継母の心得

トール

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第二部 第4章

491.王女の謝罪

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「ディバイン公爵夫人、突然お会いしたいと……わがままを言ってしまい、申し訳ありません……。どうしても、その……謝罪をしなければと思い……」

ロギオン王国の王女様に呼ばれ、彼女のいる客室に入ると、扉のそばにはディバイン公爵家の護衛騎士、ベッド近くの椅子にはお父様が座り、そのそばにウォルトが立っていた。

「エリス王女殿下、ご挨拶が遅れ申し訳ありません。わたくし、イザベル・ドーラ・ディバインと申します。謝罪などと、そのような事はなさられなくて大丈夫ですので……」
「そのように丁寧な挨拶をしていただき、痛み入ります……ですが私は、突然お邪魔してしまった身……謝罪をするのは当然です……」

自信がなさそうに俯き、ぎゅっと布団を掴んでいる王女様の手は、微かに震えていた。

とても小柄な方ですわ……。

腫れ上がるほど殴られたら、すぐに骨が折れそうなほど華奢な身体は、もしかしたらお食事があまりできていないのでは、と思わせるものだった。

「お身体はいかがでしょうか?」

安心させなくては、と体調を気遣えば、まだ腫れ上がって痛々しい右頬を隠すように手で押さえ、「お陰様で、痛みは少し……引きました」と呟く。

エリス王女の癖のない、長い黒髪が影を落とし、顔がよく見えない。今にも泣きそうなか細い声で話す王女様を見て、胸がしめつけられる。

「その……、ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません……」

謝罪不要と伝えたのだが、王女様は、謝罪と感謝を述べられ、頭を下げた。

「王女殿下、謝罪などよろしいのです。そんな事よりも、お身体が大事ですわ。どうか顔をお上げくださいまし」
「……ディバイン公爵夫人……ありがとうございます」

挨拶をして体調や怪我の具合などを伺い、その他は特に何を話すでもなく、部屋を出る。

長居をしてしまうのは、お身体に障りますものね。

「イザベル、顔色が悪いんじゃないかい?」
「え、そうかしら?」

エリス王女の部屋を一緒に退室したお父様が、わたくしを心配そうに見る。

「少し動きすぎたのかもしれないね。念の為、お腹の子と一緒に医師に診てもらおう」

多分、エリス王女の傷の生々しさと、震えたか細い手だけでなく、あの自信のなさと口数の少なさから、身体の痛みだけでなく、心にも傷を負っているのだろう事が察せられて、わたくしがなんて痛ましい事だ、と感じたから、お父様には顔色が悪く見えたのかもしれない。

「わかりましたわ。ムーア先生に診ていただいて、その後は安静にいたします」

半年前と比べ、明らかに膨らんだお腹を撫でると、ポコッと、中から蹴られたのを感じ、少しほっこりとできた。

医師に診察してもらい、問題ないとお墨付きをいただいたのだが、お父様に安静にすると言った手前、動き回る事もできず、その日はずっと大人しくしていたのだ。

「そういえば、王女様はどうしてわたくしを名指ししたのかしら? 謝罪や感謝は普通、ディバイン公爵家の当主にするものですわよね?」
「旦那様は登城されておりますので不在ですから、奥様に、という事ではないでしょうか?」

ミランダがわたくしの呟きを拾い、答えてくれる。

「確かにそうなのだけど……」

どうしてか、引っかかるものがありますのよ。

「奥様が気になるようでしたら、王女を調査いたします」
「そうね……、そこまではしなくてもいいと思うのだけれど……」
「……かしこまりました」

ミランダは表情筋を動かさないが、納得していないようで、「もし奥様のお気持ちが変わられましたら、いつでも仰ってください。すぐに調査いたします」と言ってくれたのだ。

頼もしい侍女ですわ。……侍女といえば、王女様には侍女ではなく、侍従が付いておりますのよね。珍しい事ですわね。

なんとなしに思った事が、後に重大な事の一つだったとわかるのだが、この時のわたくしは、気付いてすらいなかったのだ。

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