「え?アルバートさんが通るんですか!?」
そりゃ手伝ってもらおうとは思っていたけど、先に私が通って、やばくなったら助けてもらおうと思ってたんだけど、先に通しちゃっても大丈夫かな?
初めての魔法は、不安のほうが先に立ってしまう。
さっき通ってきた動物たちの様子をみるかぎり、そんなに変なことにはならないと思うけど、やっぱりちょっと心配。
「大丈夫ですよ。これまでも、かなり身体に負担がかかるような、転移魔法も通りましたから。いざと言うときの対処は慣れたものですよ」
穏やかそうな声で、いつもと変わらない優しい笑顔でそういうから、なんだか大丈夫な気がしてきた。
「本当に大丈夫なんですよね?私を安心させようと、嘘をついてたりしませんよね?」
「ええ、大丈夫ですよ。私は嘘が下手ですからね。通れないようなら、最初から言い出しませんよ」
嘘を言っているようには見えない微笑に納得して、私はもう一度同じ魔法を発動させた。
「あっちとこっち、繋いで通れるポータルをここに!」
最初に作られたときと同じ用に、派手な音も光もなく、ただそこにゆらりとピンクのアーチ型のゲートが出来ていた。
「おお、これがそうですか。私達が作るものとは違いますね。へぇ…」
大人が二人並んでも余裕がありそうなアーチを、何度も何度も観察して、アルバートさんは躊躇うことなく一歩を踏み出した。
「ハルカはここで待っていてください」
「はい、気をつけて」
自分で作った通路を通る人に気をつけて、と言うのもおかしな話だけれど、でもそれ以外何を言っていいのか分からなかった。
ゆったりとした足取りでアーチを潜るアルバートさんの姿が、空間の歪みの中へ完全に消えるまで、まんじりともせずに見送った。
「…っ…はぁ…」
あんまりにも真剣に見送りすぎて、息をするのを忘れてしまっていたみたい。
アルバートさんの姿が見えなくなると、体中の空気が抜けていくくらい、長いため息が口を突いて出てきた。
「あー、どうしよ。本当に大丈夫なのかな…。いやでも、アルバートさんは大丈夫だって言ってたし」
姿が見えなくなると急に不安になってきて、私は檻の中の熊ヨロシク、ウロウロとその場で歩き出した。行ったり来たりを繰り返しながら、アルバートさんが無事にお屋敷まで辿り付けます様にと願いながら、ウロウロ歩きを繰り返す。
行って帰ってを二十回過ぎた頃、草を踏み分ける足音が聞こえてきた。
「アルバートさんっ!」
無事でありますようにと願いながら振り返った先には、いつもと変わらない優しい笑みを浮かべたアルバートさんが見えた。
「ほら、大丈夫だったでしょう?」
「わーん…よかったー」
アルバートさんの無事な姿を目にしたら、緊張が一気に弛緩してブワリと涙が込み上げてきた。
転移魔法のトンネルを通ると、魔力に酔って具合が悪くなるってオーウェンさんに言われてたから、元気な顔を見るまで心配だった。別に死んじゃうくらいの恐ろしいことになるとは思ってなかったけど、それでも自分の運転で同乗者が酔ったら罪悪感を感じるじゃない?それと似たようなものかな。
何事もなく戻ってこれて、本当に良かった。
「ハルカは心配性ですね。でも、だからでしょうか。ハルカの転移魔法は、酔ったりするようなことがありませんでしたよ」
「え?本当ですか?お世辞じゃなくて?」
具合が悪くなることなく離れた場所へ移動できたと言われて、ジワジワと喜びの波が全身を巡っていく。
「お世辞を言うのは苦手なんですよ。だから、本当の事ですよ」
嬉しい言葉に、頬が紅潮するのが分かる。
自分の頑張りが認められるのって、やっぱり嬉しい。後は、これがどこまで通用するか確かめなくちゃ。
自分に言い聞かせて、グッと小さな握りこぶしを作った。
そうすれば、町の人たちを助けることができる。
そう思うと、自然と胸が浮き立ってきた。
私だって戦には無縁の、ただの女子大生だけど、今は戦える力を持ってしまった。それは自分の意思じゃないけれど、生まれつきのものなんてのは全部自分の意思じゃないしね。
人を助ける力があるなら、一人でも多く助けたい。
戦いなんかない平和な国で生まれ育ったけれど、災害がないわけじゃなかった。想像もしていなかったあの災害の時、手を差し伸べてくれる人がいなかったら、今こうして元気に魔法少女なんてしていられなかった。
恩には恩で返せ。死んだおばあちゃんが言ってた。受けた恩を誰かに返せば、その人がまた誰かに恩を返してくれる。そうして善意の輪を繋いでいくんだ。って言ってた。
「ああ、だめだめ。湿っぽくなっちゃった」
おばあちゃんの事を思い出したら、ちょっと泣きそうになっちゃって、慌ててパタパタと手で顔を仰いだ。
「私は私にできることをやる。その為にも、この魔法がちゃんと使えるって、確かめないと」
小さく握りこぶしを作って自分を鼓舞し、足取り軽く館へと向かうと、なんだか騒がしい声が聞こえてきた。
「なに?」
オーウェンさん達が来て、魔法の特訓をしてる時とかだと割と人の騒ぐ声も聞こえたりするけれど、普段はわりと静かなこのお屋敷が、こんなに騒がしいなんて珍しい。
