婚約破棄された悪役令嬢は冒険者になろうかと。~指導担当は最強冒険者で学園のイケメン先輩だった件~

三月べに

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二章・多忙な学園の始まりは、恋人と。

64 仕留めた最高級お肉を。

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 一先ず、私も帰ってきたばかりなので、入浴を促された。
 あとは、前もって手配出来ることや対策について、お父様達が話して指示を出すのことだ。

「そういえば、映像の後ろにマンサスの花があったけれど、持ち帰っては来なかったの?」
「持ち帰ってきましたわ。ルクトさん、私の花好きを覚えててくださって、マンサスが満開の道の中を手を引いて歩いて、絶景の夕陽まで連れて行ってくれたのです。素敵な告白の思い出の品として、飾ろうかと。あと、可能なら砂糖漬けに」
「ロマンチックねぇ、ふふ」

 お母様が告白記念の映像で、マンサスの花を見逃さなかったので、確認してくれた。

 金木犀のように、甘やかな優しい香りを放ち、小さな花びらは、紫陽花のように集結したドーム型。色は、淡い色が様々。
 本当に素敵な光景の場所で、素晴らしい思い出として素敵な告白をしてくれたものだ。

 口元が緩む私に、お母様は優しげに見つめたあと、意味深にお父様に横目をやる。
 ぎくりとした風に身体を強張らせたお父様は、咳払いをして、マーカス達と話を始めた。

 今のやり取りはなんだろう……?


 不思議に思いつつも、私は入浴しに行く。

 二日ぶりに、ちゃんとしたお湯の張られたバスタブに浸かれた。
 冒険は大好きだけれど、この至福の時は恋しい。
 何より、汚れは落としたいものね。

 しかも、お嬢様なので、侍女とメイドがしっかりと髪も身体も洗ってくれる。マッサージ付き。

「あなた達がいてくれて嬉しいわ。いつもありがとう」と、お湯の中で頭皮と足裏マッサージを受けながら、ほっこりと言うと、何故か泣かれた。
 そんなに強行突破で遠出冒険の無断外泊をしたことを、怒っていたのかと思いきや。
「もったいないお言葉ですぅ~!」と、お礼に感激して泣いたのだとわかった。
 あ、うん……いつも、ありがとうね?


 部屋着用のドレスをまとい、現像の魔導道具の考案、もとい注文を送るべく、机についたのだけれど、留守中に届いていた手紙を見て、あちゃーと苦い顔をしてしまう。

 しまった。
 すっかり、冒険者活動にどっぷり身を浸かっている生活のせいで、こちらを忘れてしまっていたわ……。


 送り主は、マティアナ・シグレア伯爵令嬢。
 婚約者と明日会うから、立ち会ってほしい。そういう願いだった。

 彼女の婚約者は、乙女ゲーム『聖なる乙女の学園恋愛は甘い』の攻略対象の一人だ。
 ヒロインの攻略、軽く好感度を上げられて、見事に騙された一人、ハールク・デリンジャー侯爵子息。
 デリンジャー宰相の息子であり、彼は次期宰相の座を目指していた。
 表情筋が瀕死の無表情でも、顔は恐ろしく整っていて、頭がいいクーデレキャラ。


 今回の婚約破棄騒動で、私の罪の証拠を集めた張本人ではあるけれど、ヒロインもそれに加わって、巧みに誘導しされて捏造証拠を集めてしまった愚かな人。

 未熟にも自分の力を過信しすぎたあの愚かな人と、婚約関係にあるマティアナ。
 ヒロインと距離が近いと友人づてで聞いて、苦情を言えば、喧嘩となってしまい、それ以降まともに口を利かなくなったと相談を受けた。
 元々、感情的なマティアナは、全然感情を顔に出さないハールクに不満を持ってはいたが、優秀さはかなり認めたのだ。

