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08 竜の息吹。
しおりを挟むソーマギルドに入って、ルールが決まった。
出掛ける時は「いってきます」を言うこと。
帰ってきた時は「ただいま」を言うこと。
無理はしないこと。いつだって仲間を頼ってもいいこと。
そして、無事に帰ってくること。
そんな約束をさせられた。そんな些細なルールばかりになったのも、私の都合で色々蹴ったせいでもある。戦っている姿は見られてしまえば、只者じゃないとバレてしまう。だから行動は相変わらず一人にしてもらった。
それでも必ず帰ってくることを約束をすれば、ソーマは満足そうに破顔した。
精霊のアドバイスもあって、二日は休むことにした。夕食はソーマギルドと一緒。名前は覚えきれていないが、本日の成果や武勇伝を聞かされながら楽しく食事をした。
そして、翌日。
朝起きて見れば、枕元でポテポテ精霊が輪になって会議をしていた。小さな手で隣を小突いてーーぷにっと音がした気がするーーは、大きな頭で頭突きーーぷにょっと音がした気がーーする仕草をしながら話し合っている。可愛いなおい。
「ドラゴンブレイドを取りに行こうよ」
赤色の精霊が提案した。
「ドラゴンの息吹で鍛えられた剣だよ。絶対に折れたりしない剣だよ」
「なにそれ欲しい。どこで手に入るの?」
「ドラゴンのいるところ」
「なにそれ難関」
ドラゴンと聞いただけで難関だと安易に想像できた。折れない素晴らしい剣は、それほど難関な場所にあるらしい。
「大丈夫。小さなドラゴンが守っているだけだから」
顔は相変わらず全く見えないけれど、微笑まれた気がした。温かい目で微笑まれた気がした。
ドラゴンは小さくてもドラゴンなのでは。
どのゲームを思い浮かべても、ドラゴンは強敵だった気がしかしない。むしろラスボスランクの住人だ。最後に倒す相手じゃないの。
「先ずはそこに行き着くまでの武器を調達しよ」
「しよう。おー」
ドラゴンブレイドを手に入れるための武器調達に行くと、私は精霊と一緒に右手を上げる。精霊が言うなら従おう。
私は今、裏技を使ってレベル1から一気にレベル5になった気分だ。大船に乗ったつもりで行こう。
新しく買ったブラウスに腕を通す。男の子用だ。
服を買いに行くと言ったらソーマと、巨乳美女のリンリってギルドメンバーまでついてきて、選んでくれた。結局、男の子と勘違いされたまま、正す気もなくまた似た格好をすることになった。
男の子用コルセットをして動きやすいズボンを履いた。コルセットは一般的らしいし、私が最初にしていたのも男の子用だったらしく、勘違いに拍車をかけたのだった。私はそれを眺めるのだけ。
犬型の純白のルラを連れて、メイン通りにある武器屋に入った。槍やら盾やらまで並んでいる。武器がいっぱいなんて、子どもらしい感想を漏らす。
持ちやすく扱いやすい短剣系が並ぶ武器は、棚の上。爪先立ちをして品定めするけれど、どれがいいかわからない。ソーマに来てもらうべきだったかもしれない。
店長らしき男性が万引きでも警戒しているのか、見張られている。むむ、大金ならあるぞ。
「あれ、また会ったね。コヨイ」
声をかけられて首を振れば、右に頬杖をついたノックスがいた。夜空色の綺麗な髪。にっこりと笑顔。
「ノックス。おはよ」
「おはよ。武器探し?」
「そうそう、折られちゃったから別のものを臨時で買おうと思って」
店員らしき男性が、心なしか青ざめて離れて行く。それを横目で眺めながら、ノックスと会話を続けた。
「折れちゃうと、次買うの困っちゃうよねー。でも臨時ってどういう意味?」
「ドラゴンブレイド取りに行こうと思って」
悪戯に私は本当のことを答えた。
難関らしいから冗談だと笑うだろうと予想した、のだが。笑ったことは笑った。ポンポンと私の頭を叩いて「そんなに頑張っちゃうんだ」と言う。
頬杖をついたまま、目尻を緩ませる。
「でも行っても無駄になるかもしれないよ? あの剣って主人を選ぶから、使えないかもしれない」
「そうなの?」
選ばれしものしか扱えない剣とは聞いていない。
「そうそう。実際に行ったオレが言うんだから間違いないよ。剣、全然反応しなくて使い物にならなかった」
「えっ」
さらりと凄いことを聞いた気がする。
聞き間違いではなければ、彼は難関をクリアしたのではないだろうか。
「折れない剣なんて、これから武器調達しなくて済むって楽できると思ったのに残念だったな」
そうぼやく。私もそれには同感だ。そうもいかないのが現実である。
「ドラゴンの洞窟にはインプがたくさんいるし、ドラゴンと対決になったら火属性に強い武器がいいよ。これと、これ」
火に耐性のある短剣を指差して教えてくれた。
ドラゴン対決は避けるつもりだけれど、忠告に従う。
「ありがとう、ノックス」
「あはは!」
ノックスが声を上げて笑った。今度こそ冗談を聞いたみたいに。
「ギルドに入ったんだよね。そのうち聞くと思うけれど、オレは戦闘狂なんだ。強い奴は好物でね。そのうちコヨイを食っちゃうかもよ?」
口の端を吊り上げて、告げる。楽しげな好戦的な眼差しだった。
私はこてん、と首どころか頭を傾げる。
ノックスは剣を一つ買っていくと、先に店をあとにした。
「お、おい、君。気を付けた方がいいぞ。血染めのダークに目をつけられたら、早死にするからな」
