勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

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39・新しい祝福弾

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「ぶぺっ」

 そんな、間抜けな声が聞こえたと同時に、盗賊の1人が倒れた。

「ん? おいどうした、待ちきれなくて…………え」

 2人目の盗賊が、倒れた盗賊を見て……すぐに笑顔が消えた。
 なぜなら、倒れた盗賊は死んでいた。後頭部から額にかけて、何か小さなものが貫通したような跡があった。

「な、な、なにg」

 最後まで喋ることができず、2人目の盗賊は上半身と下半身が腰のあたりで切断され、上半身は宙を舞った。
 それが、風のような速度でリンが駆け抜け、一瞬の抜刀術で斬られたとは最後まで気付かなかっただろう。
 女性に跨る3人目は気付いていない。下卑た笑みを浮かべながら必死に腰を振っている。

「へへ、へへっ……おい、まだ生きてるか? なぁ!!」
「…………」

 腹部にナイフを刺し、事切れるまで事を行うという外道の所業に夢中の3人目。
 女性の眼は既に虚ろ、出血も酷く呼吸も止まりかけていた。

「はは、ははははっ! これだから殺しは止められねぇっ!! なぁおいお前ら!!」

 答えは返ってこない。
 ようやく、3人目は首だけを振り返り気が付いた。

「え?」

 脳味噌をぶちまけた死体、なぜか下半身だけの死体。
 そして、ゴミを見るような目で3人目を見る、2人の少年少女。
 少女は剣を3人目に向けた。

「待てリン、この森に住む盗賊ってことはアジトがあるはずだ」
「……」

 少女は無言で剣を降ろし、未だに事態が飲み込めない3人目はようやく腰の動きを止めた。

「な、なんだおま」
「許可なく喋ると殺す」
「ひっぶぇ!?」

 少年は、3人目の顔面を容赦なく殴りつけた。
 そのまま女性から引き剥がし、近くの木に向かって投げつける。
 少女は女性を抱き起し、顔を近づけた。

「大丈夫、もう大丈夫。怪我も治るから安心して……」
「…………」

 女性の眼からは涙がこぼれ……そのまま、動かなくなった。

「…………ごめんなさい」
「…………」

 少女は涙を流し、亡骸を静かに抱きしめる。
 少年は、後ずさりする3人目を睨みつけ、漆黒の左腕を伸ばして捕まえた。

「喋るのを許可する。お前たちのアジトに案内しろ」
「な、ば、ばかっぎゅぇぇっ!?」
「いいか、俺もリンも堪えるのに精一杯なんだ。まさか勇者レイジと同じくらいムカつくなんて思わなかった……案内すれば命だけは助けてやる」
「わわ、わかった、わかりましたぁぁっ!!」

 3人目は、少年のギョロついた右目に心底恐怖し、仲間を売る決断をした。

 ◇◇◇◇◇◇

 ライトは、盗賊が持っていたロープで3人目を縛り、リンに預けた。
 まず、やることがある。

「カドゥケウス、『祝福喰填ギフトリロード』だ」
『ケケケケケッ、待ってましたぁ!!』

 ライトは頭を撃ち抜いた盗賊を左腕で摑み、カドゥケウスに命令────────。

「ぎぃっっっッッッッっぐぁぁぁぁっっあがっがぁぁぁぁっ!?」

 猛烈な頭痛と全身が裂かれるような痛みに、その場で崩れ落ちた。
 誓約による苦痛が、ライトの全身を激しく蝕む。
 そして、ライトの手には一つの弾丸が現れた。

『美味かったけどよ、弾はハズレだな』

 弾には『双剣士』と漢字が刻まれている。
 その弾を手から落とし荒く息を吐いた。

「っくぉ、っくそ……刃物に関わる全て、か」
『そういうこった。死体を喰う気になったのはいいが、これからは気を付けないとな』
「っぐ……ちくしょう」

 ライトは、下半身だけとなった2人目の死体を見る。
 そして、ロープで結ばれ転がされてる3人目を蹴り、カドゥケウスを突き付けて質問した。

「こいつのギフトはなんだ、答えろ」
「っひ!? ええと、その、たしか『剣士』のギフトでっ」
「……ッチ。お前のギフトは」
「おおお、おれは『短剣士』のギフトで……っす」
「…………」

 ライトは落胆した。
 そもそも盗賊とは、戦闘系のギフトを持ったうだつの上がらない元冒険者や、騎士や傭兵を目指したはいいが挫折したような者ばかり。
 戦闘系ギフトは『戦士系』や『剣士系』のギフトが殆どだ。他にも『槍士』や『斧士』などのギフトもあるが、どれも刃物なのでライトには扱えない。
 弾丸を作ったはいいが、触れることも撃ち出すこともできない。

「質問だ。盗賊のアジトでレアなギフトを持つ奴はいるか?」
「れ、レアギフトなら3人いる。お頭と側近二人だ」
「どんなギフトだ?」
「え、ええと」

 ライトは盗賊から情報を集めた。
 その間、リンは女性の亡骸を清めていた。下にある男性の遺体と一緒に、必ず埋葬すると誓っていた。
 ライトは立ち上がり、3人目を無理やり立たせる。

