靴磨きの聖女アリア

さとう

文字の大きさ
19 / 23

温室の先輩

しおりを挟む
 メイリアスがどんなに睨もうと、治した結果は変わらない。
 クロードの怪我はまだ治っていないみたいだし、治してあげようか少し悩む……でも、ようやく傷が塞がり、血も止まったようだ。
 
「クロード様。治りました」
「あ、ああ……感謝する」

 なんとなく医務室が微妙な空気になる……正直、さっさと帰りたい。
 私は、先生に聞いてみた。

「あの、先生……次は、何をすれば」
「え、ええと……とりあえず、今日はここまで。メイリアスさん、アリアさん、教室へ戻りましょう」
「はい」
「……はい。ではクロード様、また」

 メイリアスは部屋を出た。
 私も、クロード……殿下に向けて頭を下げる。

「待て」
「……何か」
「…………キミは」
「え?」

 クロードは、私に顔を近づける。
 なになになに。近い、近いんだけど!!

「あ、あの」
「……どこかで、会ったことはないか?」
「え……」
「キミのことを、どこかで見た気がする」
「クロ「アリアさん、何をしてるんですか?」……あ」
「……すまない、引き留めて悪かった」
「い、いえ……失礼します」

 医務室を出ると、メイリアスがいた。
 教師を先に行かせ、私のことを待っていたようだ……ヤな予感しかない。

「調子に乗らないことね」
「はい?」
「あなた、何様? 自分のが優れた魔法使いだとでも言いたいの? あんな見せつけるように魔法を使って……あなたもしかして、クロード様の婚約者の地位を狙っているのかしら? メイヤード子爵家だったかしら……あなた、実家がどうなってもいいの?」
「なっ……実家は関係ありません。私は、『治せ』と言われたから治しただけです」
「……警告は一度。いい? クロード様の前で、目立つような真似はしないこと。あなたの実家がどうなってもいいのなら、ね」
「……ッ」

 メイリアスはそれだけ言い、さっさと行ってしまった。
 私、何か悪いことした? ただ治しただけなのに……貴族ってホント、めんどくさい!!

 ◇◇◇◇◇◇

 教室に戻ると、授業を終えたクラスメイトたちが戻っていた。
 私の席には、ロクサスとケイムスがいてお喋りしている。
 無言で席につくと、ケイムスが言った。

「なんだ、ご機嫌斜めだな。嫌がらせでもされたか?」
「……別に」
「マジでどうした?」
「……別に」

 イライラする。
 ってか、婚約者の地位とかいらないし。そりゃ、クロードとお喋りしたい気持ちはあるけど、婚約者とか狙ってないし……ってか、王族なんでしょ? そんなの絶対イヤ。私は領地で果樹園とか畑を耕して暮らしたいんだから。
 この日、私はイライラしっぱなし。マジでもうイヤ。
 ケイムスたちとは帰らず、一人で校舎から出た。

「……散歩して帰ろ」

 私が向かったのは、校舎から少し離れた場所にある、小さな温室。
 意外に知られていない場所。私、こういう場所が好きで、学園の案内図で小さく載ってるの見つけて来てみたいと思ってたんだよね。
 温室はガラス張りになっており、薔薇がたくさん咲いていた。

「わぁ~……すっごく綺麗。薔薇がいっぱい。こんなにいっぱいあるなら、いくつか摘んでもバレないかも……ふふふ、学生ならではの悪事を……」
「悪事はダメですよ、お嬢さん」
「ふえっ!?」

 と、いきなり声をかけられ振り返ると……そこにいたのは、これまたイケメン。
 クロードと同じ金髪だが、こっちは長髪。軽く結っている。
 身長も高く、スタイルも抜群。やや垂れ目だが、雰囲気と相まって穏やかなイケメンだ。
 学園の制服に、右手には分厚い本を持っていた。
 が、私はすぐに頭を下げる。

「ご、ごめんなさい!! いや悪事なんてするつもりはなくて、ってか冗談で、そりゃ薔薇は綺麗だし欲しいと思ったけど。でも摘むつもりとかなくてですね」
「あははっ、大丈夫。冗談だからそんな怯えないで」
「す、スミマセン……」

 うう、すっごく恥ずかしい。
 男子をチラッと見る……上級生だ。制服の襟に『Ⅱ』のマークがある。
 
「あの、先輩……ですよね?」
「他にどう見える?」
「あ、あはは……では」
「待った」

 と、先輩は綺麗な白いバラを一輪、風魔法で斬った。
 棘や葉も風で落とし、その薔薇を私の髪にそっと刺す。

「プレゼント。綺麗な銀髪には、白いバラが合う」
「えっ……」
「キミ、話題の聖女二号だろ? 元庶民で、『靴磨きの聖女』」
「え……」

 それ、今朝レイラが言ったやつ……なんで知ってるの?

「噂ってのは、広まるのが早い。ま、オレは気にしないけど」
「…………」
「オレはさ、傲慢で高飛車に振舞い、決まってもいないクロードの婚約者面する女より……キミみたいな子の方が聖女に相応しいと思うよ」
「いや、聖女とかちょっと……私、さっさと卒業して領地に帰りたいので」
「え? 王族と結婚したくないの? 白属性の使い手で『聖女』なら選ばれるかも」
「いやいや、聖女とか王妃とか勘弁です。私、果樹園とか畑とか耕したいし。ほら、元平民なんで分相応といいますか」
「───……っぷ、ははは!! いや、面白いねアリアちゃん」
「あ、名前……」
「ああ、失礼。アリアちゃんって呼んでいい?」
「ど、どうぞ」

 ちょっと軽薄そうな上級生かも。
 ケイムスとかに似てる気もする。

「気に入ったよ。ああ、オレはカイセル。カイセル先輩でいいよ」
「ぷっ、自分で『先輩でいいよ』なんて言うの、ちょっと面白いです」
「そう? ああ、この温室は自由に出入りしていいからさ、また来てよ」
「なにそれ。まるでここ、先輩の温室みたいじゃないですか」
「……ぷ、あっはっは!! やっぱ面白いね、アリアちゃん」

 私は時間を忘れ、カイセル先輩とお喋りするのだった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。しかしその虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。  虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【この作品は、別名義で投稿していたものを加筆修正したものになります。ご了承ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

異世界育ちの侯爵令嬢と呪いをかけられた完璧王子

冬野月子
恋愛
突然日本から異世界に召喚されたリリヤ。 けれど実は、リリヤはこの世界で生まれた侯爵令嬢で、呪いをかけられ異世界(日本)へ飛ばされていたのだ。 魔力量も多く家柄の良いリリヤは王太子ラウリの婚約者候補となる。 「完璧王子」と呼ばれていたが、リリヤと同じく呪いのせいで魔力と片目の視力を失っていたラウリ。 彼との出会いの印象はあまり良いものではなかった。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...