聖なる乙女は男装中。

三月べに

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11 仲間。

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「私の仲間から手を離せ! 血染めのダーク!」

 ソーマが怒った顔を、初めて見る。
 仲間が危険だと感じて、怒っているのだろう。
 ノックスに目をつけられたら、早死にするという噂だ。
 ノックスもそれを理解しているのか、腕を離した。
 支えをなくしたちんちくりんの身体は、床に着地する。

「落ち着いてよ、ソーマ。ただ一緒に狩ってきただけだって」
「っ! 私達とは誰も行かないのに!? ダークは危険なんだ、コヨイ! こっちにおいでっ?」
「落ち着いてってば」

 手を差し出してノックスから離れるよう言うソーマを宥めようとするのだが「早く!」と急かされた。

「ソーマ。自分は大丈夫」

 問題ないと伝えようとしたけれど、またもや「離れて!」と急かされる。
 ノックスを見てみれば、呆れたご様子だ。でも仕方なさそうな感じ。

「大丈夫だって、ほら触っても死にやしないって」

 ペタッペタッとノックスのお腹に触る。手を上げれば、その位置に当たるからだ。

「コヨイのエッチ」
「……」

 何を思ったのか、ノックスがそんなことを言うものだから、固まってしまった。注目浴びている中で、それはないだろう。
 ちょっと何、恥ずかしいんだけれども!?
 頬に熱が集まっていることを感じていれば。

「コヨイ!! 触っちゃだめだ!!」

 痺れを切らしたソーマからズカズカと歩み寄ってきて、私の小さな手を掴み、ノックスから引き離した。軽い身体は、容易く動かされてしまう。
 そのまま、ギッと睨み付けるソーマ。
 ノックスは痛くも痒くもないっといった表情である。

「金輪際、私の仲間と接触しないでもらうおうかっ!!」
「ソーマ! ちょ、待って、今日の分の換金受け取ってない!」
「コヨイ。ほら」

 イミーさんから受け取っていないと言っても、ソーマは私の手を引いていく。代わりに呼んだノックスが、私に袋を投げ渡してくれた。
 どっしりとした重さの袋。そのまま自分の分の分け前を取らずに、私に渡したと理解した。

「ノックス、ちょっと!? 待ってってばソーマ!」

 ずるずると引きずられるように、銀行を出る。
 ノックスに今日のお礼を言っていないし、分け前を与えてもいない。
 ノックスは受け取る気がないのか?
 納得いかない。山分けでいいじゃないか。
 私はむくれた。でもソーマの方がふくれっ面をしている。

「なんでソーマがふくれっ面してるの」
「……だって、コヨイが……」

 緑の模様がある黄色い頭が下がった。
 俯いたソーマの顔を見てみれば、目尻に涙を浮かべている。

「私達とは行かないのに、よりにもよってダークと戦いに行ったんだもんっ……!」
「それで悔し涙って、なんで?」
「もう少しすれば、コヨイも心開いて一緒にパーティ組んで行ってくれると思ったのにっ……!」
「それで悔し涙って、なんで?」

 何がそんなに悔しいのか、わからない。
 とりあえず連れて行かれたいつもの食堂。

「あっ! コヨイ! 生きてる!?」

 巨乳美女のリンリにもっちりした頬を揉まれ、そのあと身体をペタペタと触られた。掌を胸に押し当てられても、女だって気付かれないこの虚しさ。

「生きてるって。死んでない」

 揉みくちゃにされてから、手を退かしてやめさせる。

「はぁー……あのね、血染めのダークに目をつけられると早死にするのよ!」
「うん、聞いたことある」

 私はケロッと返す。

「ならなんで一緒にいたんだい!?」

 ソーマが肩を掴み、詰め寄った。

「いやでも、別に死ぬ目に遭ってないよ?」
「ダークに狙われたら最後、実力ある賞金稼ぎも、パッタリと行方不明になるんだ! コヨイがそんな目に遭うなんて、嫌だ!!」

 私の肩を掴む手が震えている。

「君を失いたくないっ……!」

 ソーマは必死だった。
 恐怖を感じている。私を失う恐怖。
 それがどんなものかは、私にはわからない。
 共感出来ないのだ。私は他人を心配していない。
 ここまで親身になって心配をしていないのだ。

「……大丈夫だって、ギルドマスター」

 私はソーマの頭に手をやって、微笑んで撫でる。

「死にやしない」

 なんてたって私は【聖なる乙女】だ。
 この世界を救うまでは、死なない。
 でも【聖なる乙女】だから、っていう説明は出来ない。
 話せない代わりに、大丈夫って込めて微笑む。
 すると、ポッカンとしたソーマの顔が真っ赤になる。
 ん? なんでここで顔を赤くするんだ?

