【完結】cat typing ~猫と麦酒~第10回ドリーム小説大賞奨励賞

まみ夜

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命名、まで

命名

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 「雪」さん。
 名前の由来は、体の色と、来た日に、ほんの少しだけ雪が舞ったことから。
 我ながら安直だな、と思う反面、そういう思いつきが大事かも、と自分を慰めながら、初診申込書に書く。
 彼女が家族になってから、しばらくたっていた。
 数日、ほとんどご飯も食べないし、隠れてばかりだったので心配したが、少しづつ慣れてきた。
 トイレは、すぐに覚えてちゃんと使ってくれたので、安心した。
 トイレセットを教えてくれたアニキを泣かせずにすんでよかった。
 今日は、譲渡会の人にも言われていたように、動物病院に健康診断に来た。
 病気になってから連れて行くより、体調のいい状態を見ておいてもらうのが、重要らしい。
 マイクロチップの埋め込みもしたいけど、嫌われたくないので、先延ばしにしたい。
 偶然か、キャリングケースには、自主的に入ってくれた。

「はいー、大丈夫ですよおー」
 中年坊主頭の獣医が、助手が押えている雪さんをすっごい低姿勢で診察している。
 住んでいる部屋から一番近い、という理由だけで選んだのだけど、いい先生のようだ。
 ただ、新しい病院なのか、待合室で誰も待っていなかったのが、ちょっと心配ではある。
 空いていて、待ち時間がないのはいいけれど。
「もしかしたらケイサンプかもしれませんね」
 雪さんのお腹を触りながら言ってくるが、意味が分からない。
「ケイサンプ?」
「経産婦。赤ちゃんを産んだことがあるのかもしれません」
 確認のため乳首の状態を調べると、雪さんが、ものすごく不快を表す声を出したので、平謝りする先生。
 雪さんにも、家族がいたのかもしれないのか。
 でも、保護された時は、彼女だけ。
「体重も筋肉のつき方も問題ないです。前の血液検査から間がないので、今日はしなくてもいいと思います」
 受付で提出していた会からもらっていたワクチンの証明書や健康診断結果を見ながら。
「ワクチンに来ていただく時に、検討しましょう。まだ若いから、体調に気になるところがなければ、無理にする必要はないかもしれません」
「マイクロチップは?」
「今、痛い思いをさせると、懐くのに時間がかかるかもしれません。完全室内飼いとのことなので、ワクチンの時ではどうでしょう。もちろん、脱走のリスクを考えると、早い方が安心ですが」
 嫌われる可能性を指摘されて、ヘタレの僕は、先延ばしにする。
「マイクロチップは、あまり在庫していないので、念のために事前に電話くださると確実です」
 先生は、助手から受け取ったキャリングケースに雪さんを戻して、尻尾を挟まないように閉めた。

 会計で、想像していたより安い料金に、ちょっと驚く。
 保健がきかないから、全額負担と聞いていたのが、こんなに安くて、この病院、大丈夫?
 受付の奥に、真っ白い犬がお利口に座っていたのが、印象的だった。
 あとで、この病院のウェブサイトを全部見て(行く前は、場所と診察時間しか見なかった)知ったのだけど、何匹もの犬猫を保護しているようだ。
 僕も保護された猫を飼ったということで、ちょっと安くしてくれたのかもしれない、と思った。
 病院から帰った雪さんは、安心できる場所に戻ったと思ってくれたのか、ちょっと甘えてきた。
 その分、ワクチンや血液検査、マイクロチップで嫌われたらと思うと怖い。
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