一体何が起こったのかと、慌てて走り出す。
「…っ、あれは…おじいさん!」
裏庭から聞こえる声を頼りに走っていくと、庭師のおじいさん、トムさんがワタワタと走り回っていた。
「どうしたんで…っ、キャー!やだっ、なにこれっ、やっ…イヤーッ!」
走っていった先は、阿鼻叫喚だった。
何もない空間から、ぞろぞろと森の動物や虫達が列を成して出現してきていたのだ。
リスや、いたち、うさぎなんかの小動物、トカゲやカエル、私には見分けの付かない虫達が、ふっと現れるのはなんとも恐怖の現象だった。
「なにー、これやだっ、えっ、なんで?」
動物達も突然目の前に現れた私とお爺さんに驚いているのか、バラバラと四方に散っていく。
そんな騒ぎを聞きつけたのか、人の気配が遠くからしてきた。
「どうした!なにがあったんだ!」
後ろにアルバートさんを引き連れたマクガレンさんが、もう身体は大丈夫なのか小走りで走ってくる。
「それが旦那様、突然この動物達が現れまして…あっしも何がなんだか分からないんでございます」
被っていた帽子を手に取って、しどろもどろになりながらお爺さんが説明してくれた。よっぽど気が動転しているのか、手にした帽子を握ってこねくりまわすから、帽子がヨレヨレになってしまっている。
「突然動物が湧いて出るなど、そんなおかしなこと…」
はい、起こってるんです。
さっきまでの勢いはなくなったけれど、それでも時折ポツリポツリと動物だったり虫だったりが、なにもない空間から飛び出してくる。
信じられないものを見たような顔をしていたマクガレンさんとアルバートさんだったけど、立ち直るのは若さの分だけアルバートさんの方が早かった。
「師匠、これは、転移魔法では…?」
「え?…っ!…」
転移魔法…。そう聞いた瞬間、ハッと転移魔法を発動させっぱなしだったことを思い出した。
確かに何もない空間から動物が出てくるなんていうのは、普通じゃありえない現象だし、これが転移魔法なら納得がいく。
「ハルカ、まさか君がこれを?」
ここで魔法が使えるのは私とマクガレンさんとアルバートさんの三人。そのうち、マクガレンさんとアルバートさんが魔法を使っていないなら、残るは私一人。
簡単な消去法の果てに確かめるように私を見つめてきたアルバートさんの視線に、思わず首が竦んでしまった。
「ご、ごめんなさい!ちょっと色々あって、なんとか転移魔法が発動できたから、ちゃんと使えるかどうか確認してもらおうと思ってたんだけど、まさか動物が通るとは思ってなくて…」
ごめんなさいと、頭を下げた。
ちゃんと、消しておけば良かった。アルバートさんかマクガレンさんを連れて行ってから、魔法を発動させれば良いだけなのに、ちょっと上手く行ったと思っていい気になってたからこんなことになっちゃうんだ。
「魔法、消してきます!」
「あっ、ハルカっ…」
失敗してしまった恥ずかしさと居たたまれなさで、アルバートさんの顔がまともに見れなくて、下げた頭を上げきらずに後ろを向いて走り出した。
後ろからアルバートさんの声が聞こえたけど、それよりも先に魔法を消してこの騒ぎを収めないとと、そればかり考えて私は必死に走った。
どうしてこう、上手くいかないんだろう。
役に立ちたいと思って頑張るのに、いつも空回りしちゃう。
お世話になってるマクガレンさんに迷惑かけちゃうなんて、ほんとに私ってだめだなぁ。
久しぶりにがっつり落ち込みながら走っていくと、私がさっき発動させた転移ゲートがまだ淡いピンク色に光って建っていた。
「良かった…のか?いやいや、早く消さないと」
まだ転移のゲートが残っていることを一瞬喜んじゃったけど、これが残ってたら生き物がここを通ってお屋敷の方へ迷惑をかけちゃう。だから消さなきゃ。
「えーと、消すときは……デリート!」
プリュムが教えてくれた知識は確かなもので、消去の呪文を唱えると同時に、ピンクのゲートはゆらりとその姿を揺らめかせながら消えていった。
「…良かった、消えた。これで、とりあえず勝手に動物とかが通ることはないね」
パンパンと手を払うと、腰に手を当ててゲートがあったところを感慨深げに見下ろした。
「消して、しまったんですか…はぁ、はぁ…はっ…」
「え?…あ、アルバートさんっ!」
よしよし上手くいったと思っていたらら、背後から息切れしたアルバートさんの声が聞こえてきた。
「え、あ、あのっ、だってこのままじゃ、動物が…」
「ああ、そうですね…では……もう一度転移魔法を見せてもらうことは可能ですか?」
ちょっと考え込んだ後、申し訳なさそうにアルバートさんが切り出してきた。
「あ、はい。大丈夫です」
「それでは、ここからさっきの場所まで同じように道を作ってくれますか?通ってみます」
「え?アルバートさんが通るんですか!?」
そりゃ手伝ってもらおうとは思っていたけど、先に私が通って、やばくなったら助けてもらおうと思ってたんだけど、先に通しちゃっても大丈夫かな?