「はっ……離れなさい!!」

 リンリが割って入ってきた。
 ソーマは私から引き離されて、ブンブンッと振り回されている。
「変な雰囲気になってたんだけど!?」とリンリが騒いだ。
 話は一件落着したと思い、私は夕食を注文した。
 ルラと一緒に食事をする。美味しい。
 ソーマ達も食事を始めて、酒も飲んだ。
 それからのソーマは、面倒だった。

「ダークと一緒に戦ったなら、私達とも戦ってくれるだろ!?」
「んー嫌だ」
「なんでだよぉおおっ!!」

 絡み酒である。
 リンリはリンリで、私を睨んでいた。なんでだ。

「なんでダークは良くって、私達はだめなんだよ!?」
「ギルドマスター。無理強いはしない約束でしょ? 自分はそれで入る承諾をした。いってきます、ただいまを言って、無理をしないって約束は守ってる。無事に帰ってくる約束も。頼りたい時に、仲間を頼る」
「なんでダークは良くって、私達はだめなんだよ!?」
「ギルドマスター。無理強いは……はぁ、以下略」
「はっ!? ドラゴンブレイドもダークと一緒に行ったのかい!? なんで君はそう秘密主義なんだよ!? 私は心配で心配でっ……っ……!!」

 今度は泣き上戸。むせび泣いて、私の腕を握り締める。
 面倒くさい。全くもって面倒である。
 うん。ドラゴンブレイドを取ってこれた理由はそれでいいや。
 ノックス、ごめんよ。嘘に使わせてくれ。

「コヨイ、想われて大変だね」
「コヨイだもん」
「好きー」
「好ーき」

 私とルラにしか見えていない精霊達が、テーブルに並んで納得している。
 ぽてっとした二頭身ののっぺらぼう精霊達は、私のポテトをつまみ食いした。
 他の皆は飲んだり食べたり、ソーマをあやしたりして気付いていない。

「ちんちくりんでも」
「好きだよ」

 一言余計だってば。
 好きだって言うのはいいけど、ちんちくりんって言うな。
 私は笑顔を向けてから、食事の続きをした。

「ソーマみたいには言わないけれど、マジな話さ。血染めのダークとつるんだ奴は皆死んだ。コヨイもその一人になるかもしれないだろ」

 お酒で頬を真っ赤にした強面の男、メイソンが言う。

「……」

 ノックスといた人は皆死んだ、か。

「ねぇ、ソーマ。どうして自分に声をかけてきたの?」
「へっ?」

 私はしくしく言っているソーマに振る。
 素っ頓狂な声を出して、ソーマは顔を上げた。

「子どもの自分が、一人でいるのが心配だったんでしょ?」
「えっ……うん……まぁ」

 ソーマが頷きながら、目を背ける。

「こうしようぜ、ギルドマスター。ソーマは自分を一人にしない。自分はノックスを一人にしない」
「……コヨイ」
「そういうことにしようぜ?」

 私がソーマの顎を摘まんで、笑いかければ、また顔を紅潮させた。
「だからなんで変な雰囲気になるの!?」とリンリが割って入る。

「ダークを一人にしたくないから、一緒に行動することを許可しろってこと? コヨイ」

 リンリをかわして、ソーマは問う。

「許可しなくても行くけど」
「コヨイっ!」
「無事に帰ってくる。それはちゃんと約束するって。ドラゴンブレイドもついてるんだよ? 安心してよ」
「……」
「ドラゴンブレイドに選ばれしものが簡単にくだばるわけないだろ」

 そうウインクをして見せた。
 ドラゴンブレイドだって、心強い味方だ。
 ソーマは唸る。酔った頭で答えを出すまで待ってやらなかった。

「話はおしまい。自分は宿に戻る」

 食事は終えたので、私は椅子から飛び降りる。
「あ、コヨイ!」と呼び止めるソーマを振り返り。

「そうだ。ただいま」

 忘れていた挨拶をして、ルラと食堂を出た。

 翌朝、起きたらのんびりと支度をして、昨日待ち合わせた場所に向かう。
 念のため、尾行がいないことを確認。いつもやってるけれど。
 ルラも犬型のままにしてもらった。
 浄化は済んだ森なので意気揚々と歩いていけば、ヤンキー座りをしている夜空色の頭をしたノックスを見付ける。頬杖をついた彼は、目を大きく見開いた。

「意外。また来たんだ?」
「意外ならなんで待ってたの?」
「んー、なんとなく」

 なんとなくで待つのか。暇だったのかな。

「今日も俺と狩りするのかい?」
「そのつもりで来た」
「ふーん。なんで?」

 ノックスは問う。

「ノックスを一人にしないためだよ」

 私が笑って言い退ければ、ノックスはさらに目を見開いた。

「……ああ、そう……」

 そう頷くノックスが見つめてくる。
 私はニッと笑って見せた。



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感想 9

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みんなの感想(9件)

朽木白哉
2020.07.14 朽木白哉

早く、続きが読みたいです。

2020.07.14 三月べに

ありがとうございます。
停滞しててすみません!
書けたら、更新しますね!

解除
yu.M1516
2019.07.08 yu.M1516

更新待ってます(ヽ´ω`)

コヨイが聖女としどーなっていくのか楽しみにしてます♡

2019.07.10 三月べに

更新待っててくださり、ありがとうございますっ!!( i _ i )
ほんと、待たせてしまいすみません!
いつかっ! いつか! 更新してみせます!
感想ありがとうございます!

解除
雨茶野リリィ

更新ありがとうございます(。・о・。)♡!

「ふー」のひと息で浄化出来るとは!
流石聖なる乙女なコヨイちゃん!

銀行でとうとうソーマとノックスが!!

え?え?そこで切らないでー!
続きが気になるよ〜Σ( ꒪□꒪)‼


次の更新も待ってます(*・ω・*)wkwk

2018.07.06 三月べに

更新お待たせしました!

ふーふーする今宵ちゃんです。
可愛いでしょう?(笑)

心配性なソーマとノックスが!
続き気になりますよね!
私もです!←

次回はなるべく早く更新出来るよう
頑張りますねっ!
感想ありがとうございました!

解除

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