【完結】cat typing ~猫と麦酒~第10回ドリーム小説大賞奨励賞

まみ夜

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番外編:冬

冬の宴会と翌日

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 趣旨が違ってきている気がする。

 今夜は、当店が日替わりで提供している鍋料理の「一人鍋」というネーミングが、「独り身に対する攻撃である」との一部お客様からの言いがかりを宥めるために開いた「独身限定ぱーてぃー」だ。
 棒読み口調になってしまうのは、主催者として、脅しに屈してのことなので、致し方ない。
 当初は、クリスマスあたりに行う予定だったのだけど、それはあまりに「ガツガツ」しているようで嫌だ、という一部お客様の複雑な乙女心に配慮して、年が明けて、バレンタインデーの前に行うことになった。
 パーティーの結果、チョコをあげる人を捕まえたい、というのは、「ガツガツ」していないのだろうか。

 とりあえず、参加しているお客様は、いつもと変わりない。
 カスミちゃんが来ているために保護者、という名目の監視者として、既婚のアニキが「お手伝い」に来ている。
 会費に飲み放題が含まれているため、僕がビール注ぎに付きっ切りになってしまったときに、料理や取り皿の面倒をみてくれるらしい。
 ちなみに、独身であるオヤジも誘ったが、忍さんから「(自主規制)!!!」という丁重なお断りメールが来た。
 きっと、この催しは、オヤジの耳には入ってもいないことだろう。
 逆に、知ったら来そうで、それはそれで怖い。

 コタツで鍋は、こういうパーティーではハードルが高い上に、人の移動がなくなってしまうため、立食形式にするべく、コタツは、カウンターとは逆側の壁際に寄せて、本日は使わない。
 始めは喜んで、コタツ布団を掘っていた猫たちだったが、重なり合った布団層の厚さに掘削作業が失敗したため大変、不評だった。
 カスミちゃんが来ていなかったら、僕の寝室から出てこなかったかもしれない。
 「猫を話しかける、きっかけにしたい」という要望があったが、そう上手くいくとは、僕には思えなかった。

 料理のテーマは、共同作業とセンス。
 アニキから借りたテーブルには、ちょっと手を加えない、と食べられない料理が並んでいる。
 まず、大きな土鍋は、蒸篭を載せてジャガイモ、カボチャ、ニンジン、サツマイモ、タマネギなどの野菜を蒸している。
 ちなみに、デザートはこの蒸篭での蒸しプリンで、熱々の蒸したてにアイスと、これまた熱々のカラメルソースを添える予定だ。
 蒸し野菜は食べよう、としたら、お皿に盛って、味付けをすることになる。
 アンチョビ、ピクルス、イカ塩辛を各々、刻んだもの。
 味噌とピーナッツクリーム、バジルペーストと大根おろし、バターとホースラディッシュを各々ボールに入れたものは、端は混ざりきっていないので、単独でも使える。
 ちりめん山椒、細かくカリカリに焼いて砕いたバケット、揚げた玉葱などのトッピング。
 どう組み合わせるかは、センスの見せどころだ。
 肉料理は、破けそうなソーセージ、ラム肉の薄味ベーコン、ミートローフがヒートランプウォーマーの下、一口大のサイコロ状で、慎ましやかにホットキープされている。
 一部のお客様から、肉をワシャワシャ食べるのは避けたい、との希望があったせいだ。
 ちなみに、ヒートランプウォーマーは、ランプで料理を保温する器具で、中古品が安かったので、つい買ってしまった。
 今後、ちょい揚げの甘口と辛口を片方づつ揚げるとき先に揚った方のホットキープなどに、活躍してくれるだろう。
 野菜も肉も、オードブル、として食べてもいいし、カセットガスコンロとホットサンドメーカーに食パンを置いてあるので、ホットサンドの具にしてもいい。
 板チョコ、生クリーム、各種ジャムなども置いてある。
 甘くするか、ショッパイのにするか、組み合わせもセンスの見せどころだ。

 この辺りの企画を、一部のお客様に事前にお話したところ、様々な初めての共同作業的な妄想で、キャッキャウフフしていた。
 その方々の見込み違いは、男性客が、来なかったことだろうか。
 僕にしてみれば予想通りで元々、このお店に、あまり男性お独りのお客様は多くない。
 しかも、そのほとんどが既婚者だ。
 なので、単なる女子会になりつつある。

