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32・まさかの戦闘

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 ワイファ王国は常夏の国。
 年中雪が降ってるフィヨルド王国と違い、年中太陽が燦々と照りつける王国だ。レグルスはリゾート王国なんて言って、いつかウィネと一緒に行くなんて言ってたけど……。

「…………」
「ライト、どうしたの?」
「ん……いや、俺やリンも一緒で、悪いなぁって思って」
「……?」

 俺の手には、『硬化』と『液状化』の祝福弾がある。
 レグルスのやつ、水着の女の子を見たいとか言って、ウィネを不機嫌にさせてたっけ……あのとき、俺までとばっちり受けて、ウィネのやつに叩かれて……。

『相棒、過去を振り返って甘い思い出に縋り付くな……弱くなるぜ』
「…………うるさい」

 祝福弾をポケットにしまい、ガタガタ揺れる馬車は進む。
 俺が何も言わずに祝福弾を見つめていたことで何かを察したのか、リンは何も言わなかった。
 
「ワイファ王国に着いたら、金を稼ぐか」
「……うん。先立つものは必要だしね。私も、レイジからもらった宝石、売っちゃうね」
「…………」
「ちょっと、レイジが憎いのはわかるけど、この宝石は旅の資金にするからね」
「わかってるよ……」

 『レイジがくれた宝石』という単語に反応してしまい、思わずリンを見てしまった。
 あのクソが触った物がこの場にある、それだけで不快だ。

「とにかく、町に着いたら換金して、私の装備を整えます! ライトのガンベルトに旅の道具で私の装備ほとんど買えなかったんだから、それくらいいいよね!」
「お、おう」

 リンの剣は、傭兵からもらった大量生産のどこにでもある剣だ。不純物が多い鉄で打った粗悪品で、切れ味も悪く使えない。それに、リン向きの剣ではないそうだ。
 ちょっと不思議だが、リンは楽しんでるように見えた。

「ほらライト、地図見て地図!」
「わかったわかった、わかりましたって」
『ケケケッ、相棒、尻に敷かれてやがる』
「やかましい、またぶん投げるぞこの野郎」

 ちょっとだけ……俺も楽しかった。

 ◇◇◇◇◇◇
 
 楽しいのも束の間、事件は起きた。

「……ん」
「……これ」
『おお、芳醇な死の香り……ケケケッ、相棒、食事の時間だぜ?』

 風に乗って香るのは、鉄のような生暖かい香り……血の香り。
 俺とリンは顔を見合わせ、馬車を走らせると、その先は……地獄絵図だった。

「な、ま、まさか……」
「こ、こんなところに……」

 俺とリンは、驚くしかなかった。
 ボロボロの兵士や騎士、むせ返るような血の匂い、ばら撒かれた臓物、ピクリとも動かない人間だった物体……ここは、戦場だった。
 これほどまでの暴力、人間とは思えない。そりゃそうだ……相手は人間じゃない。

「そこのお前ら、逃げろーーーっ!!」

 騎士の1人が、剣を構えたまま叫ぶ。
 ダメだ。馬が怯えて座り込んじまった。もう馬車は動かせない。

『相棒、食事の時間だぜ?』
「……ああ」
「こんな、酷い……許せない!!」

 馬車から降り、カドゥケウスを抜いて左腕の袖をまくり、リンは剣を抜き独特な構えを見せる。
 その魔獣は、こちらを向いた。

『グゥルルルルルルルルル……』

 どうやら、やる気満々のようだ……。
 俺は、小さく息を吐く。

「まさか、こんな場所にドラゴンとはね……」

 ◇◇◇◇◇◇

 ドラゴン。
 大きな翼に硬い鱗、恐るべき顎に牙、金属ですら引き裂く爪、そして口の中にある火炎袋から吐き出される炎のブレスは、あらゆる物を焼き尽くす。
 魔獣の中でも危険レベルは高く、もし領土内に出現すれば、王国が騎士団を派遣して討伐するレベルである。