初めての魔法は、不安のほうが先に立ってしまう。
さっき通ってきた動物たちの様子をみるかぎり、そんなに変なことにはならないと思うけど、やっぱりちょっと心配。
「大丈夫ですよ。これまでも、かなり身体に負担がかかるような、転移魔法も通りましたから。いざと言うときの対処は慣れたものですよ」
穏やかそうな声で、いつもと変わらない優しい笑顔でそういうから、なんだか大丈夫な気がしてきた。
「本当に大丈夫なんですよね?私を安心させようと、嘘をついてたりしませんよね?」
「ええ、大丈夫ですよ。私は嘘が下手ですからね。通れないようなら、最初から言い出しませんよ」
嘘を言っているようには見えない微笑に納得して、私はもう一度同じ魔法を発動させた。
「あっちとこっち、繋いで通れるポータルをここに!」
最初に作られたときと同じ用に、派手な音も光もなく、ただそこにゆらりとピンクのアーチ型のゲートが出来ていた。
「おお、これがそうですか。私達が作るものとは違いますね。へぇ…」
大人が二人並んでも余裕がありそうなアーチを、何度も何度も観察して、アルバートさんは躊躇うことなく一歩を踏み出した。
「ハルカはここで待っていてください」
「はい、気をつけて」
自分で作った通路を通る人に気をつけて、と言うのもおかしな話だけれど、でもそれ以外何を言っていいのか分からなかった。
ゆったりとした足取りでアーチを潜るアルバートさんの姿が、空間の歪みの中へ完全に消えるまで、まんじりともせずに見送った。
「…っ…はぁ…」
あんまりにも真剣に見送りすぎて、息をするのを忘れてしまっていたみたい。
アルバートさんの姿が見えなくなると、体中の空気が抜けていくくらい、長いため息が口を突いて出てきた。
「あー、どうしよ。本当に大丈夫なのかな…。いやでも、アルバートさんは大丈夫だって言ってたし」
姿が見えなくなると急に不安になってきて、私は檻の中の熊ヨロシク、ウロウロとその場で歩き出した。行ったり来たりを繰り返しながら、アルバートさんが無事にお屋敷まで辿り付けます様にと願いながら、ウロウロ歩きを繰り返す。
行って帰ってを二十回過ぎた頃、草を踏み分ける足音が聞こえてきた。
「アルバートさんっ!」
無事でありますようにと願いながら振り返った先には、いつもと変わらない優しい笑みを浮かべたアルバートさんが見えた。
「ほら、大丈夫だったでしょう?」
「わーん…よかったー」
アルバートさんの無事な姿を目にしたら、緊張が一気に弛緩してブワリと涙が込み上げてきた。
転移魔法のトンネルを通ると、魔力に酔って具合が悪くなるってオーウェンさんに言われてたから、元気な顔を見るまで心配だった。別に死んじゃうくらいの恐ろしいことになるとは思ってなかったけど、それでも自分の運転で同乗者が酔ったら罪悪感を感じるじゃない?それと似たようなものかな。
何事もなく戻ってこれて、本当に良かった。
「ハルカは心配性ですね。でも、だからでしょうか。ハルカの転移魔法は、酔ったりするようなことがありませんでしたよ」
「え?本当ですか?お世辞じゃなくて?」
具合が悪くなることなく離れた場所へ移動できたと言われて、ジワジワと喜びの波が全身を巡っていく。
「お世辞を言うのは苦手なんですよ。だから、本当の事ですよ」
嬉しい言葉に、頬が紅潮するのが分かる。
自分の頑張りが認められるのって、やっぱり嬉しい。後は、これがどこまで通用するか確かめなくちゃ。
自分に言い聞かせて、グッと小さな握りこぶしを作った。
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