「どういうこと?」
「独身男、どこ?」
 お客様に絡まれた。
 ただいまは火曜日の夕方で、宴会が始まって間もないのに、もう酔っている。
「営業努力した?」
「独身男、どこ?」
 いや、僕のせいではない、と思う。
 逆に、先週末に「火曜は既婚者くんな!」と威嚇しまくったお客様のせいではないか、と思う。
 というか、ダイエットしてるのに、そんなに呑み食いしていいの菊池さん?
 あ、名前出しちゃた。
 ちなみに、九十九さんのお目当てである百田さんは、ジムが定休日なのだけど「本部で会議」がある、と欠席している。
 「遅れて参加」でないのがヘタレだ。
 まあ、彼の部屋では、同居している妹の千秋さんがテスト勉強をしながら待機し、帰ってきたら通報がくるシステムになっているようだが、それを恐れて遅くなるだろう、という専らの下馬評だ。
 僕は、それすらも空気読めずにコッソリ帰って妹に襟首、掴まれて出頭してくる、と予想している。

 インターホンが鳴ったのでモミターを見る、と何度か来られているお客様なので、リモートで玄関の鍵を開ける。
 開店当初は毎回、玄関までお客様を迎えに行って、説明をしていたのだけど、みなさん慣れてきたので、初めての客様でない限り鍵だけ開けて、入ってもらうように対応も変わっていた。
 まあ、もし満員だったときは、玄関まで行って謝るが、そんな好景気なことは、滅多にないし、常連さんなら相席してもらえる。
 ドアが開いて、入ってきたのは、男女二人組だった。
 女性は、九十九さんもトレーナーをしているジムでヨガを教えている佐伯さん。
 男性は、彼女の双子の弟さんの部下で百目鬼さん。
 ドアのガラスに映った男性っぽいシルエットに、「独身男性の登場だ」と期待が高まったが、落胆の溜息が漏れた。
「ええええええー、そんな扱いですか?」
「そりゃ、ウチの弟が好きです宣言してたらね」
 百目鬼さんの大げさな驚き様に、佐伯さんが、ため息をついた。
 職場が近くて、たまに来てくださる百目鬼さんは、今も鍛えているようで、細身なのにアスリート体型をして、爽やかだ。
 俄然、女性陣は色めきだったが、いっしょに来ていた「佐伯さんの弟」が好きです発言で、興味を失われた。
 佐伯弟さんの「面と向かって言われると照れるなあ」にアテられてしまったのだ。
 残念ながら、百目鬼さんの片想いであるのだけど、彼らに割り込んでいく女性はいなかった。
「むしろ、なんできたの?」
「ひどっ」
 九十九さんの容赦ない言葉に、傷ついたふりをしてから、
「華があった方がいいかな、と」
 男性客がいない店内を見渡して言う、と店内はドンヨリした雰囲気に包まれた。
「うぐっ」
 三方からの拳が、彼を黙らせていた。

 知らないけど、女子高とか女子大って、こんな感じかな、という喧噪に浸っていた。
 アニキが複雑そうな顔をしているのは、娘の今後を予感してだろうか。
 その娘であるカスミちゃんは、人見知りだったのは過去の話で、いろいろな女性と話をして、ときどき猫たちと遊び、楽しんでいるようだ。
 インターホンが鳴った。
 しん、と店内が静まり返った。
 常連さんだったので、鍵を開ける。
 期待の視線の中、しばらくして入ってきたのは、オヤジのお店からのお客様、タカチさんだった。
「遅いぞー!」
「待ちかねたぞー」
「いい加減、告白しなさい?」
 早速、酔っ払いにからまれ、彼女がいつも飲んでいるから用意しておいた、よなよなエールを僕から奪って、呑ませはじめる。
「ちょ、告白とか、まって、パパに挨拶くらい、ちょっと」
 酔っ払いの波に呑まれていった。
「ちょっと、歓迎の具合が違いすぎません?」
 百目鬼さんが、ビールのお代わりを注文に来て、カウンターで愚痴る。
「・・・一瞬、みんなを期待させたから、自業自得」
 僕、アニキ、百目鬼さんが、その女性目線の鋭い言葉に唖然、とする中カスミちゃんは、自分で冷蔵庫のピッチャーからオレンジジュースを注いで、同性の海に戻っていった。

