勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

文字の大きさ
28 / 214

28・大罪神器【暴食】カドゥケウス・グラトニー

しおりを挟む
「喰い殺す……私を?」
「……」

 ライトは、左腕に力が満ちるのを感じた。
 ボコボコと脈動する腕は、自由自在に動かせる。そして、近くの岩に向けて手を伸ばすと、まるでゴムのように伸びた。
 そのまま岩を掴むと、クッキーのように岩が砕ける。

「装填」
『まっずい岩だねぇ……』

 岩を喰って弾丸に変換。そのまま引き金を引くと尖った岩の弾丸が発射される。
 だが、リリカは弾丸を容易く鬼太刀で受けた。

「ふぅ~ん、私に負けた負け犬ライトが、私に挑むのね?」
「俺に顔面を潰されたリリカ、今度はその顔、治らないくらいグッチャグチャにして殺してやるよ」
「うっっふふふ、こんな粒を飛ばすのがライトのギフトね……城で見た時は驚いたけど、冷静に見れば大したことないわ」
「そうやって油断してろ。まぁお前の死は変わらないけどな」

 すると、リリカはバカみたいに高笑いした。

「ねぇライト、魔刃王討伐の話、リンから聞いた?」
「…………」
「あのね、魔刃王には強い側近が何人かいたの。その1人……名前は忘れたけど、すっごい力持ちで、家一軒持ち上げちゃうような怪物がいたのよ。さて問題、そいつをどうやって倒したでしょう?」
「…………」

 ライトは沈黙……つまり、わからない。
 魔刃王討伐の話や、側近を撃破したという情報は伝わっていたが、細かい内容まではわからない。

「答え、私が倒しました……『鬼太刀』の真の能力を使ってね」

 そして、リンは鬼太刀を構えてニヤリと嗤った。



「震えろ────────夜叉鬼刃やしゃきじん



 すると、鬼太刀が巨大化し、リリカの姿も変わる。
 筋骨隆々になり、頭には二本の長いツノが生え、口には牙も生えた。
 鬼太刀は2メートルを越える大太刀になり、身長が2メートルを越えたリリカはその剣を軽々と掴み持ち上げる。

「鬼化……これが鬼太刀の真の力。ふふ、レイジの前でも見せたことないの。光栄に思いなさいな」
「…………ぶっさいくな姿だな。吐き気するわ」
「…………死の覚悟は出来たようね」

 ライトは、全く恐怖を感じていなかった。
 カドゥケウスを握ると恐怖が消えていく。まるで、勇気が流れているかのように。
 
「さぁ……死にやがれライトぉぉぉぉぉぉーーーっ!!」
「…………」

 ライトは、岩の弾丸を連射したが、鬼リリカの皮膚に傷一つ付けられなかった。
 迫り来るリリカの大太刀を躱すため、鬼リリカの動きをよく見る。

「……見える」

 リリカの動きがよく読めた。
 身体能力は変わっていないが、それも問題ない。

「カドゥケウス、『強化』だ」
『おう、任せろ』

 ライトは、自分の頭に銃口をくっつけ、そのまま引き金を引く。すると『強化』の弾丸が発射され、ライトの身体能力が強化された。

 母のギフトが、ライトの力になる。
 本来の使い方ではないし、単発のギフトはオリジナルの劣化版。身体能力の強化は劇的なものではないが、騎士として鍛えた下地があるライトの強化は、僅かな強化でも変わる。

「オォォォッ!!」 

 巨大化した鬼太刀を振るリリカの攻撃を、紙一重で躱す。
 最初は見えなかったが、今ではよく見えた。頭のモヤが晴れ、戦うことに集中できるからだろうか。

「このっ!!」
「見える」

 ライトは、巨大化したことで大振りになった瞬間を狙い、懐に潜り込んだ。そして、ガラ空きの腹にカドゥケウスを乱射する。

「ん······!?」
「痛い、うぅん······痒いわねぇ?」

 弾は、リリカの腹筋によって止められた。
 僅かな血が流れているが、貫通まではしていない。

「鬼をナメんなぁぁぁぁぁっ!!」
「チッ!!」

 ライトは素手で殴ろうとするリリカの拳をギリギリ躱し、距離を取る。
 
「おい、効かねーぞ」
『しょうがねぇだろ? あのブサイクなバケモンの防御力が、『石弾』の威力を上回ってんだ』
「じゃあ······『祝福弾』を使う」
『ケケケっ、戦い方をわかってきたじゃねえか、相棒』

