転生の行く末

かじ たかし

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試練その壱

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 何を信じればいいんだろうか。誰に話せば理解してもらえるのだろうか。悠にはそんな事を話せる相手が思いつかなかった。結局誤って日曜日なのに出勤したがする事も浮かばなかったので、自分が暗闇の中に入った時の事を思い返す。
確かにあの火の鳥はお前は死んだと言った。それからこうも言った。ある女を守り抜けと。それが昨日見たあの光景だ。夢かどうなのかも分からないのだが。名前はアスカ。それも自分が実際何度も顔を見た事のある子だ。その上密かながら好感を抱いていた。何故鳥はあの女の子の存在を知っているのだ。鳥が言う災難から救えと言うなら昨日の見た光景は夢だった事になる。今こうして息をしておまけに煙草まで吹かせているのだから、彼女は死んではいないのだ。
大きく溜息を吐き深まっていく謎に覆い尽くされていくのを実感する。どうにかしてあの暗闇に包まれた時の事を知る方法はないのか。
火を消したばかりなのに新たに煙草に火を点けた。誰もいないからいいやと思い、事務所の冷蔵庫から缶コーヒーを取り出した。ソファに寝転がるようにして倒れこむと壁に掛けてあるカレンダーが目に入った。慌てて起き上がり日付を見ると4月になっている。そうだった朝携帯で見た時に違和感を感じていた事を忘れていた。目の前が真っ暗になったのは確か今よりもっと暑く、着替えがいる位だったはずだ。「もっと思い出せ」誰もいないのに声を出していた。
そうだ。配達中にFMラジオで海開きやら海の日がどうのこうのと話していた気がする。
カレンダーの海の日を探しページを捲る。7月19日月曜日の祝日だった。とゆう事はそれより以前のはずだ。今より3カ月程後になる。やはりあの時自分の身に何かが起こり、不運の死を遂げたのだ。大きな病を患った事もないので可能性としては事故。今朝方見た夢を思い出してしまい気分が悪くなった。
本当かどうか調べてみる必要があると思い、記憶げ飛んだ場所に今から向かってみる事にした。慌てて缶コーヒーと吸い殻をゴミ箱に放り投げ、施錠して会社を出た。何か手掛かりが欲しい。自分の記憶の答え合わせになるならなんでも良かった。とにかく何かしていないと落ち着かなかった。

 阪神高速湾岸線は空いていた。休日だからなのだろうか。仕事のある日は大抵市内を通る環状線は渋滞しているのだが。と思いながら阿波座を降りる。社用車は流石にバレると厄介なので自分の車を走らせていた。悠は自分の車で市内に来る事はおろか、高速道路ですら数える程しか使用した覚えがない。こんな事も知らずに俺は死んでしまったと言うのか。寂しいもんだなと他人事のように思った。
市内での配送ルートは粗方決まっている。高速の降り口である阿波座近辺の大阪市中央区から始まり、西区、北区、遠くても生野区くらいのものだ。市内は区の感覚は狭い。遠い所であっても、ものの30分程度あれば往復は可能だ。例の現場に向かう前に定番のルートで1から順に回る事にした。何か変わった事があるかもしれない。とゆうより何か変わった事があって欲しいのかも知れない。何故なら今動かしているつもりでも、実際は夢だったりするのだ。どれが現実かどれが幻なのかの区別がつかなくなっている。
 日曜日の市内は平日とは打って変わって、路駐している車種が異なっている。その上皆私服で出歩いているので、違う土地を見ているようだ。自分の記憶と変わった所と言えばその事ぐらいで街にはなんら変わりはなかった。今朝見た夢なのかは分からないコンビニの前を通る時、店内を覗くとアスカと呼ばれる女の子の姿はなかった。それもそのはずだ。今日は日曜日だから学校は休みなのだ。そして恐らく自分が事故に遭った場所に到着した。左にウィンカーを出し信号待ちする。周りを見渡すが事故を起こしたような形跡も全く見当たらなかった。そのまま何も起きずに信号が変わり左折した。その後5件程配達作業着を回ってみたが何も起こらなかった。

 帰りは下道で帰る事にした。実費な上に暇を持て余すのも嫌で、運転しながら考え事をしたい気分でもあった。
本当に3カ月前に戻ったのか。今朝見たものが夢で今が現実である事に、どうやら間違いなさそうだった。となるとアスカを本格的に救わなくてはならない。だが仕事もあるのだ、毎日尾行なんてしていられない。まずはどのようにして彼女に接近したらいいのかも思い浮かばない。第一怪しまれるのではないのか?何度か会話はなくてもあのコンビニで顔は合わせている。どうしたものかと考え、明日アスカが現れるコンビニに行ってみる事から始めようと思った。気がつけば家の前まで戻って来ていた。自分が実際に死ぬまで3カ月近くある。それまでの間彼女を守る事だけ考えよう。それが今出来る未来を変えられる方法なら。どうせ一度死んだのだからやれる事はやろう。今日もまた夢を見るのだろうかと不安になりながら瞼を閉じた。
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