 ゆっくり、とお客様が帰ったり、入れ替わっていく中、九十九さんがソソクサ、と玄関に出ていった。
 インターホンが鳴り、そこに映っていたのは、通報者だった。
 僕の予想どおり襟首、掴まれて来たらしい。
 彼女から連行を引き継いだ九十九さんと入場してきた。
 テストが近い千秋さんは、部屋に戻ったようだ。
 百田さんが、「いや、もっと会議が遅くなるかも、と思って」とか、言い訳しているのを流して、素早くビールを渡した。
 そういえば一時、九十九さんは佐伯さんを百田さんを巡るライバルとして敵視していたけど、「好きな人がいる」って聞いてから、仲良くなったみたいだ。
 誰が好きなんだろう、と百田さんの行く末を見ないように、逃避していた。

 生温かい目で見られ続けるのに耐えられなくなった百田さん、冷たい対応をされ続けた百目鬼さん、という数少ない男性が、明日の仕事を言い訳に帰ったあとも、ゆるやかに女子会は続いていた。
 そして、宴たけなわなとき、あくびをしたカスミちゃんへ「そろそろ帰ろう」と促したアニキに、爆弾が投げつけられた。
「・・・やだ、泊まる」
 凍った時間の中、僕とアニキは、素早くアイコンタクトを繰り広げた。
『アニキ、またやらかした?』
『そんなはずは』
『本当に?』
『そう言われると自信が』
『えええええー』
 時が動きだす。
「急に泊まるって、ご迷惑でしょう?それに明日は」
 平静を装ったアニキの言葉に、カスミちゃんは僕を見て、
「・・・迷惑?」
 すべての視線が、僕に集まっていた。
 なのでキッパリ、と言った。
「迷惑なんかじゃないですよ」
『裏切者!』
 僕は、僕の身体の方が大事だから、アニキから目を逸らした。
「泊まりたい!」
「部屋からパジャマとか持ってくる!」
「お泊り?鼻血が・・・」
 たちまちお泊り会は決定事項となり、アニキは追い返され、その後は、残った何人かでのパジャマパーティーに突入するようだ。
 コタツと毛布で寝たい、というので、壁に寄せていたのを中央に持ってきた。
 菊池さんの持ってきたパジャマやスウェット、ジャージが、ウェストぶかぶかだったり、胸元がキツかったりな悲劇は、幸い僕が寝室に引き籠ってからだったらしい。

 早朝なのだけど、困っていた。
 絶対に、店内は修羅場と化していて、足を踏み入れたくないからだ。
 今後の店主とお客様、という関係をダメにしてしまいそうなイロイロ、と見てはいけないものを目撃してしまいそうだからだ。
 とはいえ、今日は平日だ。
 お仕事がある日だ。
 このまま放置しておいたら、更なる阿鼻叫喚の地獄絵図が巻き起こる。
 しかも、水回りは下にしかないので、膀胱にも限界がある。
 寝室のドアがノックされた。
「はい?」
「・・・みんな起こして、着替えさせたから」
 カスミちゃんだった。
 天使か?
 いや、昨日はかなり悪魔か悪霊が憑いていたようだったけど。

 平日なことは、元酔っ払いにも、それなりに自覚があったようで、起きる努力はしていたようだ。
 祭りの後、じゃなくて宴の翌日なのを考えれば、元気な方なのかもしれない。
「朝ご飯、どうします?」
『コーヒーだけで』
 僕は頷き、自分とカスミちゃんのために、調理を始めた。

 朝ご飯は、昨日の宴会料理の残り物を利用して、キッシュとスープをつくった。
 具は、どちらもソーセージやベーコン、野菜を刻んだ同じものだ。
 匂いで食欲を刺激されたのか、「お腹減ってるかも?」オーラが漂い始めていたが、それでも今日の仕事を抱えた彼女らは、慌ただしくコーヒーを飲み干して帰っていった。
 昨夜は、顔は洗ったようだけど、お風呂には入っていないし、そもそも泊まる予定ではなかったのでイロイロ、とあるのだろう。
 僕はノンビリ、とマグカップのスープを啜りながら、
「カスミちゃんは、学校の時間は大丈夫?」
「・・・もう、遅刻の時間」
 ブーっ、とスープをブチ撒けそうになって、慌てて飲み込み、咳き込む。
「・・・うそ、学校お休み」
 げほげほしている僕の背中を摩ってくれるカスミちゃん。
 ちょっと、いつもと言動が違わないか?
 あれ?
 今日は水曜日だし、春休みにはまだ早い。
「なんで、お休みなの?」
 この時期、高校の説明会や受験、発表などが頻繁にあるので、事前に届けておけば「自宅学習」として、休めるのだそうだ。
 都会の私立中学は違うなあ。
 それで休み、と知っていたアニキは、いつもよりは大人しく引き下がって帰ったのか。
 まあ、女性陣の圧に、耐えられるはずもないけど。
 カスミちゃんにとっては、それも込みで計画的だったんだな。
 だから、昨日と違う服を着てられるのか。
 え?
 そういう休みってことは?
「今日は、何の日?」
「・・・本命の推薦、合格発表」
 えええええええー?