蒼白の店員が警告する。
ブラッティ・ダーク。ノックスの二つ名らしい。どうやら戦闘狂と恐れられている青年。
そんな青年に強い奴と目をつけられているらしい私は、首を捻る。あの人はどうして私を強いと判断したのだろうか。それともこれからの成長を期待して戦いたいということだろうか。わからない。
どちらにしても私は何もなかったかのように、アドバイスに従って短剣を購入した。
「いってきまーす」
ギルドマスターを見付けてから、挨拶。だってルールの一つだから。
「どこ行くの?」なんてソーマが訊いたけれど、私はノックスのように冗談を言わなかった。本気で心配することは目に見えていたからだ。
「秘密—」と返して、門を正々堂々と出ていった。
過保護なギルマスに尾けられていないことを確認してから、ルラに元の姿に戻ってもらう。大きな熊並みの狼。純白の翼を持つ幻獣の姿。
「コヨイ。マント」
「マント着て」
「火耐性のマント」
「必要だよ」
精霊が揃って言うものだから、どこからともなく現れたマントを羽織らせてもらった。深紅のマント。ちょと重い。火に強いのなら必要な装備だろう。
「さぁ、行こう。ルラ!」
ちょっとワクワクしながら、ルラの背中に乗らせてもらった。ドラゴンなんて、正直見てみたい。高揚がおさまらない。
ルラは翼を羽ばたかせて飛ぶ。浮遊感を味わう。マントも一緒にルラの背にしがみついて、空を眺める。ホリゾンの街を旋回したあと、黒い森の頭上を進む。
そして到着したのは、黒い山だった。今にも噴火しそうな暑い火山だ。その洞窟の入口に降り立った。溶岩が固まったあとのような壁に天井。おっかない。
マントをきつくくるまって、ルラと目を合わせる。うん、と頷いて進んだ。
ノックスが言った通り、インプが出た。悪戯っ子の妖精みたいな黒い姿。妖精というか、小さな悪魔と表現すべき方が近いだろう。
精霊が光を灯して先を照らしてくれているけれど、影から不意打ちを突いてこようとする。しかも、その数は多い。息もつけないほど、途切れないほど襲いかかってきた。
一体一体斬り倒して、滑り込むように進む。慣れない短剣に違和感を覚えつつも、確実に斬って進んだ。
隙を作らないように、全方向に注意を払う。右だって後ろだって上だって、絶対に相手の攻撃を食らうものかと短剣を振る。
全力疾走したように辿り着いた先は、炎に満ちた空間だった。ドロドロの溶岩が煮えたぎり、一本だけ道が続いていて、その先に剣が突き刺さっていた。
まさに持ち主が引き抜くことを待っている、伝説の剣のようだった。
「キイエエエエエエ!」
「!」
インプの群れのあとは、ドラゴン。先が見えない天井から、ドラゴンが飛んできた。それは大イノシシには及ばない小さなドラゴン。しかし、ドラゴンはドラゴンだ。
向かってきたドラゴンが、火を吹いた。急いでマントを盾にすれば、熱風を受けるだけですんだ。
流石精霊!
このマントがなければ黒焦げだった。
私は剣へと駆け出す。熱を感じながら、突き進む。またドラゴンが襲いくるけれど、前に飛び込んで避ける。ぐるっとでんぐり返ししても、すぐ立ち上がって剣の柄を掴んだ。
頭に響く、ノックスの声。
選ばれしものしか使えない剣。
私は口角を上げた。
ちんちくりんでも【聖なる乙女】である私以外に、選ばれしものがいるのか!?
その自信の元、引き抜いた。当然のように引き抜けた。呆気もなく、拍子もなく、仰天もなく、驚愕もなく、たた引き抜けた剣。私の身長の半分以上はある何の変哲も無い銀の剣。
掲げてポカンとしていたら、ドラゴンが旋回して再び襲いかかってきた。マントを盾に、剣で迎え討つ。
キィイイン!
ドラゴンと対峙した。真っ赤なドラゴンだ。どこもかしこもルビーのように燃えたぎった赤。ギラついた目も赤だ。それが、剣に向けられた。
ただの銀の剣が変わる。刃が燃えるような赤で縁取った。熱を感じる。これも火だ。火の剣。
ドラゴンは大きく翼を広げてバサッと離れた。まるで剣を恐れるように、大きく離れてそれっきり飛びかかってこなかった。
「ドラゴンも斬る剣だよ」
精霊の声がした。
ドラゴンさえも斬る剣。ドラゴンブレイド。
無事、手に入れた私の帰り道を阻むものは何もなかった。インプの魔晶を拾い集めながら、鷹揚と出口まで闊歩する。そして、帰りはマントに剣をくるませて、ルラで一飛び。
西の門から戻ってホリゾンの街へ戻った。その足でイミーさんの元で換金、レストランでソーマギルドと合流。
「ただいまー」
「おかえり! コヨイ。今日はどうだった?」
「絶好調!」
もう夕食を始めて酒を飲んでいるソーマがご機嫌に、私もご機嫌な笑みを返す。
「今日は何してたんだい?」
「うん、ちょっとねー」
「秘密じゃないの?」
「教えてあげちゃう」
機嫌がいい私は明かすことにした。今日の成果を。
「なになに」とソーマもギルドメンバーも注目する中、私はマントからそれを取り出す。
「ドラゴンブレイド、取ってきた!!」
トロフィーのように掲げて宣言した次の瞬間。
そこかしこで酒が吹き出され、辺り一面酒まみれになって大騒ぎとなってしまった。
小ゴブリンよりも少し強いインプの稼ぎは、数の多さのおかげで七万フェアほど。プラス、ドラゴンブレイドが本日の収穫だった。
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