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徐州の場合

だから簡単に功績を得られるといっただろ

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 こちらに気が付いた賊兵は、獲物を発見した猛獣のような目つきで俺を見据えた。やばいやばいやばいやばい。

「―――」

 声も上げられない。馬はどんどん速度を上げて敵へ突っ込む。

 俺は頭が真っ白になった。全部の髪の毛が白むかと思うほどのストレスを感じた。

 茫然自失のまま敵中へ突っ込む。猛る馬が賊を踏み殺すが、俺はただ手綱を全力で握りしめることしかできなかった。白刃が、憎らしいほどの晴天のもとにキラキラと輝く。
 何故かそんな光景だけが俺の目に飛び込んできた。ああ、帰りたい。なにも転生前にとは言わない、東海の実家に帰らせてくれ……。

 兵士たちは猛然と敵中へ突進する糜芳を見て奮い立つ。俺はというと、馬にしがみついて振り落とされないようにするのが精いっぱいだ。

「糜芳様に続けーっ!」

「後れを取るな!」

 俺の苦労をよそ士気がどんどん上がっていく。……意識を手放せたらどんなに楽だろう。

 遥か後方から怒号が響く。

「糜芳殿、よく戦い申した! あとはこの朱治にお任せあれ」

 馬上で槍をしごいて駆け馳せる朱治はさっきの老練な様子とは程遠く、羅刹の形相だった。
 朱治さんこええよ。敵兵より怖えよ。おかげでさっきまでの震えが消えちまった。

 結局朱治さん軍の猛攻のおかげで賊軍は蜘蛛の子を散らすように逃亡していった。
 帰ってからは陶謙に気持ち悪いほど褒められるし、兄上には鬱陶しいほど感心するし、さんざんだ。……嬉しくなんかねぇからな!
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