 それが、オレ様王子とともに、ヒロインに陥落。
 そして、オレ様王子とともにヒロインに騙されていたと知り、失脚。

 私は未来の王妃予定だった身分だったので、貴族令嬢達の中心人物だった。
 マティアナとは親しい仲であり、今後の相談も受けていたし、私も捏造証拠を用意されたという被害を彼には受けているので、デリンジャー宰相も私には任せてくれる気でいるのだ。立ち会わないわけにはいかない。

 遅くなってしまったけれど、その立ち合いに行くことを書いて、手紙を送る。
 きっと返事が来なくて、不安だろうから、速達魔法便で送るように頼んだ。


 もう一人、ヒロインに陥落した攻略対象の婚約者からも手紙が届いていて、あちゃーっと額を押さえた。
 しかも、同じく明日に、婚約に関しての話をするとのことで、立ち合い要請。
 彼女は泣きじゃくるほどに正真正銘の傷心していたから、一番そばについてあげないといけないのよね……。

 ええっと……。マティアナのあとに、すぐに行けばいいかしら……。
 んんー。嫌で断りたいわけではないけれど…………私のルクトさんと会う時間、明日あるかしら……?

 夜に両親から許可をもぎ取った報告をしたあとに、ちょっとだけでも会いたいとお願いしよう。
 正式な答えではないけれど、前向きに認めてもらったのだから、ちゃんと会って話したいもの。


 一先ず、明日は、オレ様王子の側近二人の婚約関係の解決の手伝いという大きな予定が立った。

 これは、王子の婚約者だった私の後片付けだ。
 ……意趣返しも、含んでいるけれどね。


 手紙を何枚か返事を書いているうちに、食事の時間。


 食堂に行くと、ズラッとシェフ一同が勢揃いしていた。

「リガッティーお嬢様。この度は、希少かつ最高級素材を調理させていただき、誠にありがとうございました!」
「ええ、いいのよ」
「まさか、シェフとして生きて、こんなっ、こんな日が来るなんてっ……! 下級ドラゴンの肉で料理を作ることが出来るなどっ、ありがたき幸せ!」
「ええ、いいのよ……。存分に腕を振るって、私達みんなに美味しい下級ドラゴンの料理を食べさせてほしいわ」
「はい! 人生を懸けて、作り上げました!!」
「……そうなのね」

 熱い。物凄い熱風を感じる。
 感謝を伝えてくるシェフ一同は、本当に目に触れることすらないであろう下級ドラゴンのお肉提供に歓喜し感激したのだろう。

 ……代表で涙ぐみながら私と話すシェフ長の口元に、ソースが若干ついているように見えるけれど、指摘はしない方がいいわよね。
 もしかして、涙ぐんでいるのって、調理済みの料理を味見したあとの感激では? 美味しいものね……下級ドラゴンのお肉。

「あ、まだお肉があるのよ」
「なんと!? 渡されたものすら、まだ余っておりますのに」
「そうなの? 家のみんなが食べるには十分足りる量を渡したつもりだったのに……あっ。下級ドラゴンの舌もあるのよ。私は昨日、塩コショウやレモン汁で牛タンならぬ竜タンを食べたのだけれど、これもまた美味しかったのよ?」
「なななんとっ!」

 お肉ある、と言うなり、受け取る気満々に両手を出すシェフ長。

 まだ渡すとは言ってないのにね。

 ゴクリと生唾を呑み込むシェフ一同は、揃って両手を出す。

「あなた達が保存してくれた方がいいわよね。一緒に討伐した方と、なるべく新鮮さを保つように魔法を施して【収納】に詰め込んだのだけれど、それでもお肉が余るくらい、下級ドラゴンは大きくて」
「なんと! 本当にお嬢様が、討伐した下級ドラゴンのお肉なのですね……」
「ふふ。疑っていたの?」
「いえ! 滅相もない!」

 下級ドラゴンなんて、大抵はその場で食べるし、持ち帰って売っても、新鮮さは保てない。
 だから、せいぜい市場に出回るのは干し肉。市場で一番の最高級の干し肉、レア度高め。
 ……さらには、王都に届くほどの範囲にも、下級ドラゴンなんて出るわけがないのだ。今回が異常ケース。

