142 / 333
第二部 第3章
394.秘密の会合と荒れてしまったお肌
やっと新素材の名称も決まり、トップ会談の様相を呈するこの会合も終わりを迎えるかと思いきや、皇后様はこの際だと言わんばかりに、新素材……ベリッシモを活用しての産業やグランニッシュ帝国としての今後の展開、レール馬車や公園、そしてベリッシモから派生したゴムやプラスチックなどの話し合いまで始まってしまったのだ。
「お姉様、ますます僕が呼ばれた意味がわかりません! 僕はまだアカデミーに通っている身ですよ!?」
「通常は当主のみ参加が許されるような会合ですものね……」
わたくしも、同じく呼ばれた意味がわかりませんわ。と、弟と共に戸惑いを隠せないでいた。
会議はあり得ないスピードで色んな事が決まっていく。その様子に、皇后様とテオ様、ウォルトの優秀さが理解できた。意外にも父もそれについていけている事は、本当に驚きましたわ。
「───それと、さっきのイザベル様の化粧品『レース・アルカーナ』に関しては、教会云々は無かった事にしましょう。クレオ大司教は信用に値する人かもしれないけれど、エンプティの件も解決していない今、教会にこれ以上の富と権力を与えるべきではないわ」
わたくしが勝手に考えていた事をつい口走ってしまった為に、議題にまでなってしまいましたわ。
まだクレオ大司教に伝えていなくて良かった……。
「私も同意見だ」
「異論はありません」
「娘が申し訳ありません……」
テオ様とウォルトが頷く中、お父様が申し訳なさそうに呟く姿に、こちらが申し訳なくて、ちょっと落ち込みましたわよ。
一年近く前のあの冬の日に、ノアの為に出来た化粧水が、ブランド名まで付いてとうとう売り出されるのね───
◆◆◆
~ ある冬の出来事 ~
「───の、ノアのお肌が、荒れておりますわ!!」
冬場は肌が乾燥しやすい季節。それはよくわかっておりますが、ディバイン公爵家に来てからは、私にエステ隊がついておりますので、特に気になってはおりませんでしたの。
ですが、今ノアと手を繋いだら、カサッとしておりましたのよ! よく見たらほっぺもカサついておりますし……っ
私の可愛い息子のお肌が、乾燥しているなんて!!
「か、カミラ、これはどういうことなのかしら!?」
「奥様……実は、ここ二日間ほど、ノア様のお食事に偏りが出ているんです。皇宮で甘いもの、そして帰ってからも甘いもの、あげく昨夜は揚げ物でしたから……。申し訳ありません!」
いつもはお野菜もたくさん食べておりますものね。食生活が急に乱れたから、肌の水分量が不足してしまったのだわ!
「カミラは悪くありませんわ。皇宮に行っておやつをお断りは出来ませんし、帰ってからはわたくしが強請られるまま与えてしまったのですもの……っ、だけど大変ですわ……ミランダ、料理長に今日は豚肉と豆類、卵と野菜を中心にしたメニューにするよう伝えてちょうだい」
「かしこまりました。奥様」
「カミラは、綺麗なお水を用意してもらえるかしら。後、先日石鹸作りをした時にヤシの実やオリーブの油脂から抽出したとろっとしていたアレ、持ってきてちょうだい」
「は、はい!」
ノアはキョトンとして、首を傾げるばかりで、自分の肌が荒れている事に気付いていないようだ。
「ノア、ほっぺた痒くないかしら?」
「ん~……あのね、しゅこぉし、かいかいよ」
やっぱり痒いのね……。
私が悪いのよ。甘いものや揚げ物を食べさせてしまったから……。気をつけてあげられるのは私だけなのに!
「ノア、ごめんなさい。そのかいかいはね、お母様が、おやつをあなたの欲しがるままに与えてしまったから……」
「おかぁさま、わりゅい、ないのよ。よちよち」
「ノア……」
肌の乾燥ごときと大袈裟に思われるかもしれないけれど、食生活の乱れは後々大きな病気に繋がりますもの。気を付けなくてはいけないわ。
それに、ノアのぷにぷにマシュマロ肌は、人類の宝よ!
「奥様! 持ってきました!! これですよねっ」
カミラが持ってきたのは綺麗な水と、ヤシの実やオリーブの油脂から抽出した、いわゆるグリセリンというものだ。
水100CCに対して、グリセリンを5~10CCを混ぜるだけで化粧水が出来る。
精製水が良いとも言われるが、浄水でも大丈夫なのだ。
精製水だと日持ちがしないのと、準備に時間がかかるというのもあるので、今回は浄水にしてもらった。
手作り化粧水のイベントに参加した事があったから、知っておりましたのよ。
ここにローズマリーをウォッカなどのアルコール度数の強いお酒につけて、1~2週間置き、エキスを抽出したものを精製水で薄め加えると、より効果の高い化粧水となるのだけれど、肌に合わない人もいるので、水とグリセリンだけのものが一番良いのではないかと、個人的には思っている。
「さぁノア、このお水をお顔やおててに付けましょうね」
「? おみじゅ、ちゅけりゅの」
そう言って目を閉じるので、ほっぺたと手に付けてあげる。
「ちゅめたーい」
キャッキャと喜び、はしゃぐので、思わず笑ってしまいましたわ。
そういえば、帝都の近くにある、皇族も御用達の保養地では、温泉が湧くと聞きますわ。そちらへノアを連れて行ってみようかしら。温泉は肌にも良いですものね。
「かいかい、ないの!」
「暫くの間は、お風呂の後にこのお水をつけるようにしましょうね」
「はーい!」
ノアにエステはまだ早いけれど、天然由来の化粧水やシアバターなら赤ちゃんでも使えますわ。
「……そういえば、聖水にグリセリンやハーブエキスを混ぜるとどうなるのかしら?」
毒消し効果がある聖水なら殺菌作用も高そうですし、アレルギーになるようなものも抑えてくれたりしないかしら……。
あら、ちょっと試してみるのもよさそうですわ。
なんて、軽い気持ちで後日試してみたのだけれど、私の肌がびっくりするほど綺麗になったので、聖水に様々な植物のオイルを混ぜて使う事にはまっていたのだけれど、ある日……、
「お、奥様……っ、ありがとうございます!! 奥様からいただいた化粧水で、火傷の跡が消えたんです!!」
「私も、アトピーの後が消えました!!」
使用人たちにもサンプルを使用してもらったら、思わぬ効果が現れたから驚いた。
「え、火傷跡やアトピーにも効くんですの……??」
「はい! これで何の憂いもなく、彼からのプロポーズに返事が出来ます! 本当にありがとうございます……っ」
え、えぇ……!?
火傷やアトピーの跡が消えるということは、つまり、傷が治るって事ですの!?
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート
☆書籍化 2026/2/27コミックス3巻、ノベル8巻同時刊行予定☆
ノベル8巻刊行前に8巻に掲載される番外編を削除予定です。何卒よろしくお願いいたします】
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。