【完結】cat typing ~猫と麦酒~第10回ドリーム小説大賞奨励賞

まみ夜

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番外編:冬

冬のお菓子と対決

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 どんどんどんどん!
 玄関のドアが叩かれた。
 まだ、開店時間ではないし、宅配便なら、インターホンを鳴らすはずだ。
 そもそも、宅配便が届く心当たりはない。
 いったい、どうしたんだろう?
 静かになった。
 何かの間違いだったのかな。
 息を潜め、気配を探る僕の耳に、なぜか鍵が開く音が響いた。

 カスミちゃんの本命合格の連絡が来て、猫たちを含め、緊張がとけた僕たちは、思い思いに過ごしていた。
 彼女の母君が、店が開店した頃に迎えに来る、と合格を知らせるメールに書いてあったそうだ。
 僕としても、せっかく受験勉強から解放されたのだから、それまでノンビリ過ごしてもらいたい。
 とはいえ、夕方の開店に向けて、コタツは元の位置に戻しておかなければならなくて、カスミちゃんが手伝ってくれた。
 もちろん、猫たちは同時多発びっくり箱的な抵抗勢力と化し、邪魔してくれた。
 お昼ご飯は以前、彼女が泊まったときに出した、お揚げと切り干し大根の甘辛いペンネをリクエストされた。
 あいにく冷凍庫の油揚げが足りなかったので、乾瓢を足したが、好評だったようで安心した。
 コタツに入れた足の上に、猫たちを乗せて、ビーズクッションにもたれたまま、カスミちゃんは、居眠りをしていた。
 きっと最近は、よく眠れなかったのだろう。
 今夜の仕込みをしながら、オヤツでもつくりますか。

 お父さんが、自分を大事にしてくれているのは、よくわかる。
 だけど、いつまでたっても、幼い子供扱いのままだ。
 それは、子供と大人を都合よく使い分けているだけだ、と言うかもしれない。
 だけど、どっちの側面も自分なのだ。
 片一方だけで、自分のすべてを決めないでほしい。
 今回の受験の件だってそうだ。
 反対するお父さん相手に、本気で喧嘩をしたのは、初めてかもしれない。
 ついでに、家出と無断外泊も。
 お父さんの心配もわかる。
 わかるからこそ、信じてほしい。
 結局、「まずは合格してからだ」的な話で終わってしまって、解決はしていない。
 だから、合格したから、といって入学できるとは限らない。
 お母さんは、賛成してくれているから、最終的には入学することになるだろう。
 でも、それは、お父さんとの喧嘩別れにもなるわけで。
 お父さんは、なんて言うのだろう?
 なんだかこれって、結婚相手を連れて、実家へ挨拶に行くときの気持ちみたいだ。
 反対されても、絶対に諦めないけど、できれば認めて祝福してほしい。

 お腹、減った。
 お昼に、あんなにパスタを食べさせてもらったのに、お腹が減った。
 昨夜、緊張して、オレンジジュースばっかり飲んでいたからだろうか。
 朝ご飯のキッシュも、たくさん食べてしまった。
 ペンネは、アラビアータのイメージが強いせいか、なんだか辛いとか、激しいイメージがあったのに、初無断外泊したお昼に食べさせてもらったのは、甘い優しい味だった。
 お揚げがしっとりして、切り干し大根がカリカリして。
 今日のは、お揚げが足りない分、乾瓢が入っていたけど、ちょうど中間の歯ごたえで、美味しかった。
 もし次にお願いするときは、「お揚げと切り干し大根と乾瓢のペンネ」って言わないとだから、一息で言えるかな。
 あの人のことだから、今度はもっと何かを足して、名前が長くなってしまいそうだし。
 自分にとって、あの人は「あの人」としか言いようがない。
 初めて会ったときは、単なる猫のいる部屋に住んでいる人だったし、それから猫の支援をする人になって、そのうちに人見知りで引っ込み思案だった自分の世界を広げてくれた恩人になった。
 そして今は、猫たちのいるお店のオーナーシェフ。
 いつだって味方で、いろいろありすぎて、だから「あの人」。
 このお店のことも驚いた。
 初めて会ったときに、同じ人見知りの匂いを感じたから。
 そうガラン、としていた、前のこの部屋みたいに寂しい香り。
 それが、こんなに居心地よくなったのは、あの人の中に、元々こういう優しさがあったからだろう。
 お店の常連さんたちは、店名を漢字で略す、と「月光夜」なので、来店することを月光浴、と言う。
 でも、自分にとっては、猫たちの存在が大きいから、「げっこう浴」ではなくて「ねっこう浴」、略して「ネッコ」と密に呼んでいた。
 そして、本当に自分の「根っこ」になりつつある。
 ここで、雪さんという初のお友達ができて、あの人を通じて、いろいろな人と知り合って、獣医への憧れが生まれて、雨くんという弟ができて。
 そうそう、学校で隣席の子の名前が「有希」だったので、つい苗字じゃなくて「ゆきさん」っていきなり呼んでしまって、その理由を話したのが友達になれたきっかけだったのは、有希とだけの秘密だ。
 そんな風に変わっていって、いつかあの人と一緒にビールを呑んでみたい。