「これは当主からの緘口令が出されたのだから、よそのシェフ仲間にまだ自慢をしては……大丈夫?」

 ひょいひょいと【収納】していたお肉をどんどん渡していたら、またもや涙ぐんでいるシェフ一同。

「冒険者活動を……力尽くで止めようとして、申し訳ございませんっ」
「「「申し訳ございませんっ!」」」
「い、いえ。あれは私を心配してのことでしょ? 私の方こそ、謝りたいわ」
「うぐっ……! 朝食に、眠り薬を盛って、すみませんっ!」
「あ、やっぱり、眠り薬だったのね。こちらこそ、自分達の料理に薬を盛らせてしまってごめんなさいね? 一流のシェフなのに」
「「「お嬢様ぁーっ!!」」」

 あ、うん、ごめんね?
 最高級お肉を腕一杯に大事に抱えているシェフ一同が、涙を滂沱している。

「……何をしているのですか、お嬢様」
「お肉を、渡しているだけよ……?」

 頬に右手を添えて、困ったと小首を傾げる私に、リィヨンが遠い目をしながら、シェフ一同を見下ろした。
 お肉を渡しているだけで、こうなるのはおかしいけれども……。

「ああ、そうでした。ご当主から、我々補佐官も食卓に着いていいと許可をいただきましたので、最高級お肉をご一緒に堪能させていただきますね」
「あら、いいわね。これからたくさん働いてもらうから、その前の報酬というわけで堪能してちょうだい」
「はい。いただいて、より精進いたします」

「え”っ、えっと…………はい」

 シェフにもリィヨン達が食卓に着くということを伝えて、人数分の料理の手配を頼む。
 ファン魂による忠誠を誓っていた一家だと発覚したので、口にしてみれば、気まずげに顔を背けた。


「……ちなみに、ルクトさんが心配するように、本当に恋敵には」
「なりません!! 我が家は、忠誠を誓い続けたファマス侯爵家の方に、ガチ恋は禁忌としています!!」
……」

 徹底した礼儀正しいファンか……。
 家訓は、ガチ恋は禁忌? やっぱり、オタク用語すごいわね?

「まぁ、観賞ぐらい、別にいいけれどね。今まで気付かなかったもの」
「ご理解、感謝します……」

 ホッと胸を撫で下ろすリィヨンと食卓になるテーブルを挟むように立って、手配をメイド達に指示。

 お父様とお母様が上座に並んで座るから、お父様側に、リィヨンとマーカスかしらね。
 お母様側に、私とネテイトとスゥヨン。


 美しく着飾る貴族令嬢。ゆくゆくは王妃予定だったのだし、注目を浴びるのは必然。
 だから見られることなんて、慣れっこだ。

「部屋に【映像記録玉】を並べていたり、私の絵を壁中に貼るようなほど、飾り付けていなければ、害とはみなさないわ」
「…………」
「リィ~ヨ~ン?」

 盗撮多数の犯罪ストーカー級に、狂気を感じる部屋になってなければいいと思ったのに、リィヨンが顔を伏せた。
 私はリィヨンの部屋を確認すべき? 確認したくないけれど?

「義姉上(あねうえ)、すみませんっ!」
「何? ネテイト」

 そこに慌ただしい様子でネテイトが食堂に入ってきたので、そのままリィヨンの部屋事情を忘れた。

「光魔法の件、お父様達に伝えそびれていると、今さっき気付き……す、すみません」
「……私も忘れていたわ」
「義姉上っ! あなたが言い出したこと!」
「ごめんなさいって」

 あらまあ、とあんぐり開けてしまう口を、片手で隠しておく。
 伝えそびれたことにネテイトが落ち込んでいたけれど、私も同じだったので、ネテイトがお怒り気味に私を責めた。ごめんて。

