【完結】中身は男子高校生が全寮制女子魔法学園初等部に入学した

1806年/春

昼食≪シュバイネハクセ≫

　俺は、くみ上げ湯葉をオバちゃんたちに奪われた傷を、昼食で癒そうとしていた。
　また、射撃のスペルを考えて、バカ先輩に相談したときの違和感。
　二つのスペルを、連続で使えないのは、どうしてだろう？
　なにか、大きな壁というか、誤解いや勘違いがあるような気がする。
「エイミー、パンばっかり。お料理、冷めちゃうよ」
　ハンナに言われて、機械的にパンを口に運んでいたことに気がついた。
　それだけ、くみ上げ湯葉を取り上げられたのが、傷心だったのだろう。
　かわいそうな、俺。
　今日の昼食のメインは、シュバイネハクセ。
　豚の脚のカマド焼きで、バイエルンという近くの国の料理だ。
　皮がパリッパリで美味いのだ。
　脂を拭って、パンが進む一品だ。
　あれ？
　前に食べたときは、黄色いマスタードが添えられているだけだったのに、白い物も添えられていた。
　なんだろ？
　悲鳴が上がった。
　なんだ？
　オバちゃんたちが、走り回っている。
「白いのは、食べないでください！　上級生用の物です！」
　これか？
　ハンナの皿を見る、とマスタードのみだ。
　このマスタードも、かなり甘いやつだ。
　でも、豚の脂とだと、口がさっぱりするのだ。
　どうやら、数名の皿に、上級生用の白いのが、間違って添えられてしまったようだ。
　というか、なんだろ、これ？
　フォークの先で、ちょっとだけ、口にする。
「なんじゃこりゃ！？」
　立ち上がっての俺の野太い叫びに、ハンナの動きが止まり、注目が集まるが、気にはならない。
　鼻に抜ける風味、似ている。
　舌が幼女なので、ちょっとキツイ。
　悲鳴が上がるのもわかる。
　しかし、美味い。
「ちょ、エイミー、行儀悪いよ！」
　立ったまま、シュバイネハクセをカジる俺を、ハンナがたしなめるが、気にならない。
　一息に食べ終え、さすがに皿を舐めるわけにいかないので、パンで拭って食べた。
　無意識で、手を合わせてご馳走様をし、食器を持って、厨房の方へ急ぐ。
　そこには、オバちゃんたちが並んで立って、みんなの食べ具合を注意深く眺めていた。
　普通の声音で、
「白いのは、食べないでください。あったら教えてください」
　と一部のオバちゃんが、席の間を歩いている。
　髪をまとめ、口元を覆い、ほぼ目しか見えないオバちゃんたちの目は、厳しい。
　俺は、最高礼を示すと、
「こんな時を承知の上で教えてください。この白い物は、なんですか？」
　中央に立ったオバちゃんが、ついてこい、とするので、後を追う。
　持っていた食器は、別のオバちゃんが、受け取ってくれていた。
　ついていった厨房では、若いオバちゃんが、泣いていた。
「マリア、泣くのはお止し。失敗は誰でもある」
　どうやら、この人が、間違って白い物を皿に出したようだ。
「でも、でも、すみません」
　ぐずぐずと鼻を鳴らすのに肩をすくめ、
「この子が、あの白いのの正体を知りたいってさ、教えておあげ」
「え？　あ、はい」
　マリアの後をついていく。
　白くて太い根っこのようなものがあった。
「これを、すりオロします」
　チーズとかにも使う、おろし器でオロしてみせる。
「できあがりです」
　え？
　なんの工夫もなく、すりオロしただけ？
　って、この世界に元々あるもの？
「ホースラディッシュっていいます」
　聞いたことがあるような、ないような。
　でも、こっちでは、食べたことがない。
　でも、辛いから、幼女には、食べさせないか。
　そもそも、上級生用って、言ってたしな。
　指でつまんで、口に入れる。
「あ！？」
　マリアが、驚いた声をあげるが、気にしない。
　やっぱり、この味だ。
　でも、ちょっと幼女の舌には、キツイ。
「ぷ、プディングは残っていませんか？」
「あるよ」
　オバちゃん自ら、もってきてくれた。
　ソイ用ソースをかけ、ちょっとホースラディッシュをつけて食べた。
　まんま、ワサビを添えた冷奴だ。
　俺の至福の顔を見て、オバちゃんの目がギラついたので、豆腐を渡す。
「なんじゃこりゃ？」
　低く、うめくオバちゃん。
　豆腐とホースラディッシュが、手渡しされて、うめき声が、厨房に広がっていく。
　深く、ため息をつき、
「こんな組み合わせがあるんだね」
　その後、豆腐とホースラディッシュの組み合わせが教師の間で一大ブームを起こすのだか、今現在、俺の胸は感動に打ち震えていた。

　教師ローザ・ロッテルーノは、「ホースラデッシュ」添えて「ソイ用ソース」をかけた「エイミー・プディング」を食べるために、忙しく口を動かしながら、呟いた。
「エイミー、じゃない？」