【完結】cat typing ~猫と麦酒~第10回ドリーム小説大賞奨励賞

まみ夜

文字の大きさ
87 / 120
番外編:春

春のお菓子

しおりを挟む
「甘いもの食べたい」
 テーブルにお料理を運びに行ったら、菊池さんが、よなよなエールをかっ喰らいながら言った。
 その声に、元ドームをベッドに寝ていた雪さんの尻尾が、煩いな、と言いたげに動く。
「喫茶タイムだから、有ってもいいと思う」
 同じようにギネスを啜りながら、なぜか同席しているソーセージの師匠も聞えるように呟いた。
 雨くんが、雪さんの尻尾にペシペシ叩かれるたびに、ビクビクするが、寝たまんま。
 ビール呑んでて、「喫茶」タイムも有名無実だろう、と思いながらも、甘いもの食べたいのは、僕も同じだ。
 リクエストで早くお店を開ける分、お客様の前でオヤツタイムともいかないからだ。
 折角、「喫茶」タイムと銘打っているのだから、お菓子は用意したい、と考えていた。
 ただ、コーヒーに一番合う甘いものは「餡子だ」という点が、譲れない。
 母方の祖父が和菓子屋をやっていた身贔屓ではない。
 水出しコーヒーの邪魔をせず、しかも負けない餡子は、超絶に合う。
 問題は、餡子を舐めてコーヒーどうぞ(嫌いではないけど)、とはいかないので、完成したお菓子としても、餡子に合わなければいけない。
「名古屋に小倉トーストとかあるじゃない?」
 菊池さんが、「餡子舐めるで何が悪い」的なことを言った後に、続けた。
 わかってないなあ。
「トーストの匂いって結構、強いから、それ一色になるかもね」
 と師匠、わかってるなあ。
 それに、トーストだから添えたいバターの匂いも強い。
 その残り香が、喫茶タイム終了後、ビールのオフフレーバーに感じられたりしても困る。
 まあ、喫茶タイムからビールの客様もいらっしゃいますけど。
「どら焼きとか?」
「正直、買ってきた方が、美味しいですよ」
 一見、単純に見えるほど、微妙な配合や職人の腕が、味に影響するものだ。
 でも、餡子を何かで挟むのは、悪くないアイディアだ。
 というより、それ以外の方法がないが、かといって、生菓子をつくれるようなテクニックはないし、凝れば今度は市販の餡子が物足りなくなる。
 できれば、提供が楽で、保存がきけば、なおいい。
 せっかくだから今の季節、春を表現できれば、和に捕らわれなくても、と上がるハードルに際限がない。
「マカロン」
 ぽつり、と師匠が言った。
「一口で食べるサイズじゃなくて、大きな生地に食べる直前、フルーツとかを挟んでるのパリで見た」
 おフランスですか。
 僕としては、単純に観光か、料理修行の一環か、とかが気になったが、菊池さんは「誰と」に興味があるようで、問い詰めている。
 師匠もそれがわかって、意味ありげにはぐらかす、という暗黒面を垣間見せていた。
 レシピを検索する、とアーモンドパウダーは、クリスマスにシュトーレンをつくったときのが、残っているはずだ。
「ねえ、怒らないから。男とでしょ?」
「いやあ、一人旅ってことでいいじゃない」
 雪さんが醒めた目で、雨くんが、ぼーっとした目で二人を見ていた。
 材料は足りそうなので、興味が他に移ったお客様方を残して、僕はカウンターに戻った。

 とりあえず、オーブンを温め始めて、鍋に水とグラニュー糖を入れ、火をつけた。
 今夜のお料理に使おう、と市場で買って冷蔵庫に入れなずに常温に戻しておいた卵を割り、卵白に粉砂糖とアーモンドパウダーを振り入れ、秘蔵の粉を足して、潰すように混ぜる。
 別に卵白を泡立てて、少し煮詰まった鍋のシロップを加えながら、更に泡立てた。
 これを、さっきの生地に少し入れて、混ざったら、残りも入れる。
 焼いたときの膨らみすぎを防ぐため、空気を抜くように混ぜるのをマカロナージュと言うようだけど、加減が微妙だ。
 天板にクッキングシートを引いて、ちょっと大きめ、五センチくらいに絞る。
 ドライヤーの冷風で乾かして、オーブンへ。
 ここまで、二十分弱。
 餡子の缶詰を開けておく。
 飽きずに駆け引きをしながら、二人がグラスを手にカウンターに来たので、先に、
「あと十五分くらいでできますけど、待ちます? コーヒーもご馳走します」
 二人は、目線でのやりとり、テーブルに残っているツマミを見て、もう一杯呑んでデザート、と判断したようだ。
「「おかわり」」
 でも、菊池さんは、もう一杯おかわりした。