 例のヒロイン。
 ジュリエット・エトセト。子爵令嬢は、強い光魔法の使い手だ。
 悪役令嬢が闇魔法を使うなら、ヒロインは光魔法を使うのが、定石な設定。


「食事しながら、話を聞こう。下級ドラゴンの料理だから、冷める前に堪能したいんだが」
「はい。構いませんわ」

 お父様達も、食堂に入ってきた。
 食事を不味くしないなら、食べながら聞いてもいい。

 着席して、すぐに出来上がった料理が並ぶ。
 見た目、牛肉ステーキ。高級料理らしく白いお皿に食べやすい薄さのお肉に、甘いソースがかけられている。

 シェフ長が「お嬢様から牛肉に近い扱いの調理がいいと助言をいただいたので」と説明をしてもらいながら、ナイフを入れて、食べ始めた。
 その極上の美味しさに、一同が身悶えることを堪えるのは、すぐだ。

「流石だわ……。やはり、一流料理人の手にかかれば、格別」

 昨日の外での簡単調理による食事すら、舌鼓をしたのだから、想像した通りの極上料理に仕上げてくれた。

 そうだろうそうだろう、とほっこり顔で頷くシェフ長。

 時間をかけて手がけたであろう高級ソースと、柔らかくとろけるように焼き上げた下級ドラゴンのお肉。最高。

「いや……本当に、素晴らしいな……なんという美味な肉。下級ドラゴンの肉が美味いだなど、おとぎ話の類とまで思っていたぞ」

 美味しさのあまりに身悶えてしまうから、プルプルと震えてしまうことを堪えながらも、お父様がなんとか感想を口にする。
 隣でお母様は、感嘆の息をついては、小さく切り取っては、上品に食べ続けた。零す微笑が幸せそうだ。

「しかも、巨大な下級ドラゴンだそうで……どうやって倒したのですか? お嬢様」

 にんまりと口元をゆるゆるに緩めたリィヨンが尋ねた。
 隣のマーカスと夢心地の様子。うっとり顔。

「食事中に聞きたいの?」
「狩りの獲物をどう仕留めたか、食べながら自慢するのは、また格別だぞ」
「そういうものですか?」

 ニッコニコなお父様まで話すように促すから、話そうか。

「下級ドラゴンにも、様々な大きさがいるように、属性も別々だということはご存知ですよね。先ずは私とルクトさんで、弱点である属性を突き止めるべく、魔法攻撃を始めましたわ」
「あぁ……弱点の属性でも見抜かないと、下級ドラゴンに効果的な攻撃が通用しないんだったか」
「鱗にも覆われてますしね。でも……映像記録には、風穴、空いてませんでした?」

 ネテイトのあとに、スゥヨンが首を捻った。

「鱗の方はなんとか水魔法による氷柱の攻撃で剥がしてから、肉を削ったのですが……経験豊富なルクトさん曰く、イマイチなダメージだと仰ったので、水属性はハズレでした。下級ドラゴンは魔力で身体強化により、肉の方を硬くして防御を高めていたのです。こんなお肉になるだなんて、信じられないくらいの硬さでしたわ」

 抉った肉。
 一同でフォークを刺したステーキに注目。

「あの巨体で大暴れするので、それを避けながらの攻撃を続けました。水属性の次は、ルクトさんが得意属性とする火属性を、武器召喚の剣で首を狙いましたが、それもまたイマイチという判断でした」
「ぶ、武器召喚…………そんな攻撃ですら、イマイチとは……」

 マーカスが夢心地から覚めて、ギョッとした。

 武器召喚。武器に魔法を込めて仕上げた、必殺技級の魔法だ。【収納】に似た出し入れによる召喚だから、武器召喚。
 かなりの高度な魔法の使い手でなければ、備えられない技なので、強力は当然。

「ええ。ちょっと火傷の切り傷がついた程度って感じだったわ。逃がさまいと、私もルクトさんも、出し惜しみしないで、全力でしたの」
「それほどの強敵だったというわけか……」

 ルクトさんの強さも散々聞いていたので、お父様達には、いかに下級ドラゴンが手強かったかを想像がついたようだ。

「次は、私が土属性を。壁を上がりながら、避けていた私に頭突きをするので、狙いを定めて逆に顔にぶつけてやりましたが……一番、イマイチなダメージでしたわ」
「お嬢様は、確か……火属性以外は得意だと仰っていましたよね?」
「そうよ。光が使えなくて、火が弱くて、土が普通で、闇と水と雷と風が得意だと自負しているわ」

