【完結】cat typing ~猫と麦酒~第10回ドリーム小説大賞奨励賞

まみ夜

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番外編:エピローグ

一周年と二次会と三匹目

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『結婚おめでとう!』
 本日は、店での師匠の結婚式の二次会で、ついでに開店一周年だ。
 新郎である貞晴さんの職場が海上自衛隊で、呼ぶべき人数が膨大なため、披露宴を身内だけの少人数にした分、二次会は大宴会で、そんなのがウチに収まるはずはなく本日、実質は二次会第二弾というか、番外編だ。
 披露宴の料理か引出物での、僕のソーセージが公開処刑を免れたのは、貞晴さんのお陰だ。
 理路整然、と「披露宴会場に料理を持ち込むのは、店の料理人に対して不敬であり、日持ちする引出物用に加工しては、ミラ(師匠)が望む、いつものソーセージとは違ってしまう」。
 そう、師匠を説得してくれた。
 なんて男前なんだろう海上自衛官、惚れそうだ。

 結婚式は神社での文欽高島田に角隠しで、披露宴のお色直しでも着なかったから、とウェディングドレスで登場した新婦に、お店は沸いた。
 床には、靴のままで歩けるように、玄関からアニキ手配の赤い絨毯が長く敷いてある。
 それをヴァージンロードのように、僕は新婦と歩かされていた。
 ソーセージの方は回避できたが冗談で言った、「いっしょにヴァージンロード」の方は、採用されてしまったのだ。
 ちなみに、ドレスの裾持ちではない、念のため。
 歓声というか、独身者の罵声というかに包まれて、僕は、カウンターの前に立つ新郎に、新婦を手渡した。
 いつものパーティーのようにアニキに借りたテーブルでの、立食形式だ。
 人数が多いので、ビールはテーブルに置いたピッチャーから各自でグラスに注いでもらう。
 その時間を待って、乾杯の音頭を取った。
「結婚、おめでとうございます。乾杯!」
『乾杯!』
『結婚おめでとう!』
 拍手が巻き上がる。
 そして、飲み干したグラスを置いて、腕まくりをする独身女性たち。
 結婚式が和式だったから師匠が、やりたかったがやれなかったブーケトスをやろう、というのだ。
 事前の打ち合わせで、酔ってからではルール無用の乱闘しか想像できず、流血沙汰が怖いので、早目にやろう、という提案には、みなが頷いた。
 とはいえ、狭い店の中なので、新婦がカウンターの向うから、こちら側へ、かるく投げるだけだ。
 決まり事のお遊びだ、迷信だ、と言いつつ、女性陣は既に鼻息が荒い。
 新婦が、背を向けたので、合図を出す。
「みなさん、用意はいいですね?どうぞ!」
 ふわ、っとブーケが投げられ、落下予想地点に、群がる女性。
 その軌道に、カウンターから黒い影が跳び、叩き飛ばしたブーケは、カスミちゃんの胸元に収まった。
 しん、と店内が静まりかえるが一瞬で、これが一番平和的な選択肢だ、と気づいて周囲から渾身の拍手が起きた。
 僕は、雨くんを捕まえてカウンターに乗ったらダメ、と叱りながら、アニキの方を見ないようにしていた。
 雪さんは、ブーケなにそれおいしいの?とカスミちゃんの足に、身体を擦りつけていた。

 ウエディングドレスではビールが呑めない、と着替えに退場する新婦と着替えを手伝う菊池さんを見送って、本格的な宴会が始まった。
 ちなみに、着付け用に百田さんの部屋を貸してもらっている。
 頑なに、他人のウエディングドレスを一瞬たりとも自分の部屋に持ち込みたくない、という主張で、菊池さんからは断固拒否された。
 和服の着付けもできる、ということで着替えの手伝いを無理やりお願いしてしまったが、それでもウェディングドレスに触って感激していたらしいのは、乙女心だろうか。
 料理は、新婦のリクエストで、破れそうなソーセージを始めとする、店の定番だけだ。
 出席者が、ほぼ店の常連客とカブるので、みな飽きているだろう、と思ったが、それでも「いつもの料理」がいいのだそうだ。
 「伝授したソーセージが飽きられていると思うとは、まだまだ修行が足りないようだな、我が弟子よ」と言われてしまえば、否応もない。
 この口調は、師匠の「師匠」のマネだったそうだが、今では板についてしまっていて、自然だ。
 新婦が、スカイブルーのドレスで再入場したので、店内が沸く中、「お腹減った、ビール!」と大ジョッキを要求して飲み干すのは、主賓としてどうだろう?
 周りが慌てて、ドレスを汚さないように、紙エプロンを手渡しているが、それを鷹揚に笑って見ている新郎は、大物だ。
 なんて男前なんだろう海上自衛官、惚れた。

