転生の行く末

かじ たかし

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試練その壱

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 「15時32分サインで女性の方。以上です。お疲れ様です、じゃあこのまま下道で帰社します」配達伝票をパラパラ捲り受取の時間を事務員に伝え、汗で濡れているTシャツを着替える。そのまま近くのいつも寄るコンビニエンスストアに煙草の替えと缶コーヒーを買いに行く。大阪市内のこの時間帯は制服姿の高校生が目立つ。彼女のいない悠には目の保養になる。自動ドアが開き店内に歩を進める。店内を入ってすぐ左側に雑誌コーナーがあり、ほぼ毎日顔を会わせる高校生の女の子2人組がいる。コンビニは敢えて雑誌コーナーを入り口に面した場所に設けるようだ。立ち読みをする人が自然と他のお客さんの入店を促しを行っているのだろう。その事にコンビニに寄る人は恐らく気づいてはいない。実の所自分自身がそうだった。いつもこのコンビニに寄る。それは外から見える立ち読みコーナーにいる女の子が自分のタイプだったからだ。と言っても話した事もないし、名前すら知らない。
達也と飲み屋での会話を思い出し、少しは女に興味が湧き前向きに考える事にしたのだ。そう思いながら盗み聞きでもしてやろうと、自分も雑誌を手に取り少し間を空けページを捲るふりをする。内容等見ておらず、耳だけに神経を集中させる。
「そういや朱鳥は彼とそろそろ一年くらいになるんじゃない」悠の目当てではない方の女が詰問している。どうやら彼女の名前はアスカらしい。そして聞こえてきた言葉の1つ目から悠は落胆する。彼氏がいるらしいからだ。そんな事よりも何処かで聞いた名前だなとも思った。
「うん。まあそうなんだけど、実際のとこ彼はあまり家に帰ってこないから会えるのは月二回がいいとこだし。そんな実感はないかな」アスカが雑誌に目を落とし受け答えしている。
「そっか。遠距離恋愛じゃないけど彼の仕事がそんな感じだもんね。今日何時からバイトだっけ」
「今日は19時から。ミクもでしょ」
「そうそう。なんかいい出会いないかな」
「こないだ来てた作業着の2人組カッコよかったよね」
「わかるわかる。あの金髪っぽい人でしょ。結構飲んでてちょっと絡んで来てくれたんだけど、連絡先は聞いてくれなかったな。またこないかな」どうやらこの2人は同じバイト先で働いているようだ。それも恐らく居酒屋といった感じだろうか。意外と店員もまんざらでもないんだなと1つ勉強する。
「今度来たら思い切ってこっちから聞いてみなよ」アスカはミクを唆す。
「そんなの如何にも男に飢えてますって感じが見え見えでヤバくない」本棚に雑誌を丁寧に戻しながらミクは言った。
「大丈夫大丈夫」アスカもそれに倣い雑誌を戻す。「そろそろ行かないとね」床に置いた学生鞄を拾い上げ入り口へと並んで歩き出す。レジを終えたサラリーマン風の男と入り口で鉢合わせになり、男がお先にどうぞと手を自動ドアに向けていた。2人は軽く頭だけを下げ先にドアを潜る。悠も少し間を空け後ろに付いて行く。
「ガシャン」と大きな音が聞こえ前を見ると直視できない光景が広がっていた。そのコンビニのビルが舗装工事わ行っていて、建物の周りは鉄骨が組まれていた。その作業中に不具合が起き鉄骨が上から落下し、アスカとミクの2人は下敷きになった。鉄骨の隙間から帯びただしい赤色の液体が流れ出ている。
悲鳴が交錯する。誰か救急車を呼べと誰か分からないが口々に叫んでいる。
気付けば鉄骨を人が取り囲んでいた。自分もその輪の中にいた。皆で退かそうと誰かが言い出し、通る人々が集って声を掛け合いやっとの事で動かせた。1人は脚が挟まり命に別状はなさそうだが、もう1人は頭部が挟まり原型を失っていた。脚が挟まったのがミクだった。とゆう事はもう1人は。猛烈な嘔吐感に襲われその場に立っていられなくなり、目を背けコンビニのトイレに駆け込んだ。

 全身ビッショリと汗を掻いていた。まるでシャワーを浴びタオルで身体を拭わないまま寝転んだかのように。目覚まし時計が鳴り出した。過剰に反応し転がりベッドを抜け出す。窓に目を遣ると心地よい朝の光がカーテンの隙間から差し込み、部屋に温もりを与えていた。夢だったのか?とゆうより俺は死んだんじゃなかったのか?アスカは?あの火の鳥は?そう言えばあの鳥はアスカとゆう女を守れとか言ってなかったか?達也と恋愛話をしたのは夏だったような気がする。と思い携帯電話の画面を見る。4月3日AM6:35だった。どうゆう事だ。訳が分からず取り敢えず汗を掻いた身体が気持ち悪くシャワーを浴びる。頭を洗いながらまた考える。一体何がどうなってるんだ。全部が全部夢であったならそれでいい。まず死んだなら今のこの状態が分からない、それにアスカとゆう女の子が死んだならあの後どうやって家に帰ったのだ。そんなに記憶が飛ぶ事はありえないだろう。無意識のまま車を運転して会社まで戻り、そこから帰路に着いたとは到底思えない。考えれば考える程分からなくなった。シャワーを浴び終え作業着に身を包む。仕事前に風呂に入る事などなかったので変な気分だった。
朝飯は食べない主義だ。そしてテレビを付ける事もない。そそくさと家を出て会社に向かう。事務所に着きシャッターが降りている事に気が付き、まだ誰も来てないのか。面倒くさいがドアの鍵を開け警備会社のセンサーを解除する。タイムカードを押そうと機械に目を遣ると今日は日曜日だった。思わず「えっと」声を漏らす。休みじゃないか。ますます訳が分からなくなった。
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