 マーカスの確認に、私は微笑んで答える。

「ルクトさんが風をお見舞いしようとした時に、やっと下級ドラゴンが魔法を使ったので、属性がわかりましたわ」

 お父様に向かって、私は告げてから、また一口とステーキを食べて、おかわりをもらった。一枚の量が少ないので、おかわりもしたくなる。

「下級ドラゴンの影から、黒が飛んできて、闇だとわかったわけです」
「闇か! なんと!」
「えっ。じゃ、じゃあっ……弱点は」
「ええ。唯一の弱点は、光属性と言うことが発覚しましたわ」

 うんうん、と頷いて、新しいステーキにナイフを入れた。
 お父様もネテイトも、身を乗り出す。リィヨン達は仰天している。

「それは……苦戦を強いられたでしょう?」

 お母様が不安げに眉を下げた。
「はい。私もルクトさんも、闇属性持ちでしたからね」と、効果的なダメージを与える光魔法は使えなかったと答えておく。

 闇属性と光属性は、希少。さらに言えば、光属性の方が、希少なのだ。
 そして、その二つの属性を持つ者など、いない。

「咄嗟に闇だと叫んで、私は私の闇魔法で相殺したのですが、ルクトさんは浴びてしまって視界を黒くされたのです」
「え”っ、え”ぇー……」
「ルクトさんも、闇属性の下級ドラゴンは初めてだったの。私が攻撃を避けられる場所に誘導出来たので、彼にかかった闇魔法が切れるまで、私が食い止めてましたわ」
「お、お嬢様ぁ」

 あの巨大な下級ドラゴンを一人で引き受けていたと知り、リィヨンがわななく。


「流石、相棒ね」

 お母様は、同格の冒険者の相棒を努められていることに、大いに満足げだ。褒められて、私も口元が緩む。

「いや……唯一の効果的な攻撃の光魔法が使えず、一人で避けながら戦うとは……」
「激戦でしたわ。もちろん、今までで一番の強敵でした。あ、そうでしたわ。私、土魔法のあとに、翼をぶつけられて壁に叩き付けられたのでした……初めて、戦いで攻撃を受けました」

 えぇー……。
 と、あの巨体の攻撃をぶつけられたことに、目を見開くお父様達は、私を凝視。

「魔力障壁でなんとか軽減はしました」と魔力による壁を間に挟んで、ダメージの軽減をしたと説明。


「まぁ、光魔法が効果的な攻撃手段とわかったので、あとは他の属性の魔法をぶつけ続けて、仕留めればいいというだけの話です」
「「流石、我が娘」」


 うん、と誇らしげに頷く両親。
 普通、巨大な下級ドラゴン相手に、二人だけでフルボッコ作戦を決めるなんて、おっかなびっくりと思うと思うのだけれど。

 ネテイト達がそんな顔だというのに、両親は私を本当にどう思っているのやら……。

「風もイマイチで、あと雷をぶつけようとしたところで、ルクトさんが立ち直ったので、水属性の武器召喚の剣で攻撃を最初に削った傷にぶつけてもらって、私が大技の雷魔法をぶつけました」
「水属性の武器召喚もお持ちで!?」
「はい。しかも、三連打をしてくれましたわ。先ず、水の斬撃、そしてそのまま直撃による魔法攻撃で切り込み、もう片方の通常の剣に水魔法の付与で爆撃」