 折角、一口大ではないサイズにしたので、敢えて熱々のままにしてみる、挟むのはクリーム類じゃないし。
 お皿に下の生地を敷いて、絞り器に入れた餡子をグルーリと一絞り。
 栗の甘露煮でも挟みたいところだけど、試作だからシンプルに。
 でも、求肥を入れたりもいいな、作り方知らないけど。
 上の生地を重ねたらポツンとしていて、ちょっとお皿として寂しいので、大急ぎで砂糖を入れずに生クリームを緩く泡立てて添える。
 ちょっと考えて、クリームにきな粉を少し振った。
 こちらも敢えてのアイスコーヒーを添えて、
「はい、試食お願いしますね」
 とデザートを待つだけとなっていたテーブルに置く。
「薄緑色、抹茶?」
「そんな単純じゃないでしょ」
 と疑り深い目で観察している菊池さん。
 保育園児に、泥団子でも食べさせられたのだろうか。
「いただきます」
 あまり上品にしたくなかったので、ナイフを添えなかったから、フォークで割って口に運ぶ師匠。
「これは、蓬?」
 そう、蓬の粉を入れた、蓬と餡子のマカロンだ。
 蓬の風味が好きなので、四つパックの白大福の半分に振りかけて蓬餅風に、とかに常備愛用している。
「和風と洋風の、中途半端な感じがコーヒーに合う。中途半端じゃなくて、えっと?」
「和洋折衷?」
「そうそれそれ」
 中途半端は、誉め言葉じゃないからね、保育園の先生。 
「きな粉をかけたクリームも、蓬餅っぽくて面白い。ただ、マカロンが温かいから、いろいろと香りが強くてアイスコーヒーだと負けてるかも」
「ホットだと、香りのぶつけ合いになるから、ちょっと逃げたのは、ありますね」
 感想をいただいたので、自分の分をパクリ。
 温かいから、蓬の匂いを強く感じる。
 餡子も温まっているから、ちょっと甘く感じすぎかな。
 その分、蓬としての味は、控えめになってしまっている。
 やっぱり、生地は冷えてからの方がいいかも。
 でも、餡子は温かくして挟むのが、面白そうだ。
 下の生地の蓬粉を増やして、上は減らしたら、味は強くなるけど匂いは弱く、とかもできそうだ。
「足りない」
 ぽつり、と菊池さんが言った。
「もっと餡子が分厚くていいと思う」
 いや、それじゃあ、バランスが。
「一口目で、もっとガツンと甘くてもいい」
 師匠も乗っかってくるが、それもバランスが。
 ねえ、喫茶タイムに、酔っぱらってるでしょ、二人とも?
 雪さんが、雨くんに枕にされながら片目を開け、呆れたように身体を丸めた。
 枕を外された雨くんが、きょろきょろしている。
 しばらく、試作と試食が続きそうだ。

 僕は、マカロンに合うか試し、と称して、ギネスを注いだ。

--------------------------------------------------------------------
番外編の解説(作者の気まぐれ自己満足と忘備録的な)

番外編三作目にして、もうお天気題名縛り崩壊です。
(当初は、「雨」「霞」だったのです)
餡子、蓬で別のお菓子でお天気関係調べたり、マカロンの語源とか。
うん、諦めました。

「霞+(現在の「春の霞」)」直後のお話で、番外編といいながら、時系列が順番通りで、解説いらないんじゃないか、と疑問視される今日この頃です。

元々、蓬のアイスクリームに、餡子を添えて、というアイディアだったのですが、夏にアイスって直球だ、と組み合わせを春に使ってしまったので、夏のお菓子を考えつくかは、危ういです。
(夏にアイスは直球だ、って既に縛ってますし)
まあ、そもそも続くかどうかがわからないのが、番外編の醍醐味ですよね?

メニューの「ドリンク/定番お料理」を「ドリンク/定番お料理/喫茶タイム」に改題して、喫茶タイムメニューを追記。

また、機会がありましたら、このお店にお付き合いくださいませ。

まみ夜
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。 でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。 今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。 なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。 今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。 絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。 それが、いまのレナの“最強スタイル”。 誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。 そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。

【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

異世界ショコラティエの甘い革命~チョコレートが存在しない世界でカカオを育ててバレンタインを流行らせます~

黒崎隼人
ファンタジー
【2月14日はバレンタイデー!】 現代日本でパティシエを目指していた記憶を持つ少年ルカは、貧しい農村の三男坊として異世界に転生した。しかし、そこは「チョコレート」が存在しない世界だった! 砂糖はある、ミルクもある。けれど、あの芳醇で甘美な黒い宝石だけがない。 「ないのなら、作るしかない」 ルカは森の奥で嫌われ者の「オニノミ」がカカオの原種であることを見抜き、独自に栽培を開始する。発酵、乾燥、焙煎――前世の知識と魔法を駆使して、ついに完成した「ショコラ」。その味は、粗悪な菓子しか知らなかった異世界の人々に衝撃を与え、やがて頑固な父、商魂たくましい商人、そして厳格な領主や宗教家までも巻き込んでいく。 これは、甘いお菓子で世界を変える、少年のサクセスストーリー。

火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。 五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。 都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。 見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――! 久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――? 謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。 ※カクヨムにも先行で投稿しています

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...