 合格は、今日の午前中に、学校のウェブサイトの受験生個別ページで発表されるそうで、それを確認して、母君がメールしてくれるのだそうだ。
 なんだか、時代を感じてしまう。
 もう掲示板の前で、胴上げとかしないのかな?
 あ、一応、ちゃんと合格の受験番号が書かれたものも設置されるらしい。
 それはそうと、事前に教えておいてほしかったな、と正直に言ったら、
「・・・緊張するから」
 うん、確かに。
 お心遣いありがとうございます。
 今、自分のことのように、緊張しています。
 昨夜からの彼女の、いつもとちょっと違った言動も、そんな緊張のせいだったのかもしれない。
 僕の緊張が移ったのか、猫たちも落ち着かない様子だ。
 壁際に残ったコタツの布団を掘っている。
 あ、コタツ戻さなきゃいけない。
 メールの着信音。
 カスミちゃんが、内容を確認している。
 自分の心臓の音が、耳に響く。
 電話ではないのに、意味もなく、息を潜めてしまう。
 カスミちゃんが、右手を差し出してきた。
 ?
「・・・スマホ貸して」
 意味もわからず、とりあえず渡した。
 彼女は、自分のといっしょに電源を切る。
 そしてニッコリ、と笑った。
「・・・合格」


--------------------------------------------------------------------
番外編の解説(作者の気まぐれ自己満足と忘備録的な)

「冬の」とあったら(以下略)

まあ、誰も気にしてないでしょうが、3月はまだ冬としてセーフですよ、と主張したいですし、バレンタイン前の物語です。
(開き直ってるんだか、言い訳してるんだか、わかりにくいな)
(両方、両方)

前々回のあとがきで、番外編は一周年で一区切り、と書きましたので、どう変わったか、ある意味本編の伏線回収しておかなければいけないテーマの第二弾です。
恋愛関係、人間関係をはっきりさせよう、菊池さんに幸せになってもらおう、と思って書き出したのですが、この様です。
(恋愛関係を書くのやめたら?)
(うん、猛省してる)

しかも、更なる波乱の予感もしないでもありません。
(書くの?)
(読みたい?)
(え?)
(え?)

とは言え、この物語も残すところ、あと二話となりました。
(まだ書いてもないのに、言っちゃうの?)
(うん、構想だけだけど)
(じゃあ、またどうせ、だろ?)
(いやー、ありがちだよね?)

そう思う、と今回の話は、途中で書けなくなってしまって、カスミちゃんの緊張が伝染したのでしょうか。
(いやいやいや、カスミちゃんのエピソードの全然前で止まってたじゃん?)
(単なる書けない病?)
(書いてはいたでしょ?他の物語だけど)
(書いてたねえ、十万文字くらい)
(こっちを書かなきゃ、って思う、と書けなくて)
(そうやって、逃避で書くから、人気ないんだぞ?)
(やっぱ、そう?)
(まあ、ガチで書いても結果いっしょか?)
(それは、認めざるを得んな)

危うく、時期を逸するところでした。
続くかどうかわからないドキドキ感も込みで楽しんでいただけましたら、幸いです。
(季節、ズレてないって言い張るのね?)
(ドキドキ感って、吊り橋効果でも狙ってるのか?)
(まあ、書き続けるかの危うさはアリアリだもんな?)
(安定感ないですからねえ)

というか、番外編で、あと二話とか宣言して大丈夫か、って気もしますが。
まあ、そもそも続くかどうかがわからないのが、番外編の醍醐味ですよね?

また、機会がありましたら、このお店にお付き合いくださいませ。
(ほんとに、終わるの?)
(さあ?)
(ほんとに、この続き書けるの?)
(さあ?)
(ほんとに、春になっちゃうんじゃ?)
(さあ?)
(ほんとに、大丈夫?)
(さあ?)
(え?)
(え?)


まみ夜
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