 現に、ここで亡くなってる人たちはワイファ王国の兵士や騎士なのだろう。
 50人以上はいるだろうか、殆どが倒れ立っているのは10人もいない。

「リン、ドラゴンと戦った経験は?」
「あるというか、ないというか……遭遇したことは何度かあるけど、レイジが殆ど1人で倒してしまって……」
「……ッチ」

 勇者レイジ、胸糞悪いが実力は本物だ。
 
「でも、弱点なら知ってる。このタイプはお腹が柔らかいはず。ほら、鱗に覆われていない」
「……本当だ」

 外皮は金属並みの鱗に覆われているが、腹部は蛇のような腹だ。
 あそこを狙えばダメージを与えられるかも。

「もう逃げられない。覚悟はいいな」
「あのねライト、言っておくけど……私のがライトより強いんだからね!!」

 リンは、風のような速度で飛び出した。

『ギャァァァオォォォォォォーーーーンンン!!』
「アク・エッジ!!」

 翼を広げて威嚇するドラゴンを無視し、リンは水の刃で顔面を狙う。
 だが、ドラゴンは顔を傾けて額の鱗で水の刃を受けた。すると、水の刃はあっけなく砕けて消える。

「リズ・ニードル!!」

 水の刃は囮、リンはドラゴンの右側に移動すると、氷の針を地面から生み出し、ドラゴンの足を狙う。
 だが、氷の魔術でも傷一つ付かず、ドラゴンは避けようともしなかった。
 魔術もすごいが、驚くべきは……。

「リンのやつ、なんて体術だ……!!」

 リンの動きは、人間を遥かに超えた身体能力だった。
 ドラゴンを翻弄し、ドラゴンが顔を向ける先の反対側を常に位置取り、魔術の雨を降らせている。しかも、水属性の上位魔術である氷属性を、詠唱なしの連続で……。

『おい相棒、ボーッとしてんなよ。そこらにある死体を喰う絶好のチャンスだ。あのお嬢ちゃんが時間稼いでるうちに喰いまくって、祝福弾をジャンジャン作ろうぜ』
「…………」
『相棒?』
「ダメだ。この人たちは喰わない」
『はぁぁぁぁぁっ!?』

 この人たちは、王国の騎士だ。
 ここで死んでしまったのは無念だが、きっと帰りを待つ家族がいる。俺が喰ってしまえば何も残らない……ちゃんと、国に帰って家族に引き渡すべきだ。

『甘っちょろいボンクラだと思ったが、ここまでとはねぇ。復讐のために強くなるっつったのは相棒だぜ? 甘っちょろい倫理は捨てろ、強くなりたきゃ喰らえ!!』
「黙れカドゥケウス。俺はお前を利用するって決めたが、お前の言う事が全て正しいとは思っていない。いいか、お前は黙ってろ」
『……へーい』

 俺は左腕で落ちてる金属の鎧を掴んだ。

「装填」
『へいへい』

 鎧が消え、カドゥケウスに弾丸が装填される。
 リンが戦っている隙に、あのドラゴンの弱点を狙え。

『あー……相棒』
「……うるさい」
『あのよ、作戦があるんだけど……聞くか?』
「あぁ? お前が作戦だと?」
『おう。あの手のドラゴンは魔界でも見たことある。今の祝福弾と合わせて効率のいい倒し方を伝授してやるよ』
「…………」
『おいおい、そんな顔で見ないでくれよ。オレは相棒の力になりたいんだ』

 カドゥケウス、こいつも油断ならないな。

「わかった、聞かせろ」
『へへ、じゃあさっそく……』

 ◇◇◇◇◇◇

 ムカつくが、なかなか理に適った作戦だった。
 
『へへ、どーよ相棒』
「……よし、採用してやる」

 俺はどをら翻弄しているリンに向かって叫ぶ。

「リン!! こっち来い!!」
「わかった!! リズ・ウォール!!」

 氷の壁でドラゴンを包囲し、リンは俺の元に戻ってきた。
 残った騎士たちは……よし、怪我人を運んでるようだ。さすが騎士、無駄な加勢をせずに、自分たちのできることをしっかりとやってる。

「リン、作戦だ。これにはお前の力が必要だ、頼めるか?」
「もっちろん。ドラゴン退治なんてラノベの世界、楽しくてワクワクしてるんだから!!」
「お、おう。時間もないし説明する……」

 リンの放った氷柱が、ピシピシと亀裂が入っていく。
 説明を終えると、リンはニヤッと笑う。

「いいね、私の負担が大きいけど……あのドラゴンを倒すなら、それがいいかも」
「ああ。じゃあいくぞ」
「うん」

 俺は『強化』の祝福弾を装填し、リンに銃口を向ける。

「いいか、こいつは3分しか持たない。今から3分でドラゴンを倒す!!」
「オッケー!! やっちゃって!!」

 俺は、リンに向かって『強化』の祝福弾を放つ。
 リンに当たった弾丸は光となり、そのままリンの全身を包み込む。

「作戦開始!!」

 これより、ドラゴン討伐作戦を開始する!!
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