【完結】cat typing ~猫と麦酒~第10回ドリーム小説大賞奨励賞

まみ夜

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番外編:秋

秋のお菓子/スペシャル

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「頼んだの、モンブランだよね?」
「はい、その通りです」
「これ?モンブラン?」
「はい、その通りです」

 栗を大量にもらった。
 たまたま前を通った、駅近くの青果店でだ。
 まだお店を開く前、果物を買ったら、平日昼間にブラブラしていたので無職だろう、と怒られ。
 開店準備中を教えたら、南部市場のことを教えてくれた方がいるお店だ。
 ところで、良い栗と悪い栗を見分ける方法をご存知だろうか?
 答えは、水に浮かべる。
 沈んだのが良い栗で、浮いたのは、空洞があるなどの悪い栗。
 これは、トマトなどでも応用が利く、よく知られた方法だ。
 ただ、普通は買ってからやるもので、売る前にやるお店は、ないと思っていた。
 ところが、この青果店は、やったのだそうだ。
 ついつい、まだ売っているスイカに目が行ってしまうが、
「初めての仕入れ先だから、目利きに信用なかったんだよ」
 と全ての果物を水に浮かべてはいないらしく、安心した。
 結果、栗は、大量に水に浮いた。
 浮いたものを売る気にはなれず、たまたま通りがかった、持って帰れる体力がありそうな僕に、声をかけてきたのだ。
 とはいえ、「売り物にならない」のをもらうのも、なんだか嫌だ。
 しかも、大量に。
 食べ物だけに、結果として捨てることになったりしたら、罪悪感が物凄いことになる。
 その罪悪感を丸投げにしよう、としているのではと、疑ってしまう。
 渋る気配を感じたのか、彼女は茹でて半分に割った栗とスプーンを差し出した。
 見れば、確かに身の中央に空洞がある。
 まだ躊躇する僕への圧力は強い。
 恐る恐る、栗を口に運んだ。
 甘い!
「味はいい品種なんだけどね」
「じゃあ、なんで売らないんです?」
 中に空洞がある、とマロングラッセなど、形そのままで加工する際中に、割れてしまうのだそうだ。
 結局、持てるだけ、という名目で、全ての栗を貰うはめになった。

 栗は、獣肉と一緒に甘く煮込んで、付け合わせにするのが好きだ。
 でも、そうなる、と形のまま崩れてほしくない。
 割れるの前提で、となると確かに難しい。
 これは、売る側のプライドにかかわってくるだろう。
 でも、料理を考える側としても、プライドを擽られる。
 原点に帰ってみよう。
 栗の良さって、なんだろう?
 甘さと香だろうか。
 そして、やっぱり主役にしたい。

 茹でる、と甘味がお湯に出てしまう。
 焼いても甘味が強くなるけど、しっとり感がほしいので、栗を半分に切って、蒸すことにした。
 スプーンで、身を取り出す。
 崩れるの前提なので、気にしない。
 たまたま大きく取れた身は、栗ご飯にでもしようか。
 積み上がっていく栗の実は、実に良い香りで、ついスプーンを口に運びたくなってしまう。
 我慢して裏ごしにする。
 少量の生クリームを加えて、できあがり。