「「「?」」」



 補佐三人が口を揃えたので、一応訂正させてもらう。

 彼は、規格外最強冒険者です。


 その後も、ルクトさんの素晴らしい強さと攻撃、下級ドラゴンの獰猛さと暴れっぷりを語った。


 食事は、ステーキの次には、スープ。ほろほろの肉が滲みたスープは、真っ先に仕込んだ料理だと、シェフ長が説明した。

 ニコニコした私から下級ドラゴンとの戦闘を聞いたお父様達には、しっかりルクトさんの強さも改めて知ってもらえただろう。話だけでも圧巻だものねぇ。

 私も心置きなく語ることが出来て、満足。


「闇属性の下級ドラゴンに、闇魔法って……義姉上も、規格外に最強すぎる……」
「強力な闇魔法の使い手として、負けていられないわ」
「下級ドラゴン相手に張り合う?」

 ふんっと息を撒く私に、ネテイトはげんなり顔になったが、ハッと我に返る。

「そ、そうでした。光魔法の調べ物についての話をするのでしたっ」
「そうだったわ……。お父様達は、婚約破棄騒動の件、詳しく聞きまして?」
「……それ、食事中にすべきかしら? 浮気がどうのなんて、不味くなるわ」

 ネテイトのあとに思い出して、話そうとしたけれど、浮気を聞いているお母様はお怒りオーラを放つ。
 娘の婚約者が浮気をしていたなんて話。食事しながら聞きたくはないだろう。

「えっと、では……簡潔に。解決後に、一応、二人きりで話したいと思って、闇魔法を使って投獄塔の部屋に軟禁された彼女と接触して話しましたの。……物凄く、話が通じない、コホン、失礼。どうしても、自分が王子様と結婚をして幸せになるという、物語のヒロインだと言い張り、そうであるべきだと喚くので……現実は死刑になって終わりだと強く言ったら、光魔法で掻き消されてしまったのですわ」
「……なんなの? に、殿下達はどうして誑かされたの?」
「頭の使いどころは、悪賢さに全て使ってしまわれたようですわ」

 えっ。と青ざめた顔のお母様が、はっきりと頭のイカれた令嬢と言ってしまったわ……。
 毒を吐く私とお母様に、男性陣は息を潜めるように黙ってスープを堪能する。

「その光魔法で消されたのは仕方ありません。闇魔法は光魔法に極端に弱いですから。でも、その闇魔法を消されて、ダメージを受けるような光魔法は今までなかったのですよ」
「何?」

 反応したお父様の眉が上がった。

「【影映し】という闇魔法は、他者の影に魔法を仕込み、発動させることで自分の姿を出現させて、意志の疎通をするような魔法です。術者の姿には触れられませんし、影から出た姿では誰のことも傷付けられません。それを消した光魔法に、頭痛を受けて、その後、気持ち悪さが残りましたが……その気持ち悪さが、神殿で感じた体調不良と一致していると思いまして、不安になり、ネテイト達に調べてもらうことにしたのですわ」
「神殿だって?」
「確かに、あなたは闇魔法の使い手だからか、光魔法が満ちた神殿にいると体調不良を感じるとは聞いていたけれど……妙ね?」
「ああ、妙だ。不可解だな……」

 お母様もお父様も、険しそうに顔を歪ませる。

 この中では、闇魔法の使い手は私だけなのだ。
 でも、光魔法の使い手が集い、使われる神殿では、闇魔法の使い手は少し影響を受ける話は常識的。

「テオ殿下も居合わせたので、王城大図書室だけではなく、王室特別図書室でも調べさせてもらいました。あの話の通じないご令嬢は、次会えば、私に直接攻撃しかねない様子でしたので、闇魔法の使い手に強いダメージを与えるような光魔法があるなら、対策を……と思った次第です。あとからいらした大叔父様、先代王弟殿下のディベット様にも、話を聞いてもらったら直接神殿にある資料などで調べてみることを提案してもらったのですわ」
「テオ殿下と僕で神殿に掛け合ったところ、一日一時間だけは、記録保管室にある過去の記録を閲覧する許可をいただきました。テオ殿下の手の者には、一番貴重な書物に触れる許可をいただけたそうで、手分けして調べている最中です」
「大叔父様は、私の身を考慮して、彼女の裁判の場に参加させないように口添えをしてくれるそうですが、やはりそれ相応の理由がいるので、調べてもらっていただけてます」

