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ぼうそうひつじ
アダルト・ストレイシープ
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そこには、大きな親羊がいた。
子羊と同じく、フワフワモコモコだが、その愛らしい外見からは、なぜか闘志が溢れ出していた。
『めっ!』
ビブラートのかかった一声を発し、猛全とダッシュ。
距離があったので助かったが、速い!
しかも俺が避けた脇を走り抜けた先でピタっ、と止まって、こちらを向いた。
クラーケンが封じ込まれた水晶球の中で戦った、ダツの動きにそっくりだ。
今度は、鳴きもせずに、突っ込んできた。
せめて、スタートの合図は欲しい。
辛うじてかわすが、掠られた衝撃だけで、よろめいてしまう。
フワフワモコモコなのに、ものすごい重量なんじゃないのか?
俺は、もうプライドも何もなく、たかが羊に向けて、ナイフを取り出した。
とはいえ、ステーキを切る用のナイフだ。
武器とも言えないが、所詮は羊だ。
少し傷をつければ、逃げ出すだろう。
可哀そうだが仕方ない。
『めっ!』
今度は、スタートの号令があったので、華麗にかわし様、尻の辺りに切りつけた。
ガッ、と衝撃があり、ナイフは曲がっていた。
「え?」
至近距離で回った羊の頭が、俺の腹をカチあげる。
傷みで、怯んだ隙に、足が浮いたまま頭に乗せられ、暴走が始まった。
このままでは、どこかにぶつけられてしまう。
転がり落ちても、踏みつぶされる。
まだ握っていたままだったナイフを、首筋に叩きつけるが、折れてしまった。
拳で殴るが、硬い。
左拳の骨をやってしまったのが、痛みでわかる。
周りが薄暗くなった。
建物に近づき、影に入ったのだ。
ぶつけられる、まずい!
急に、羊が止まったことで、俺は、投げ出された。
勢いがついていたので、慣性で地面を転がり、壁に当たって、ようやく止まった。
俺は、咳き込みながらも、地面に手をついて、上体を起こした。
このままでは、羊が突っ込んでくる。
どうして、羊が止まったかわからないが、急いで逃げなければ!
そして、違和感に気づいた。
地面についた左腕が、おかしくなっていた。
それは、まるで黒いガンとレットをつけたように、金属でできた昆虫の足のようになっていた。
そう、ランドウの腕のように。
でも、今は急いで、羊を回避しなければ。
そして、羊が、まったく動かないことに気がついた。
俺は、黒い左腕を、なるべく使わないようにして立ち上がり、羊に向かって歩いた。
近づく前からバチバチ、と何か音がしていた。
羊の後頭部はバックリ、と割れ、内部の機械が、火花を散らしていた。
ロボットの羊?
まさか、無我夢中で、左手でこれを壊したのか?
確かめよう、と見たら、左腕が元に戻っていた。
幻影?
見えているもの全てが信じられなくなって、俺は、その手を羊の傷口に突っ込もう、として頭の中でブザー音が鳴り響いた。
「エラー!エラー!コード零零零漆玖伍零肆肆陸!」
俺は朝、自分のベッドで目を覚ました。
昨夜、ミチルはクエストから帰るのが遅くなり、彼女が出かけている間は眠っていたカムイが起きたのも、そのタイミングだったので一日、俺に会わなかったことに、違和感はなかったようだ。
すべては夢?
左腕の骨に痛みも異常もなかった。
街外れに行ってみたが、当然のように立ち往生しているロボット羊は、なかった。
もちろん、そんなものを見た噂もない。
ただ、ステーキ用のナイフは、なくなっていた。
子羊と同じく、フワフワモコモコだが、その愛らしい外見からは、なぜか闘志が溢れ出していた。
『めっ!』
ビブラートのかかった一声を発し、猛全とダッシュ。
距離があったので助かったが、速い!
しかも俺が避けた脇を走り抜けた先でピタっ、と止まって、こちらを向いた。
クラーケンが封じ込まれた水晶球の中で戦った、ダツの動きにそっくりだ。
今度は、鳴きもせずに、突っ込んできた。
せめて、スタートの合図は欲しい。
辛うじてかわすが、掠られた衝撃だけで、よろめいてしまう。
フワフワモコモコなのに、ものすごい重量なんじゃないのか?
俺は、もうプライドも何もなく、たかが羊に向けて、ナイフを取り出した。
とはいえ、ステーキを切る用のナイフだ。
武器とも言えないが、所詮は羊だ。
少し傷をつければ、逃げ出すだろう。
可哀そうだが仕方ない。
『めっ!』
今度は、スタートの号令があったので、華麗にかわし様、尻の辺りに切りつけた。
ガッ、と衝撃があり、ナイフは曲がっていた。
「え?」
至近距離で回った羊の頭が、俺の腹をカチあげる。
傷みで、怯んだ隙に、足が浮いたまま頭に乗せられ、暴走が始まった。
このままでは、どこかにぶつけられてしまう。
転がり落ちても、踏みつぶされる。
まだ握っていたままだったナイフを、首筋に叩きつけるが、折れてしまった。
拳で殴るが、硬い。
左拳の骨をやってしまったのが、痛みでわかる。
周りが薄暗くなった。
建物に近づき、影に入ったのだ。
ぶつけられる、まずい!
急に、羊が止まったことで、俺は、投げ出された。
勢いがついていたので、慣性で地面を転がり、壁に当たって、ようやく止まった。
俺は、咳き込みながらも、地面に手をついて、上体を起こした。
このままでは、羊が突っ込んでくる。
どうして、羊が止まったかわからないが、急いで逃げなければ!
そして、違和感に気づいた。
地面についた左腕が、おかしくなっていた。
それは、まるで黒いガンとレットをつけたように、金属でできた昆虫の足のようになっていた。
そう、ランドウの腕のように。
でも、今は急いで、羊を回避しなければ。
そして、羊が、まったく動かないことに気がついた。
俺は、黒い左腕を、なるべく使わないようにして立ち上がり、羊に向かって歩いた。
近づく前からバチバチ、と何か音がしていた。
羊の後頭部はバックリ、と割れ、内部の機械が、火花を散らしていた。
ロボットの羊?
まさか、無我夢中で、左手でこれを壊したのか?
確かめよう、と見たら、左腕が元に戻っていた。
幻影?
見えているもの全てが信じられなくなって、俺は、その手を羊の傷口に突っ込もう、として頭の中でブザー音が鳴り響いた。
「エラー!エラー!コード零零零漆玖伍零肆肆陸!」
俺は朝、自分のベッドで目を覚ました。
昨夜、ミチルはクエストから帰るのが遅くなり、彼女が出かけている間は眠っていたカムイが起きたのも、そのタイミングだったので一日、俺に会わなかったことに、違和感はなかったようだ。
すべては夢?
左腕の骨に痛みも異常もなかった。
街外れに行ってみたが、当然のように立ち往生しているロボット羊は、なかった。
もちろん、そんなものを見た噂もない。
ただ、ステーキ用のナイフは、なくなっていた。
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