継母の心得

トール

文字の大きさ
277 / 369
第二部 第4章

491.王女の謝罪

しおりを挟む


「ディバイン公爵夫人、突然お会いしたいと……わがままを言ってしまい、申し訳ありません……。どうしても、その……謝罪をしなければと思い……」

ロギオン王国の王女様に呼ばれ、彼女のいる客室に入ると、扉のそばにはディバイン公爵家の護衛騎士、ベッド近くの椅子にはお父様が座り、そのそばにウォルトが立っていた。

「エリス王女殿下、ご挨拶が遅れ申し訳ありません。わたくし、イザベル・ドーラ・ディバインと申します。謝罪などと、そのような事はなさられなくて大丈夫ですので……」
「そのように丁寧な挨拶をしていただき、痛み入ります……ですが私は、突然お邪魔してしまった身……謝罪をするのは当然です……」

自信がなさそうに俯き、ぎゅっと布団を掴んでいる王女様の手は、微かに震えていた。

とても小柄な方ですわ……。

腫れ上がるほど殴られたら、すぐに骨が折れそうなほど華奢な身体は、もしかしたらお食事があまりできていないのでは、と思わせるものだった。

「お身体はいかがでしょうか?」

安心させなくては、と体調を気遣えば、まだ腫れ上がって痛々しい右頬を隠すように手で押さえ、「お陰様で、痛みは少し……引きました」と呟く。

エリス王女の癖のない、長い黒髪が影を落とし、顔がよく見えない。今にも泣きそうなか細い声で話す王女様を見て、胸がしめつけられる。

「その……、ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません……」

謝罪不要と伝えたのだが、王女様は、謝罪と感謝を述べられ、頭を下げた。

「王女殿下、謝罪などよろしいのです。そんな事よりも、お身体が大事ですわ。どうか顔をお上げくださいまし」
「……ディバイン公爵夫人……ありがとうございます」

挨拶をして体調や怪我の具合などを伺い、その他は特に何を話すでもなく、部屋を出る。

長居をしてしまうのは、お身体に障りますものね。

「イザベル、顔色が悪いんじゃないかい?」
「え、そうかしら?」

エリス王女の部屋を一緒に退室したお父様が、わたくしを心配そうに見る。

「少し動きすぎたのかもしれないね。念の為、お腹の子と一緒に医師に診てもらおう」

多分、エリス王女の傷の生々しさと、震えたか細い手だけでなく、あの自信のなさと口数の少なさから、身体の痛みだけでなく、心にも傷を負っているのだろう事が察せられて、わたくしがなんて痛ましい事だ、と感じたから、お父様には顔色が悪く見えたのかもしれない。

「わかりましたわ。ムーア先生に診ていただいて、その後は安静にいたします」

半年前と比べ、明らかに膨らんだお腹を撫でると、ポコッと、中から蹴られたのを感じ、少しほっこりとできた。

医師に診察してもらい、問題ないとお墨付きをいただいたのだが、お父様に安静にすると言った手前、動き回る事もできず、その日はずっと大人しくしていたのだ。

「そういえば、王女様はどうしてわたくしを名指ししたのかしら? 謝罪や感謝は普通、ディバイン公爵家の当主にするものですわよね?」
「旦那様は登城されておりますので不在ですから、奥様に、という事ではないでしょうか?」

ミランダがわたくしの呟きを拾い、答えてくれる。

「確かにそうなのだけど……」

どうしてか、引っかかるものがありますのよ。

「奥様が気になるようでしたら、王女を調査いたします」
「そうね……、そこまではしなくてもいいと思うのだけれど……」
「……かしこまりました」

ミランダは表情筋を動かさないが、納得していないようで、「もし奥様のお気持ちが変わられましたら、いつでも仰ってください。すぐに調査いたします」と言ってくれたのだ。

頼もしい侍女ですわ。……侍女といえば、王女様には侍女ではなく、侍従が付いておりますのよね。珍しい事ですわね。

なんとなしに思った事が、後に重大な事の一つだったとわかるのだが、この時のわたくしは、気付いてすらいなかったのだ。

しおりを挟む
感想 11,982

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート ☆書籍化 2026/2/27コミックス3巻、ノベル8巻同時刊行予定☆ ノベル8巻刊行前に8巻に掲載される番外編を削除予定です。何卒よろしくお願いいたします】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。