 留守中にも、ネテイト達は調べるために、神殿に許可は得たのか。
 一日一時間。それは保管を厳重にしているからだろう。

「神殿で光魔法なら、必然と聖女に関するから、厳重でしょう?」

 お母様の言う通りだと、ネテイトとスゥヨンがやや嫌々そうな顔で頷いて見せた。


 この世界の始まりは、1000年ほど前だと歴史が残っている。
 創造主は、女神キュアフローラ様。万人を愛して、癒す女神。
 そんな女神が、光属性持ちの少女に強い力を与えて、万人を癒す聖女として、地上を託した伝承がある。

 800年の歴史のあるハルヴェアル王国では、聖女として名が遺されているのは、三人。

 強い光魔法の使い手だからこそ、調べる価値がある三人。

 だけれど、このハルヴェアル王国は、少々、女神キュアフローラ様への信仰が強すぎる傾向にある。
 神殿なんて、過激気味な崇拝者が集う場所とまで思えてしまう。

 光魔法を込めた治癒の薬、『ポーション』ですら、もう神聖なものとして丁重に扱われる。誰が、その光魔法を込めたとしても。
 相当の理由を持っていないと、購入際にはジト目を向けられるくらいには、神殿で『ポーション』購入は抵抗を覚えて、魔法薬店で並ぶ物を買う方がいいのだ。

 よって、聖女への私物すら、崇められていそうなほど想像が浮かぶ。

「ふむ……裁判か。魔法封じの拘束具が、国宝にあるが、そんな令嬢には使われまい」
「もちろんですわ。王族殺害未遂の容疑はありますが、実行犯ではないですし、実行犯ですら、そんな国宝は使われません」

 お父様が口に出したのは、国宝として保管されている究極の魔導道具。
 重々しい拘束具により、魔法発動はおろか、魔力操作も出来ないと言う、完全に魔法を封じる。似たような物を作れないまま、国宝としてたった一つ、保管されている代物を、あんな小娘に使うはずがない。苦笑いをしてしまった。

「主犯は明らかで、あとは証拠を揃えるなら、何もリガッティーを立ち会わせなくてもいいんじゃなくて? 私達からも、リガッティーの立ち会いは取りやめてもらいましょう? こちらで頼みましょう」
「攻めますね、お母様」
「優勢な時に攻めなくてどうするの?」

 またもや、王室に頼むか……。
 仕留める気なら、そうすべきかもしれませんけれども……。

 お父様がしぶい顔をしたけれど「そうしよう」と頷くと、引き続き、ネテイト達にもそれ相応の理由の提示として、私に害ある魔法を使われる可能性の証拠を見付けるように指示した。

「あ。明日ですが、お父様達が王城に向かわれている間、私は友人の元に行かせていただきますわ。ハールク様とケーヴィン様の婚約者のお二人に、相談を受けていまして……彼らのお父様方にも頼まれておりますし、立ち会うことになっていますの。婚約関係についての話し合いに」
「デリンジャー宰相と王室騎士団長にか? なんでまたお前に」
「リガッティーの立場を考えれば、当然だわ、あなた。リガッティー、やっておしまい」
「お母様、攻めすぎでは?」

 攻めすぎと言うか、攻撃的すぎるわ。そのつもりだけども。
 菫の花のような可憐さは、いずこですの?

「義姉上……テオ殿下も心配なさっていた通り、抱えすぎでは? あの方々の婚約まで面倒見るなんて……」
「あら、ネテイトったら。友人を助けるのは当然でしょう? そうでなくても、元から相談の約束をしていたし、今後も縁を結ぶべきご令嬢達よ。人脈作りだって、手を抜いてはいけないわ」
「そうよ、ネテイト」

 眉をひそめるネテイトに、あくまで友人であるご令嬢の面倒を見るだけだと言い放つ。
 今後のためにも、人脈は大切にしないと。

 そう言ってから気付くけれど、学業と新事業と社交も加わると、多忙すぎるな、と目が点になった。

 しかし、私のミッションは、妥協が許されない。
 言ったが最後。言質をとられたも同然。……手を抜けない……。

 下級ドラゴンのほろほろお肉、美味しいわぁ……。


 
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