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番外編:冬

冬のコタツと猫

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 「看板猫のいるビア・バー」として、気温の低下は、売上の低下に直結する。
 それを、なんとかしよう、と始めた温かいスープのサービスは、好評だった。
 一度、お席についていただいて、メニューを眺めながら、スープで身体が暖まれば、ビールへの渇望も沸く、というものだ。
 日替わりお料理での材料で余った野菜などを使えば、経済的で、一石二鳥だった。
 ここで問題が一つ。
 来ていただいたお客様には、このサービスは好評なのだが、やはり寒い時期にビールは、敬遠されがちだ。
 暖かい部屋でのビールは最高なのだから、それをどう、アピールするか。
 暖房を強めにしたら、頭がボーっとする、とクレームが出た。
 そこで思いついたのが、コタツだ。
 去年、自分用に買ったコタツをリビング(と当時は呼んでいた)に置いていたのだけど、本格的にお店を始めたころには、片付けていた。
 コタツで呑むビールは、最高だ。
 そこで、全テーブルコタツ化計画を発動した。

 そして、届いた山のようなコタツ布団を前に、既に挫折していた。
 開梱すれば、猫たちが潜り込むビックリ箱状態になるので、放置している。
 実は、使っていたテーブルは、ほとんどがコタツ付きだった。
 購入したとき、時期外れだったせいか、普通のテーブルより、安かったからだ。
 行方不明になりかけていた電源ケーブルは、なんとか発掘した。
 ヒーター部分を掃除機で吸ったり、電源をつないで、動作確認をしたり、満を持して届いたコタツ布団だったのだけど、小山になった。
 玄関まで届けてくれたのだけど、玄関がいっぱいになってしまうので、お店手前の猫逃げ出し防止ドア前までピストン輸送しなければならず、更にお店の中まで、それだけで疲れた。
 雪さんは、またなにか企んでいるんでしょわかってるんだからね、と警戒した視線を投げてきているし、雨くんは、布団山の周りをグルグルグルグル周っていた。
 バターになられたら困るので、やるとしますか。

 パッケージされた袋から、布団類を出して、ビニール袋は猫たちが入って窒息するのが怖いので、放置せずにゴミ箱へ。
 戻ってきたら、布団山の頂上は登頂成功されていた。
 仕方なく、崩さないように、コタツ敷を引き出して、テーブルをどけたラグの上に敷く。
 ラグいらないかなあ、と考えていたら、既に一部がモグラでもいるように盛り上がっている。
 ラグとコタツ敷の間に潜り込んでいるのがいるらしい。
 素早い。
 うん、踏んだら危ないから、ラグ片付けよう。
 でもそれって、労働が増えるってことだよね?
 テーブルをどかして、ラグを仕舞い、コタツ敷を敷いて、テーブルのコタツ部分を戻し、毛布、コタツ布団、上掛けをかけ、テーブルの天板を乗せてできあがり。
 これ、繰り返すの?
 どうせ平日だから、満席にならないから、全部やらなくていいんじゃないか、と囁く声と戦いながら、なんとかコタツを仕上げた。

 今日の日替わり、サバのピーナッツクリーム煮が、冷やして味を染み込ませる段階になって、気がついた。
 猫たちの姿が見えない。
 どうやら、コタツの中に隠れているようだ。
 困ったことに、そのコタツが複数あることだ。
 どれ?
 外見からは、布団の膨らみなどがあるコタツはない。
 放置したら、お客様へのビックリ箱になってしまう。
 うん?
 それも面白いか。

「全席コタツ始めました。看板猫が入っていたら、その数だけビールをサービスいたします」

 コタツは好評で、コタツがあるなら、と来てくださったお客様も増えたが、一つ忘れていたことがあった。
 コタツは魔物で、捕らえた者を逃がさないのだ。
 コタツから出るのが嫌で、カウンターまで注文しに来たくなくなるのだ。
 お客様の滞在時間は長くなったが、売り上げは横這いどころか、下がり気味だった。
 なんとかしなければ。

 僕は、コタツに捕まりながら、ヒューガルデン・ホワイトのジョッキを干し、もう一杯呑みたいのだけど、魔物から逃れられないでいた。


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番外編の解説(作者の気まぐれ自己満足と忘備録的な)

「冬の」とあったら(以下略)

はい、コタツの冬です。
(ツッコムのも面倒だよ?)

次は食物とジム以外で、という、前回あとがきの口約を守ったお話です。
ビールと気温との戦いの第二弾でもあります。
(うわ、また三部作っぽい流れ?)
(うん、三部作だね、また)

ビール売り上げアップのための寒さ対策として、コタツを選択したらどうなるか?な発想からのお話です。
結果は、お読みいただいた通りです。
じゃあ、どう打破するか、商人(あきんど)としての腕が試されるのでしょう。
(そんなノリの話だっけ?)
(まあ、そんな回があってもいいんじゃない?)
(いやいや、回によってバラバラすぎでしょ?)
(え?)
(え?)

というか、番外編で、次回へ続くっぽくして大丈夫か、って気もしますが。
まあ、そもそも続くかどうかがわからないのが、番外編の醍醐味ですよね?

また、機会がありましたら、このお店にお付き合いくださいませ。
(久しぶりに本編っぽいノリじゃない?)
(そう?)
(本編といえば、どうするの全体として?)
(前に考えていた、続編に興味薄くなっちゃったしね)
(まあでも、たまーにそういうことがあるお店ってのでもいいんじゃない?)
(たまに?)
(いつもは、いつものノリで、ちょっとそんな夜もあるよ的な?)
(需要あるかな?)
(人気が出るのを書けると思ってる?)
(え?)
(え?)


まみ夜
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