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1806年/冬

競技会≪ブロー≫

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「それでは、競技の練習をする授業を始めます」
 ローザ先生と俺たちは野外、学園の裏山にいた。
 俺たちと言っても、クラスだけではなく、隣のクラスも一緒だ。
 担当教師のヤンデル先生は、年こそローザ先生より上だと思うが、髪をひっつめてメガネの女教師。
 学園の野暮ったい教員用の制服で、体格も似ていて、ほぼそっくりに見える。
 辛うじて、メガネがツルでなく、紐で耳にかけるタイプの違いくらいだ。
 双子の姉妹、もしくはクローンと言われても信じてしまいそうだ。
 競技のチームで集められているので、俺の隣には、ハンナとアリスがいる。
 ハンナが、いろいろとアリスに話しかけ、首の縦横で、コミュニケーションをとっている。
 がんばれ、ハンナ!
 チームの連携は、君の活躍にかかっているぞ。
 人数が多いので、ナンシー先生も駆り出されていて、チームに一本づつ、棒を配っていた。
 俺が受け取ったが、思いの外、重い。
 金属製で、中が空洞で長さが約五十センチ、直径約五センチ。
 真ん中に、直径約五センチの横穴が空いている。
 競技に使うポールの短い版だが、これって・・・
「それでは、ブローの練習を始めます」
 ローザ先生が、指導するようだ。
「まず、一人が、このようにポールを持ちます」
 隣に立ったナンシー先生が、横穴の上下を握って、ポールを縦に持っている。
 ポールを持っていた俺が、そのまま持ち方を変えた。
「次に、もう一人が、ポールの上下に手をかざしてください。穴を塞がないように」
 ヤンデル先生が、一度ポールの上下を両手で挟むようにしてから、数センチ手を離した。
 俺に近かったハンナが、手をかざした。
「最後に、もう一人は、横穴が見える位置に移動します」
 アリスが、俺の正面に立った。
「三人目は、スクロールを用意して、横穴から風を入れ、ポールの上から出します」
 アリスが、右の人差し指を、さらっと動かした。
「スペルが書けた方から、コンパイルして、キャストしてください」
「あ!」
 ハンナが、声を出した。
 俺も、ハンナの手で方向が変わった風を、顔で感じた。
 先生が、キャストと言ったのと、ほぼ同時だ。
「アリス、もうやったの?」
 ハンナの問いに、頷く。
 さすが、天才だな。
 ローザ先生の声が響く。
「下からも風が出ていては、ダメです」
「出てないよ」
「できていたら、真ん中の横穴を塞いで、風が止まるのを確認してください」
 ハンナが、ポールの横穴を両手で握って塞いだので、俺は手を離して、上下に手をかざす、と風は止まっていた。
「止まってる」
「できたチームから、役目を交代してください」
 なんて、ローザ先生は言っているが、周りを見れば、できたのは、アリスだけだ。
 コンパイルすら、できていない子もいる。
 さすが、天才児。
「どんなスペル書いたの?」
「≪風/始点/横穴/上へ≫」
 おお、始点か。
「始点?」
 ハンナが聞く。
「はじまりの場所」
 アリスの声聞いたの、二回目じゃないか?

 俺たちは、教えてもらったスペルで、難なく課題を終えた。
 ハンナは、アリスと同室の子に挨拶したいようだったが、課題が終わっていなかった。
 そんなことより、俺はどうやってこのポールをクスネようかとばかり考えていた。
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