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第一章
7.つがい
しおりを挟む「いらっしゃいませ!! こちらのお席にどうぞ!!」
エールの入ったジョッキを両手に2つずつ持ちながら、入って来た客に席を案内する。「注文いいかい?」という声に「すぐ行きます!! 少々お待ち下さいっ」なんて声をかけつつ「お待たせしました!」とエールを頼んだお客さんの机に置くと、即座に注文を取りに行く。
“イザークの酒場”で働きはじめて1週間。
かなり繁盛している店のようで、初めはこの忙しさに目が回り挫けそうになったけど、だいぶ慣れてきたと思う。
これを一人で回してきたイザークさんはすごいと改めて感じたが、何で今まで人を雇わなかったんだろう。
そんな疑問を開店準備中に聞いてみたら、イザークさんは言いづらそうにしながらもきちんと話してくれた。
「いや、募集はしてたんだ。これまでも何人か雇ったが、結構大変だろう。時間も夕方からだしな。長くは続かなかった」
「? 確かに忙しいですけど、休憩もあるし、まかないも出るし、給料もそれなりだし、待遇は良いですよね??」
「それが、今まで募集してたのは女の子だったんだ。ほら、酒場=看板娘ってイメージがあるだろ?」
どうやらイメージだけで女の子を募集していたらしい。
「なるほど。確かに女の子にはキツイかもしれませんね」
酒屋は酔って絡んでくる奴もいるし、エールのジョッキは一つでも結構重い。皿洗いは手も荒れるしな。俺は重さを軽くしたり、酔いを醒ましたり、皿洗いは魔法で出来るからあまり気にならなかったけど、魔法が得意じゃないと男でもキツイかもな。
「そんなわけで性別不問で求人を出す事にしたんだが、良い人材が来てくれてよかったよ」
え? オレ誉められてる?
「ディークはよく働いてくれてる」
「あ、ありがとうございます」
誉められるって照れるもんだな。
「ディーク……その、出来れば今後も続けてくれると助かるんだが」
そっと手をとられ、真剣に見つめられる。
「はい。オレもこの仕事は続けたいと思ってるんで、宜しくお願いします」
「ああ。そうだ、改善してほしいことがあれば言ってくれ。無理はしてほしくないから」
イザークさんってホント良い人だよな。最初はくたびれたおっさんだと思ったけど、実際は仕事の出来る良い上司って感じだし、顔も男らしくて格好良いし、オレが将来こうなりたいっていう理想の人だよ。
「今んとこ問題ないです」
問題どころか、魔法使えばラク出来るし、なんなら採取依頼とかよりよっぽど稼げるしな。賄いもまぁまぁ美味い。父さんのご飯の方が美味いけど、母さん曰く、父さんは料理に関しては天才を超える才能の持ち主だって言ってたからな。そこらの料理人と一緒にしたらダメらしい。
「そうか。……本当はホールで働かせるのは嫌なんだが、もう少し余裕が出来たらホール専用のスタッフを雇う予定だから。ごめんな」
「え?」
もしかしてオレ、お客さんからの評判が悪いのかな。うわ~、面と向かって言われるとへこむ!
「ディークは可愛い……いや、未成年だから、酔っ払い共の相手をさせるのには抵抗があったんだ。それに、君の味覚は鋭いから厨房に入ってほしいと思ってる」
「あ、調理担当になるって事ですね。厨房忙しそうですもんね。でもオレ素人ですけど大丈夫ですかね?」
お客さんからの評判が悪いわけではなかったんだ。良かった~!
「料理なら俺が教えるし、問題ないさ。とはいえ、この店も始めたばかりだから今すぐとはいかないけどな。もう少し金銭に余裕があれば良かったんだが……ごめんな」
「いや、イザークさんが謝る事じゃないですよ!? 始めたばかりなのにいつもお店は満員なんですから、凄いじゃないですか!!」
「ありがとう。君にいくらでも贅沢させられるように頑張るから」
ん?
「ちわ~っ 追加の野菜持って来ました~」
何か違和感があったが、裏の扉を開けて入ってきた業者によって霧散した。
さて、掃除しようかな!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
イザーク視点
ロヴィンゴッドウェル辺境伯爵領の中心部にある、クランという街は“料理人の聖地”と言われ、様々な料理人が腕を磨き競い合う料理屋の激戦区だ。そんな街で生まれ育った俺は、当然のように料理人を目指し、運の良い事に、揚げギョウザを始めピロシキなどを作り出した伝説の料理人と言われる方に弟子入りする事が出来た。12歳の頃だった。
師匠の元で修行する事15年。俺はルマンド王国の王都に、小さいながらも念願の自身の店を構えた。世界中のウマい酒と、それに合う料理を提供する酒場だ。
そうして1年が過ぎた頃には評判になり、連日盛況が続いている人気店となったが、従業員には恵まれなかった。
やはり料理屋のホールスタッフには華のある女の子が良いと聞き募集したが、忙しさと夕方からという時間帯、そして酒場という事が嫌煙される原因だったのか、中々人が集まらない。
やっと雇えても、酔っ払い共のせいで長く居着く事はなかった。
一人で切り盛りする事に限界を感じていた俺は、女の子に拘らず、性別不問で募集する事にした。
どうせ客は酔っ払いだ。ムサい男が接客したって変わらんだろうとギルドに求人を出したのだが、やって来たのは想像とは正反対の、華奢で精霊と見紛う程の美貌を持った少年だった。名前はディークというらしい。
彼は俺の“つがい”だ。
出会った瞬間、本能で理解した。
しかし、ディークは人族や鬼人族ではないのか、俺をつがいと認識していない様子でショックを受ける。
人族や鬼人族同士だと、“つがい”に出会えばお互いすぐに惹かれ合う。出会ったその日に結ばれるのが普通だ。
だが、人族、鬼人族が異種族をつがいとして認識した場合、人族、鬼人族側のみが狂いそうになるほど愛しく感じるだけで、相手側は、運が良ければ恋をしてくれるが、ほとんどは好意を持つくらいの大きな差ができる。
だから異種族を確実に手に入れるには距離感を保ち、徐々に縮めていかなければならないと、父や祖父から教えられた事を思い出す。
好感度は初めから高いのだ。多少時間はかかっても、外堀を埋めながらそばに居られるよう努力するしかない。ディークが俺を愛してくれるように。
絶対逃がさないぞ。ディーク。
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