「アジトに案内しろ。仲間を売ればお前だけは助けてやる」
「わ、わかった、わかりました……」
「リン、作戦がある。行くぞ」
「……ええ」

 ライトとリンは、3人目を連れてアジトへ向かった。

 ◇◇◇◇◇◇

 盗賊のアジトは、ライトたちがいる場所から獣道を上った数キロ先にある。
 素人が手作りしたようなあばら家には50人以上の盗賊たちがいて、酒盛りを楽しんでいた。
 盗賊たちは、この森に踏み込む商人や冒険者から略奪をしている。男は殺し、女は楽しんだ後に売り払う。
今回の戦利品は女が3人。内1人は馬車を見つけた褒美として部下3人に与え、残りの2人はアジトで楽しんだ。

 まだ幼い少女に盗賊の洗礼は無理だったのか、激しく暴れた。
  そして、幼い少女の爪が盗賊のボスの頬を軽く傷付けてしまい……ボスの逆鱗に触れた少女は、帰らぬ人となった。
 もう一人の少女に関しても似たようなもので、さんざん回されたあとに精神が壊れた。なので盗賊の慈悲としてその場で殺した。慈悲と言う割にはゲラゲラと下卑た笑いが混じっていたが。

 あとは、いつものように宴会で盛り上がる。
 家族だったのだろう一家は全滅し、荷物は全て奪われ、命まで奪われた。
 少女たち姉妹の亡骸はアジト近くのゴミ捨て場に捨てられ、盗賊たちは何事もなかったように楽しんでいる。

 これからも、盗賊たちは略奪し楽しむだろう。
 毎日楽しく命を弄び、酒を飲み、歌を歌う。そんな毎日が、ずっと続くと思っていた。
 だから、気付かなかった。





 盗賊のアジト上空に、『強化』したリンの魔術による氷塊が『重量変化』により重さを限界まで増し、『硬化』により鉄をも上回る硬さとなって落ちてくるなんて。





 ◇◇◇◇◇◇

 リン曰く『隕石の衝突』だった。
 冗談のように地面が揺れ、アジトから百メートル離れたライトたちですら揺れで身体がふら付いた。

「終わった?」
「……ああ、アジトは完全に潰れてる。中にいた奴らは全滅だろうな」
「できるなら直接斬りたかったけどね」
「頭に血は登ってるからこそ冷静にだ。このまま5分様子を見て、生存者が出てこなかったら行くぞ。リン、あの氷塊を消せるか?」
「大丈夫。問題ないよ」
「よし」
「あ、あ……お、おかしら」

 3人目は、冷静に語る2人の少年少女が、何のためらいもなくアジトを潰したことに心底恐怖していた。
 それから5分後、ライトたちはアジトへ。
 リンが氷塊を消すと、その下からは無数の死体や臓物が散乱していた。
 
「レアギフトの3人はどれだ」
「…………」
「あれと、あれと、あれだな?」
「…………」

 3人目は、生気を失った表情で指さした。
 ほんの数時間まで一緒にいた仲間たちの無残な姿。
 強かったお頭はぺしゃんこに潰れ、内臓が殆ど流れていた。他の者に関しても同じ、抵抗することもできずに圧死した。
 ライトは3人目を無視し、3人を左腕で喰う。

「カドゥケウス、頼む」
『ケケケケッ、芳醇な死の味……いただきまぁす』

 今度は痛みもなく、手には3発の弾丸が生まれた。
 弾丸にはそれぞれ『爆発エクスプロージョン』、『調理師クックマスター』、『浮遊レビテーション』と刻まれている。

「爆破に浮遊はいいとして、調理師ぃ? 戦闘じゃ使えないな」
『おいおい相棒、どんな物でも使い方次第だぜ?』
「じゃあよ、さっきの『双剣士』の弾丸も使い道あるのか? 捨ててちまったぞ」

 すると、リンがライトの元へ。

「ライト、あっちに子供の死体があったよ……」
「……そうか」
「……埋葬、しないとね」
「ああ……」

 3人目に、もう用はない。
 ライトは、最後に全力で3人目の顔面をぶん殴り気絶させ、少女2人の死体をアジトにあったシーツで包んで下山し、近くに4人を埋葬した。
 家族の手を繋ぎ、深く埋め、花を添え、ライトたちの荷物から酒瓶を出して備えた。
 ライトは右手を胸に当てて黙祷し、リンは両手を合わせて祈っていた。

「……どうか、安らかに」
「…………」

 埋葬が済んだライトたちは、馬車に乗り込み出発した。
 森を抜けるまで半日、2人はほとんど口を利かなかった。

 ◇◇◇◇◇◇





【現在の祝福弾】

《硬化》・親友レグルスのギフト。
《液状化》・親友ウィネのギフト。
《重量変化》・父のギフト。
《強化》・母のギフト。
《爆発》・盗賊ボスのギフト。NEW!
《浮遊》・盗賊のギフト。NEW!
《調理師》・盗賊のギフト。NEW!
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