靴磨きの聖女アリア

さとう

文字の大きさ
22 / 23

クロードとお話

しおりを挟む
 カイセル先輩の元から教室へ戻ろうとすると、息を切らしたクロードがちょうど、温室の前を通るところだった。

「ッ、メイヤード子爵令嬢!! 教室に戻らないと聞いて、どこへ行ったのかと思えば……」
「え……あ、はい」
「どこへ行ってたのだ!?」
「え、えっと……温室に」
「温室? ここは王族専用の温室だぞ。ここに何の用……まぁいい。さ、教室へ」
「あの、私を探してたんですか?」
「当然だろ……う? あれ、なんで……私は、キミをこんな必死に探していたんだ?」
「…………」

 いつだったかな。
 靴磨きをしていた頃。私はクロードを驚かせたくて、帰り支度中にちょっとだけ抜け出し、一人で飴屋さんに買い物に行った。
 その時、クロードは必死に……今みたいに、私を探してくれたっけ。
 クロードの今の顔、その時にそっくるだった。

「……と、とにかく、戻ろう。ああ……もう授業が始まっているな」
「……あの、殿下。サボっちゃいません?」
「え?」
「今から教室戻るのも目立っちゃうし、えーと……はいこれ」
「……これは?」

 私は、ポケットから飴玉を出し、クロードへ渡す。
 クロードはそれを受取り、クスっと笑った。

「全く、仕方ないな」
『全く、仕方ないな』

 その表情、言葉……私を見つけたクロードと、同じ。
 飴を渡すと、怒っていたクロードは困ったように笑い、許してくれた。

「……クロード」
「え? お、おい……アリア?」

 私は、涙を流していた。
 クロードも『アリア』って、無自覚に呼んでくれた。
 ああ、やっぱり……クロードなんだ。
 忘れているけど、記憶の底に私と過ごしたクロードがいるんだ。
 会いたい───……私は、涙を拭う。

「と、とにかく、どこかで休もう……さ、行こう」
「うん……」

 私とクロードは、並んで歩きだした。

 ◇◇◇◇◇

 温室から少し離れた東屋に、私とクロードは並んで座った。
 飴を舐めながら、のんびり空を見上げている。

「不思議だ」
「え?」
「きみと一緒にいると、懐かしい気持ちになる」
「……私も」
「メイヤード子爵令嬢」
「言いにくいでしょそれ。アリアでいいよ。私も、クロードって呼ぶから……いいよね?」
「……っぷ、ふふ、ああ、いいぞ」

 クロードは笑った。
 私、なれなれしいかなって思ったけど……そんなことなかったみたい。
 クロードは言う。

「婚約者の件、ちゃんと撤回するように伝えておこう」
「…………あのさ」
「ん?」
「それ、保留でいい?」
「……え?」

 ちょっとだけ、考えた。
 確かに私、王族とか興味ないし、学校卒業したら領地に戻ってのんびり過ごしたい。その気持ちはずっと変わっていない。
 でも、今は違う。クロードが私の知っているクロードに戻るなら……一緒にいたい、そう思う。
 好きとか、婚約者とか、そんな気持ちじゃないとは思う。でも……別の女の子がクロードの隣にいる、そう考えると少し、胸がチクチクした。

「クロードはさ、学園卒業したらどうするの?」
「……まだ考えていない。この国の第二王子としての責務を果たすように言われているが……私は兄に及ばないし、王になどなるつもりはない」
「じゃあさ、王様はカイセル先輩に任せて、クロードは私と一緒に田舎暮らしとかどう?」
「は?」

 クロードは「は?」と、ポカーンとしていた。
 
「カイセル先輩、って……ああ、温室に……そういうことか。この婚約の件、義兄が絡んでいるな?」

 頭の回転速いね。
 私は、カイセル先輩との出会いや、私の夢について話す。
 クロードは真面目に聞き、ふっと笑った。

「田舎暮らしか……それも悪くないな」
「でしょ!!」
「……だが、わからない。現に、私を次期王へと推す声もある。義兄は優秀だが、義母が私をスラム街へ捨てたという罪はあるからな。償いのつもりなのか、義兄は学園では劣等生を演じ、無能な第一王子と振る舞っているようだ。次期王に相応しくない、そう思わせたいのだろう」
「えぇ……」
「きみを婚約者に推したのも、強い力を持つ『聖女』の影響力と、有能と思われている第二王子と婚約させれば、互いに支え合いこの国を盛り立てていけると思ったからだろう。現に、父は反対しなかった。歴代王たちが聖女を妃に迎えると、その国は長く繁栄していくとまでいわれているからな」
「そ、そうなんだ……くっそ、カイセル先輩、押し付ける気満々じゃん……」
「……義兄は優秀だ。罪悪感など感じることなく、王の座を手に入れればいいものを」
「じゃ、押し付けよっか」
「……え?」
「私と、クロードの二人で、カイセル先輩に言うのよ。『王様になってくれ』って……ね、クロード。クロードは王様になりたくないんだよね?」
「あ、ああ」
「じゃ、解決ね」
「え」

 私は立ち上がり、飴を噛み砕いてニヤッと笑った。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。しかしその虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。  虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【この作品は、別名義で投稿していたものを加筆修正したものになります。ご了承ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

異世界育ちの侯爵令嬢と呪いをかけられた完璧王子

冬野月子
恋愛
突然日本から異世界に召喚されたリリヤ。 けれど実は、リリヤはこの世界で生まれた侯爵令嬢で、呪いをかけられ異世界(日本)へ飛ばされていたのだ。 魔力量も多く家柄の良いリリヤは王太子ラウリの婚約者候補となる。 「完璧王子」と呼ばれていたが、リリヤと同じく呪いのせいで魔力と片目の視力を失っていたラウリ。 彼との出会いの印象はあまり良いものではなかった。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です

美並ナナ
恋愛
類稀なる美貌を誇る子爵令嬢シェイラは、 社交界デビューとなる15歳のデビュタントで 公爵令息のギルバートに見初められ、 彼の婚約者となる。 下級貴族である子爵家の令嬢と 上級貴族の中でも位の高い公爵家との婚約は、 異例の玉の輿を将来約束された意味を持つ。 そんな多くの女性が羨む婚約から2年が経ったある日、 シェイラはギルバートが他の令嬢と 熱い抱擁と口づけを交わしている場面を目撃。 その場で婚約破棄を告げられる。 その美貌を翳らせて、悲しみに暮れるシェイラ。 だが、その心の内は歓喜に沸いていた。 身の丈に合った平穏な暮らしを望むシェイラは この婚約を破棄したいとずっと願っていたのだ。 ようやくこの時が来たと内心喜ぶシェイラだったが、 その時予想外の人物が現れる。 なぜか王太子フェリクスが颯爽と姿を現し、 後で揉めないように王族である自分が この婚約破棄の証人になると笑顔で宣言したのだ。 しかもその日以降、 フェリクスはなにかとシェイラに構ってくるように。 公爵子息以上に高貴な身分である王太子とは 絶対に関わり合いになりたくないシェイラは 策を打つことにして――? ※設定がゆるい部分もあると思いますので、気楽にお読み頂ければ幸いです。 ※本作品は、エブリスタ様・小説家になろう様でも掲載しています。

ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。 のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。 けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。 ※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。

処理中です...