「あ、起きた?」
 どうやら、お昼ご飯の後、コタツで寝てしまっていたらしい。
 これでは、牛になってしまう。
 それでなくても、受験勉強での運動不足でイロイロ、と大変なことになっているのに。
 あの人に気がつかれないように、素早くヨダレを垂らしてないかチェック。
 うん、大丈夫だった。
「オヤツ、つくったんだけど、食べられそう?」
 まさか、「お腹、減った」と寝言を漏らしていたのか、と疑ってしまうタイミングだ。
 様々な醜態は見られているので今更、取り繕っても仕方ない。
 それに、つくってくれた料理を食べる、と本当に嬉しそうに笑ってくれる。
「・・・お腹、減った」
 素直に言う、と喜々として、オヤツのイメージにしては、とても大きなお皿を持ってきた。
 牛にする、と決意したのだろうか。
 大皿には、小さな白玉が重ならないように並んでいた。
「くっつきやすいし、破けやすいから、大皿になっちゃった」
 それで、オセロのように、置かれているのか。
 それにしても、
「手で摘まんで一口で、奥歯で噛んで食べてね」
 フォークもお箸もないので、手掴みはいいのだけど、食べ方の指定が細かい。
 ちょっと変わった料理を考えつく人だから、ちゃんと意味があるのだろう。
 摘まむ、とヒンヤリ冷たい。
 コタツで寝ていたから、この冷たさは大歓迎だ。
 素直に、言われたように丸ごと口に入れ、奥歯で噛む。
 白玉の中からトロリ、と蜜が溢れ出した。
 胡麻の香がして甘い、美味しい。
「胡麻蜜団子って言うんだって。冬のお菓子にしよう、と思ってるんだ。中身も黒胡麻だけじゃなくて、オリジナルでクリームとか、チョコとかもつくってみました」
 黒胡麻?
 ということは、
「中身なんでした?」
「・・・黒胡麻」
 唇をなるべく開かないように応える。
 口をもぐもぐし続けるのを見て、気がついたように、
「あ、ごめん飲み物、用意してなかった。お茶を持ってくるね」
 気が利くようで、そこじゃない。
 あの人の前で、胡麻でお歯黒になった口を開けられるものか。

 どんどんどんどん!
 玄関のドアが叩かれた。
 まだ、開店時間ではないけど、逆によくここまで我慢できた、と言えるのだろうか。
 あの人が、ちょっと脅えた顔をした後、自分を庇うように、前へ立った。
 その判断は正しい。
 インターホンは、朝のうちに電源を切っておいた。
 あの人のスマホも電源を落としている。
 さあ、対決のときだ。

 息を潜める中、鍵が開く音が響いた。
 続いて、乱暴に玄関が開き、どう靴を脱いだんだ、という素早さでドタバタ、と足音がして。
「カスミ!」
 開いたドアの前には、お父さんが立っていた。
 あの人は一瞬、お父さんに合鍵を渡していたことを思い出したみたいで安堵したようだけど、また緊張を取り戻した。
 そう、お父さんが受験先を反対しているのを知っているからだ。
 さっきまでとは、打って変わって、お父さんは、静かに、ゆっくり近づいてきた。
 そして、大きく息を吸う、と言った。
「合格おめでとう。入学手続きを始めよう」
 予想外な言葉に、なんだか自分らしくもなくお父さんの胸に飛び込んだ。
「ちゃんと勉強しないといけないし、日々の生活が乱れるようなら、」
 お父さんも、抱きつかれたことに驚いたようだけど、それでもお説教がはじまった。
 相変わらず、一言も二言も多い。
 でも、
「・・・お父さん、ありがとう」


