転生の行く末

かじ たかし

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試練その参

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 太陽がぼやけずにそのまま映し出される程に、傷1つ見当たらないスカイラインのボディに酔いしれる。5月5日。今年のゴールデンウィークは長く、丁度今日が折り返しの曜日となっている。例年通りの連休ならパチンコやレンタルしたDVDを見てダラダラ過ごすだけの日々だが、今年は悠にとって最高の休日になると言っても過言ではない。なんといっても自分の好みである女性とデートの約束を交わしているからだ。そして自分に残された道はただ1つ、その女性を守り抜く事。悠は開き直りありのままの自分でいる事を決意した。任務をただやらされているのではなく、自分がそうしたいと思う状況を作り出したのだ。その相手の事を本気で好きになってみようと。
 
 午後1時に朱鳥の自宅まで迎えに行く約束だった。今はまだ12時を少し回った所である。家にいても落ち着かず、煙草を20分で5本も灰にしてしまい外に出ることにした。磨きたてのスカイラインを見ていると心が安らいだ。それにこの後女性を助手席に乗せる事になると想像するだけで、手に汗を掻いている。何の会話をしたらいいのか、どこに行けばいいのか、何も決めていなかった。
結局2日前の3日には達也と連れ立ってアメリカ村と呼ばれる若者の服屋がずらりと並んだ場所に入り込み、キャッチセールスをしているこれまた若者に声を掛けられその店で4万近く使い込んだ。その分全身コーディネートしてもらった。今日はそのまんまの通り服を着ている為、どこか自信に満ち溢れている。
車に乗り込み、エンジンを掛ける。雲ひとつ見受けられない空からの太陽のせいで、車内は蒸せ返していた。クーラーを全開にして運転席を目一杯リクライニングさせる。朱鳥の自宅までは10分とかからない。折角入念にセットした髪の毛を崩すのも何だと思い、ヘッドレストの上で腕を交差させて頭を守り目を閉じた。

今頃になって今日のプランを立て始める。しかし何も浮かんでこない。昔からそうだった。まともにデートなんてした事もない。高校時代の彼女のミキとも、休日に会う事もないままお互いの家でイチャついて過ごした記憶しかない。その彼女自身が自分の人生で最初で最後の恋人になるとは思ってもみなかった。そう結局のところ、自分はある日を境に1度死んでまた逆戻りしているだけなのだ。
どうしても1人になるとこんな想像しか出来ないでいる。ついさっきまでは朱鳥を好きになり、守り抜こうと決めたばかりだとゆうのに。
誰の曲なのかも碌に知らないくせに、流行りに任せて購入したHIPHOPのCDが無駄にうるさく聞こえボリュームを絞る。さっきまでの暑苦しい室内はすっかり冷え切っている。悠の車はフルスモーク仕様にしている為、エアコンの効きが良好だ。フロントガラスから射し込む太陽もどこか心地良く感じられ、またウトウトし始める。
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