「頼んだの、モンブランだよね?」
「はい、その通りです」
 菊池さんの前には、真っ白な空のお皿と、その脇の紙ナプキンの上にクラッカーが三枚。
「これ?モンブラン?」
「はい、その通りです」
 僕は、後ろ手に隠していた、モンブラン用の口金をつけた絞り袋を出して言った。
「ストップ、と言ってくださいね」
 うにーーーっ、と細い複数本のマロンクリームで、お皿に小山を築いていく。
 ぐるーり、ぐるーり、と何周も重ねていく。
「ストップ、と言ってくださいね」
 堆くなっていくクリームの山に、菊池さんが、はっとしたように慌てて言う。
「ストップ、ストップ!」
 既に、かなりの高さになっていた。
「ごゆっくり、どうぞ」
「ちょっと、まって!」
「はい?」
 菊池さんに呼び止められて、振り向く、と物凄く疑り深い顔をして聞かれた。
「これ、時価だっけ?」
 もちろん、貰った栗でつくったのだから、どれだけ盛っても一律の特価サービス品だ。
 ようやく安心した菊池さんが、スプーンで口に運ぶ。
 そして、物も言わず、半分くらいまで、食べ進めた。
「これ、すごい栗!」
 確かに、栗八十パーセントくらいのマロンクリームだから。
 滑らかさを出すための生クリームも、敢えて主張が大人しい植物製にして、なるべく量を抑えている。
 しかも、甘さは、栗だけで、砂糖を加えていない。
 口に入れた瞬間の香りと味は、ほぼ栗だ。
「砂糖つかってないのに、こんなに甘いの?」
 言いつつ、ギネスをグビグビ呑んだ。
 そういえば、喫茶タイムなのに、コーヒーじゃなくて、お菓子に合うって最近お気に入りのギネスだね。
 栗に合わせた、インドモンスーンをメインのオリジナルブレンドを用意していたのに。
「クリームの場所によって、少し味が違う」
 生クリームを混ぜ合わせるのを、わざと完全に混ざる手前で止めているので、微妙な味の不均一さを楽しんでもらえているようだ。
 食べつくしてしまいそうなので、
「残念ですね。そのクラッカー、塩気がきいてて、マロンクリームに合うのに」
 電光石火で、スプーンをクラッカーに持ち替え、クリームをすくい、口に入れた。
 今までになかった、サクっという音が響いた。
「むーーー!」
 うん、飲み込んでから、話そうね、菊池さん。
「マロンクリームの甘さが、クラッカーの塩気に引き立てられて、これすごい!」
 瞬く間に、クラッカー二枚が、彼女の口の中に消えた。
 そして、残った一枚のクラッカーを手に、おずおずと言った。
「一律料金って、お代わりいいの?」

 目の前で絞る「モンブラン(盛り放題マロンクリーム:クラッカー三枚付)」は、喫茶メニューとしてだけではなく、夜にもデザートとして提供したため、大好評のうちに数日で、完売した。
 ただし、その代償もあった。
 僕の腕は、固めのクリームを絞り続けたために、筋肉痛になり、箸を持つのも大変になったけど、少しだけ太くなった。
 そして、菊池さんのウェストは、育った。


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番外編の解説(作者の気まぐれ自己満足と忘備録的な)

「秋の」とあったら(以下略)

えー、と。
秋になってしまいました。
どうにも夏は苦手で、そんな作者のキャラたちも、暑い最中、どうにも動いてくれなくて、秋になってしまいました。
(予想通りに、第10回ドリーム小説大賞で奨励賞もらってもお気に入りが増えないのに落ち込んで現実逃避に、第12回ファンタジー小説大賞にエントリーした物語を完結させてただけだろ?)
(それもあるけど、氷菓以外の夏のお菓子が本気で思いつかなかったのも事実)
(候補はあったのにな)
(でも、冬に暖かい部屋での方がいい、かなって思ったら、もう使えなくて)
(例のコーヒーゼリー物は?)
(コーヒー飲みながら、それもないかな、って)

和菓子の練り切りが、材料とかの入手が意外に簡単にできるのをテレビで視まして、これで秋のお菓子をつくるとしたら、毬栗?
いやいや、素直に栗つかったお菓子でいいでしょ、という発想からのお話です。
(お菓子っていうか、単なるマロンクリームだけだけど?)
(はじめは、山盛りにして出そうと思っていて、捻って目の前のお皿に、ゴムベラで塊をだすかとか)
(それを経て、目の前絞り?)
(捻って捻って360度って感じがいいでしょ?)

というか、残暑からいきなり秋も終わりになりそう、って気もしますが。
まあ、そもそも続くかどうかがわからないのが、番外編の醍醐味ですよね?

また、機会がありましたら、このお店にお付き合いくださいませ。
(奨励賞もらって、なんか気負ったのかな?)
(そんな、しおらしいタマ?)
(気軽に書くつもりの番外編に、季節を冠したから、縛られちゃったな、とか)
(季節は季節で、某ストレンジヘアー一家みたいに、毎年つかいまわせば?)
(それもなんかさあ)
(番外編だから気軽に、って言ったの誰?)
(まあ、続くかどうかわからないのが番外編かあ)
(そう、それそれ)

まみ夜
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