 僕は、新婦である師匠に、ソーセージの造り方を習いに、初めてあったときのことを思い出していた。
 ようやく、店をやることを決心して、メニューを模索していたときだ。
 そもそも、一回限りの体験で、こんな付き合いになる、とは思わなかった。
 でも、あれからまだ、一年ちょっと。
 たったそれだけの付き合いなのに、彼女からは、料理に一番大切な「お客様に食べてもらう意味」を教わった。
 それを言えば、オジサンから、この「ささやかな場所」を譲られてからの二年間は、教わって、助けてもらってばかりだ。
 いや、実は、その前のオヤジの店からズっ、とそうだ。
 その恩を、これから、返していけるのだろうか?
 僕は、そんなことを考えながら、なんちゃってウエディングケーキを運び込んだ。
 単に、市販の大容量アイスを積み上げて、生クリームやチョコソースなどで飾っただけのものだ。
 「新婚生活で溶けてしまえ!」という独身者の揶揄が篭っている。
 サラダの取り分けに使う大きなスプーンを新婦に渡し、ケーキ入刀ならぬ、ケーキ入匙してもらい、それを新郎に食べさせるのを要求。
 男前の海上自衛官は、一口で飲み込み、拍手喝采を浴びた。
 「一言!」のリクエストに、新婦が大スプーンを勇者の剣のように掲げて言った。
「結婚?見合いだろうが何だろうが、出会っちゃえばできるできる!」
 できてない独身者がリアクションに困る中、新婦にスプーンをマイクのように向けられた新郎は受け取り、厳かに言った。
「ケーキに突撃!」
 自ら、先頭に立って、ケーキに大スプーンを突き立てる。
 みんなが後に続き、似合いの夫婦だなあ、と眺める前で、あっという間に堆く積まれたアイスのケーキは、食べつくされていった。
 海上自衛官は、甘党なようだ。

 宴もたけなわなころ、再び「一言!」の声が上がったが、新郎新婦は「もう言った」と拒否。
 主賓に対して「あれじゃ足りない」とクレームは出し難く、そのせいで、僕に視線が集まった。
 ちょうどいいか。
 僕は、注目の中、スマホを取り出して言った。
「写真、撮りますので、集まってください」
『え?』
 いやいや、コケてないで集まって、大事なことだから。
 最後に、って思っている、と忘れちゃうから、きっと。
 新郎新婦を中心に集合したので、スマホを構えて、
「師匠、結婚おめでとうございます。お客様方、一周年ありがとうございます。でも、みなさんに、お願いが一つだけあります」
 みなが、何だ?という顔をした。
「週末だけでなく、平日もよろしく!」
 みなが笑顔になったので、シャッターボタンを押した。

 翌朝、階段上の入口に一晩、出しっぱなしにしてしまった「本日、貸し切り」のプレートを片付けていたら、植え込みに小さな灰色の塊を見つけた。
 なんだろう、と思って顔を近づけたら、「にゃー」と、か細く聞こえた。


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番外編の解説(作者の気まぐれ自己満足と忘備録的な)

「cat typing ~猫と麦酒~」に、長い長い間お付き合いくださいまして、誠にありがとうございました。

「猫がいるビア・バーを開店するまで」の本編の後、開店してからの一年間を一年かけて描いた番外編も、ようやくようやくの完結でございます。

既に、本編のあとがき、番外編はその話ごとのあとがきで裏話は、ほとんど書いてしまっているので、実はナニを書こう、と困っています、なう。

今回は、最終回ということもあって、あまり個人の描写がありません。
今までの登場人物たちが、今までのように騒いでいる、とお楽しみください。
独身者が黒い言葉を吐いていたり、妄想で鼻血出したり、していることでしょう。

先に書いたように、また、番外編の他の話のあとがきでも書いたように、この物語は、これで完結です。
(今更気がつきましたが、番外編はあとがきではなく解説にして、あとがきじゃないよ解説だよ、と言い訳する気でいたのを、すっかり忘れてました)
クリフハンガーになっているようにも読めるかもしれませんが、錯覚です。
同じ舞台や登場人物を使いまわすのが好きなので、この「お店」が出てくる物語は、今後どうせ出てくる、とは思いますが。
一応、続編風の「お客様は仏様です:満月夜の猫ビア・バー(仮)」が、いつか書けたらいいなあ、と思っていますが、独立した物語なはずですし、ジャンルも「日常モノ」ではない予定ですので、かなり雰囲気は違うだろうなあ、と。
ミステリー「この謎、どう思います? バーテンダーさん」、筋トレ恋愛もの「恋愛で痩せますか?いいえ痩せるなら××運動です」のように、って、あれ?あんまり雰囲気違わない?
なにより一番怖いのが、某ガルディーンのように、本編を書いたけど数話だけで日常モノの閑話休題(番外編)ばかりになる、です。
二番目は本文より、あとがきの方が長いとか。
え?番外編だけになる?
ありそうで怖いです。

何より、今回の最終回のオチで、「この謎、どう思います? バーテンダーさん」の時期が限定してしまったので、どうしようかなあ、と思う今日この頃です。

えーと、この物語は、自分にとっての初の日常モノでした。
基本、物語には「謎」がなければ、と思っているクチなので、謎も陰謀も戦いもない物語を書くのは、初めてでした。
ほとんど自転車操業で書いては公開をしていたので、本編の冗長さ、展開の緩さは、折り紙付きです。
全体像が見えた今、もっとバランスよくとか、波風たてて、と思わないでもないですが、当時としては、これが精一杯だったですし、書き直せば、もっとなんとかなるのでしょうが、一文一文に愛着があるので、これはこのままでいいかな、と。
もっとも、番外編も、書き出してからオチを模索するような、「僕」任せではあったので、改善されてないか、と思われます。

なによりも、こんな物語の、こんなところまでお読みくださいまして、ありがとうございます。
一般受けしないのは自覚しているので、「通好みですね、お客様」と称賛しておきます。
まあ、中毒性はないはずなので、ご安心ください。

ご愛読、本当に、ありがとうございました。
また、機会がありましたら、このお店にお付き合いくださいませ。

まみ夜

-首藤剛志先生がお亡くなりになって10年目の春に-
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