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番外編の解説(作者の気まぐれ自己満足と忘備録的な)

「冬の」とあったら(以下略)

前々々回のあとがきで、番外編は一周年で一区切り、と書きましたので、どう変わったか、ある意味本編の伏線回収しておかなければいけないテーマの第二弾プラスです。
まあ、合格して、入学をアニキがどうするかの結果が出ましたので、これにて「カスミちゃん受験編」は終了です。
(でたよ、終わったあとでわかる何とか編)
(これは首藤先生の超絶技巧な伝統芸で)
(わかったわかった)

さて、今回のお話は、この物語では「番外編:写真」以外では(春の霞のラストは三人称のつもりなので)初めて「僕」以外での一人称で語られる部分があります。
それは、この物語を書く途中から、「僕」だけでなく、「カスミちゃん」の成長譚だ、と思っていた結果です。
一人称は、「僕」の心情を詳しく吐露できる分、他の登場人物の心境は、「僕」のフィルターを通したもの、となってしまいます。
なので、「カスミちゃん」に、その本気の本音を語らせたかったのが、この話での伏線回収です。
(ガチ解説やん)
(まあ、たまには)
(たまに、の自覚あるんだ?)

実は、流行りの視点を変えて語る物語は好きでありません。
なぜなら結局、視点が違うというのは、角度が違うだけで、同じ物語を見ているからです。
その登場人物には、その人が主役の人生があり、物語とは関係ないところでの生活があるはずなのに、物語に関係する部分だけど切り取ってしまうので、それが希薄に感じてしまうだけの手法、と評価しているからです。
ぶっちゃけ、サイドが変わっても、一人称と登場人物の呼び方が変わるだけで、誰サイドでも一緒でしょ、複数の登場人物の感情を書きたいなら三人称じゃダメなの、と。
(ぶっちゃけるねえ?)
(自分も番外編で書いてるじゃん、ホラーでも視点変えてるやつあるし)
(だからこそ、その人の人生を含めて書いているのですよ、あれらは)

この物語は「僕」の成長譚ですので、他の登場人物の気持ちなどを推察していく様を描きたくて、一人称を選択しています。
が、カスミちゃんの本音を「口」で語らせるのは無理なので、あえて視点を変更する手法をとりました。
ある意味、「僕」は知らない内容なので、「僕」へは秘密にしてあげてください。
(解説なの?電波なの?)
(いやいや、いつかアナタもこのお店に来るかもしれません的な?)
(それが電波でしょ?)

なので、進路相談後に大喧嘩して泊まったのは、カスミちゃんにしてみれば無断外泊ですが、「僕」は母親が荷物を持ってきているので母親公認のお泊り、と自分を納得させているようなズレが生じたりしているわけです。
(でもそういう細かいのは書き手の自己満足だよね?)
(そう思うし、間違い記述も多くなるしね?)
(ねえねえ、視点を小刻みに変えるのは面倒だから嫌だって、正直に言いなよ?)

とは言え、この物語も残すところ、あと一話となりました。
番外編は、この物語の続編になる話と並行で続けてもいいかな、と思っていたのですが回想、としてアチラに書けばいいのか、とも思えるようになってきたので潔く完結になるか、と思います。
まあ、続編ほぼ書けてませんが。
(出ました、また完結宣言)
(完結詐欺師?)
(どれもこれも完結した後に、また書いてない?)

というか、番外編が、まだ完結していないのに続編とか大丈夫か、って気もしますが。
まあ、そもそも続くかどうかがわからないのが、番外編と続編の醍醐味ですよね?

また、機会がありましたら、このお店にお付き合いくださいませ。
(機会はあと一話だけだけど、お店での話だよね?)
(え?)
(え?)

まみ夜
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