継母の心得

トール

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第二部 第5章

556.見落とし

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「⋯⋯ここは⋯⋯」

エンツォが目を覚ますと、彼の周りを取り囲むように、数人のディバイン公爵家の影の姿があった。影らは忙しなく動いている者とエンツォを心配そうに覗き込む者とがおり、覗き込む者と目が合った。

「シモンズ伯爵! 大丈夫ですか!?」
「⋯⋯ああ、私は⋯⋯」

しばらく周りを見渡し、影たちを見るエンツォの様子に、影たちが気遣わしげに状況を説明する。

「伯爵は皇城から連れ去られる際、気絶させられていたのです。ここはエンプティのアジトの一つです」
「そうか⋯⋯、それでこの惨状は一体⋯⋯?」

今いる部屋を見渡せば、そこには拘束された男たちの姿があるではないか。

「伯爵の協力のお陰で、エンプティのアジトを制圧できました。感謝いたします」
「制圧⋯⋯」
「伯爵?」
「いや⋯⋯、なんでもない」

影の一人は、エンツォの様子がおかしい事に気付いた。外傷はないようだが、念の為医師に診てもらった方がいいだろうと、エンツォを馬車に乗せたのだ。

「おい、どうした⋯⋯!? 大変だっ、コイツ、息をしていないぞ!!」



ーーーーーーーーーーーーーーー



イザベル視点


怪我はないと聞いてはいても、お父様は大丈夫だろうか、と心配で玄関前をウロウロしていたわたくしとオリヴァーの耳に、馬車の音が聞こえてきた。

お父様が帰ってきましたわ!

二人して慌てて外へ飛び出す。

その時は、深夜だから静かに、なんて頭から抜け落ちておりましたわ。

いつも執事長のウォルトと一緒に、テオ様の執務室に出入りしている従者が、お父様を支えながら馬車から降りてくる。

「お父様!!」

まさか、支えられなければ歩けない怪我でもしましたの!?

「お父様⋯⋯っ」
「⋯⋯大丈夫だ。心配かけたな」

え? 何か違和感が⋯⋯

「お父様、どこか怪我でもしたのですか!?」

オリヴァーがお父様を支えるように手を取ると、父は疲れているのか、ふぅと息を吐いた。

「大丈夫だ。怪我などない」
「そうですか。良かった⋯⋯」

安堵する弟と、笑みを浮かべる父を見て首を傾げる。

「ベル、どうした?」

テオ様がわたくしの様子を訝しみ、顔を覗き込んできたので首を横に振る。

きっと気の所為ですわ。

「何でもありませんの。お父様が無事に帰ってきてくれて良かったと、安堵しておりましたのよ」
「そうか」

その後はお父様が休みたい、と早々に寝室へ行ってしまい、深夜だったという事を思い出して、わたくしたちも寝室へ戻る事にしたのだけれど、すぐに従者の一人に呼び止められたのだ。

「───閣下、エンプティの一人が、死亡しました」



ーーーーーーーーーーーーーーー



その男は、ロギオンの影たちの中では異質であった。
国王の周りに侍る影の中で唯一人、何の能力も持たなかったからだ。にもかかわらず、男はロギオン国王のお気に入りであった。
特に目立った功績など何もない。外見すら中肉中背の平均的で、そういう意味では影に向いているといえるだろう。

「俺は、国王の部屋で顔を合わせた事はあるが、話した事すらない。エリスもそうだ。顔もおぼろけで、はっきりと思い出せない」

エリス王女の侍従であるエドバーグは、テオバルドの聞き取りに対してそう答えた。カルカやデイリー、ドルンもそれに続く。

「⋯⋯そんな男が突然死んだというのか」

影がアジトに突入した際、手荒に扱って外的要因から死亡したのか、それとも病だったのか、現在調査中だが、テオバルドは言い知れぬ不安を感じていた。

「何か、見落としている事があるのか⋯⋯」

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