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七戦

鏡像世界/ジャイアント・アント

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 ガイドカーソルが出た。
 その方向へ、必死に走る。
 矢印が赤くなり、ジャイアント・アントの名と、わずかに赤が残ったバーが現れた。
 その脇にたたずむ、オカダに似た黒い鎧の青年。
「やあ、待ってたよ」
 息を切らせて、えづく僕に、
「急がなくてよかったのに。こっちに入った時点でセーフなんだから」
 言いつつ、ジャイアント・アントであろう塊に、剣を突き立てた。
 バーが真っ黒になり、湯気のようなものが上がり、水鏡をつくる。
「ゴールドを稼がせてあげられなくて悪いけど、これで、帰れるから」
 彼は、帰れると言ったにも係らず、座り込んだ。
 世界の敵は倒してしまったから、十分以内に真っ白い部屋に戻らないと、死亡扱いになってしまう。
 しかし、彼は動く気配はない。
「帰らないんですか?」
「もう疲れたんだ、みんな」
 彼の視線を追うと、三人の遺体が転がっていた。
「四人がそろったら、もう止めようって、約束してたんだ」
 彼らは、現実世界での知り合いで、車で暴走し、四人で自殺した。
 最初はやり直せると喜んでいたが、いつ呼び出されるか、いつ再び死ぬかわからない生活に、疲れたのだという。
 でも、一人で[NO]を選ぶ勇気もなかった彼らは、現実世界で、四人でパーティーを組めたら、全滅しようと話し合ったのだ。
 そして今日、ついに集まった。
 関係ない僕に迷惑をかけないように、彼らだけで、世界の敵を瀕死にし、待っていた。
「あー、これでやっと楽になるよ」
 楽になりたくて自殺したのに苦しむなんて生き地獄だよ、と自嘲気味に笑う。

>残り時間、あと五分です

「ほら、戻った方がいいよ」
「いや、でも」
 死体になるのは、怖い。
 でも、その恐れから逃げるのも、一つの手ではないだろうか。
 確かに、それも怖い。
 でも、一人でないなら。

>残り時間、あと三分です

「僕も、」
 と顔をあげると、座っていた彼が、目の前にいた。
「先輩からの最期のアドバイスだ。よっく、考えなっ」
 いきなり蹴り飛ばされ、水鏡につっこんだ。
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