 ライトはポケットにある祝福弾を取り出す。

「父さん、レグルス、ウィネ······力を貸してくれ」

 『重量変化』、『硬化』、『液状化』装填。

「ふふ、万策尽きた感じかしらぁ?」
「いや······お前を殺す算段が付いた。ケリをつけるぞ」
「いいわぁ······来なさいよ!!」

 醜悪な鬼のリリカは、鬼太刀を振り回しながらライトに迫る。
 対してライトはひどく落ち着き、リリカの太刀を眺めていた。

「······やっぱり、見える」

 今までは見えなかったが、よく見える。
 ライトは気付いていなかったが、ライトの右目は真紅に染まっていた。右目だけ異常なまでに視力が向上していたのである。

「オォォォウッ!! シャァァァッ!!」
「···········」

 そして、ライトを一刀両断しようと振り下ろされた鬼太刀をギリギリで回避し、鬼太刀に向けて発砲した。
 弾丸は鬼太刀を傷付けることなく、地面を大きく割る。

「バカが!! そんなちっぽけなモンでこの鬼太刀を傷付けることなんてできるかっ!!」

 そう言って、剣を持ち上げ────────。

「────────!?」

 リリカは、鬼太刀を持ち上げることができなかった。
 剣に当たった重量変化の弾丸により、鬼太刀の重量を変化させたのだ。

「重量変化、そして硬化」

 剣に気を取られたスキに、腹に一発弾丸をもらう。

「はっ、そんなの効か────────!?」

 リリカの身体が硬直して動かなかった。

「レグルスは、初めてギフトを発動させたとき、身体が硬直して二日ほど動けなかったらしい。こいつは劣化版だから二日とはいかないと思うけど······お前を殺すには十分だ」
「な、な、な······うご、か」
「まずは、腕をもらうか」

 ライトはリリカの利き腕に向けて発泡。すると、リリカの右腕が肩からドロリと溶けてなくなった。

「液状化。ああ、こいつはウィネのギフトだ。これで剣は握れない」
「う、うで!? 私の腕、腕ぇぇぇっ!?」
「黙れ糞溜が」

 ライトは、強化された拳でリリカの顔面をぶん殴る。硬化した顔は硬かったが、ライトの力でも傷付けることはできた。

「覚悟しろリリカ······テメェは生きたまま内臓引きずりだして殺るからな」
  
 リリカの顔が青くなった。

 ◇◇◇◇◇◇

 リリカは鬼化を解き、ライトを怒鳴る。

「わかってるの!? 私を殺したらレイジが黙ってないわ!! もう終わりよ!! あんたは指名手配されてる、逃げ場はない、勇者レイジを敵に回しぶっげぁ!?」
「やかましい口だなぁ·····少し、黙ろうか?」

 ライトはリリカの顎を力任せに開け(骨が外れた)、その口の中に全力で拳を叩き込む。
 リリカの歯は殆ど砕け、喋ることすらままならなくなる。

「はふぁ、ひふぇ!?」
「はぁ、はぁ······」

 ライトは、今までされた苦痛を思い出す。
 父と母、二人の親友が血に濡れた光景を思い出し、両手が震えた。
 涙を浮かべてライトを睨むリリカ。
 もう、我慢できなかった。

「り、リか······りぃぃぃリカァァァーーーーーっ!!!!」
「こっぶぇ!?」

 ライトは、リリカを全力で殴った。
 硬化の効力が切れ、リリカの顔面は再び陥没。鼻が千切れドロドロした血が流れた。
 
「お前が、お前が、お前が、お前がァァァーーーーーっ!!!」

 馬乗りになり、顔面を殴りまくる。
 最初はバタバタ暴れていたが、次第にビクビクと痙攣していた。
 それでも、ライトは止まらなかった。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ······」

 真っ赤に染まった両手を見て、ライトはようやく止まる。
 腫れ上がり、原型を留めない顔を見ても、全く気が晴れないのは何故だろうか。
 カドゥケウスを持って立ち上がり、銃口をリリカへ向けた。

『一つ言っておくぜ相棒。こいつのギフトは剣、オレが喰って弾丸にしても、相棒には使えない』
「冗談言うな、こんな糞屑喰うわけねぇだろ!! 殺して内臓引きずり出して魔獣の餌にしてやる!!」
『おーこわ······まぁ相棒は正義の味方ってわけじゃねぇし、好きにすればいいさ』

 痙攣するだけの醜い肉の塊に銃口を向け、ライトは言った。

「この世から失せろ、ゴミクズが」

 脳天目掛けて弾丸が発射され────────。





「雷刃!!」




 セエレの刃によって、弾丸はあっさり叩き落とされた。

 ◇◇◇◇◇◇

「まさか、ここまでやるとはな、ライト」
「セエレ·······ッッッッッッ!!!」

 怨嗟に満ちた瞳を向けると、セエレは息を吐く。

「ライトが私たちを憎む理由はよくわかる。でも、ここでリリカを死なせるわけにはいかない」
「安心しろ、お前も殺してやるからよ!!」
「······今はやめといた方がいい。疲弊したライトじゃ私に勝てない、それに今はリリカを治療しなくちゃいけないからここまで」
「んだと······っ!!」

 セエレは、バチバチと放電して土煙を巻き上げ、放電から逃れるためにライトは距離を取る。
 
「さよならライト。私たちを狙うのはいいけど、女神様の天罰に触れないようにね」

 土煙が晴れた場所には、何も残っていなかった。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

処理中です...