勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

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第135話・第三相を探して……。

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 朝食を終え、ライトたち一行は第三相と思われる雪山を目指すことに。
 荷物を荷車に積み込み、先輩と後輩に馬具を取りつける。
 ライトの作業をリンは手伝い、二頭を優しく撫でた。

「吹雪が強くなったら影の中に入れてあげる。それまでは頑張ってね」
『ブルル』『ブルヒィィン』
「わかった、だってよ」
「あはは、ほんとにそう言ったのかも」

 二頭はたっぷり休んで元気だ。早く走りたくてウズウズしているようにも見える。
 マリアとシンクが荷物を積み終え、ライトの元へ。

「荷物を積み終えましたわ」
「お菓子、いっぱいある」
「よし。第三相を倒したら、次の国境へ向かおう。次はウェールズ王国……穏やかな気候が特徴の、春の王国だ」
「ようやく吹雪ともお別れですわね……」

 大罪神器【憤怒】の発見と、第二相、そしてこれから第三相の討伐に向かう。これで、このフィヨルド王国でやるべきことは大体終わっただろう。
 仲間を増やすことはできなかったが、所有者がわかれば問題ない。あとは第三相を倒し、祝福弾を作れれば言うことなしだ。

「ウェールズ王国は温暖な気候で、場所によっては泳げる場所とか、温泉とかもあるそうですわ。ふふふ、水着の準備はできてますわよ?」
「あのな、遊ぶわけじゃないぞ」
「わかってますわ。でも、息抜きも必要じゃなくて?」
「…………」
「ボク、遊んでみたい」
「ほら!」
「まぁまぁライト、少しくらいならいいんじゃない?」
「……わかったよ」

 どうやら、遊ぶことは確定しているようだ。
 マリアは、いつの間にか地図を持っている。どうやら冒険者ギルドから買ったものらしい。ウェールズ王国の情報が記されているようだ。

「ふむ、第三相の目撃情報があった雪山は、西の国境近くですわね……討伐したら、そのまま下山して野営、そして国境の町へ……といった感じですわね」
「雪山までは?」
「二日ほどの距離でしょう。街道も整備されていますし、岩場も多いので洞窟もあるはずですわ」
「よし。シンク、リン、出発するぞ」
「うん。わかった」
「はーい」

 ライトは御者席に座り、女子三人は荷車の中へ。
 馬車を走らせて町を抜け、雪山に向けて出発した。

 この時点では、まだ誰も気付いていなかった。

 ◇◇◇◇◇◇

 最初は天気がよかったが、徐々に吹雪いてきた。
 ホワイトアウトという言葉が相応しい勢いで吹雪き、馬のスピードも落ちていく。
 周囲も少しずつ暗くなってきたので、野営をする場所を探さなくてはいけない。
 すると、荷車の小窓が開き、リンが出てきた。

「大丈夫?」
「ああ。野営場所を探す。お前は中にいろ」

 コートに帽子にマフラーをしていても寒い。
 吹雪のせいで視界が悪く、数メートル先も見えない。荷車はこのままでもいいが、馬はさすがに厳しい。
 リンの影で移動しようにも道がわからない。最悪、影の中で一晩過ごさなくてはならない。

「……待てよ? 吹雪か……」

 ライトはポケットから『嘆きの氷姫ブランシュネージュ』の祝福弾を取りだし装填、思い付きだが試してみることにした。

「氷結、『嘆きの氷姫ブランシュネージュ』」
『はーいっ!』

 第二相クレッセンド幼女が現れた。
 薄いワンピースに素足、青い皮膚は凍傷にかかったようにしか見えない。だが、この幼女はれっきとした『八相』のうちの一体。
 吹雪が嬉しいのか、クルクル回って遊んでいた。

「おい、この吹雪をなんとかできるか?」
『んー、ぜんぶはむりだけど、ちょっとなら』
「じゃあ頼む。近くの岩場に避難したい」
『はーい!』

 クレッセンド幼女はライトの背中によじ登り、右手の人差し指をクルクル回す。すると、ライトを中心に半径10メートルほどが無風になった。

『どうどう?』
「すごいな……よし、そのまま頼む。岩場を探す」
『はーい。がんばったらご褒美ちょうだい』
「ご褒美?」
『うん。甘いの食べたいなぁ』
「……わかったよ。リンに言えばなにかくれるだろ」

 すると、周囲の様子の変化に驚いた女子が下りてきた。注目するのはもちろん、クレッセンド幼女である。

「ちょ、ライト、その子誰よ!?」
「どこか見覚えがありますわね……?」
「第二相の祝福弾を使った。こいつならある程度の吹雪は無効化できる。今のうちに、休める岩場を探すぞ」
『おねーちゃん。おやつちょーだい!』
「お、おやつ?」
「……まぁ、対価みたいなもんだ。頼む」
「う、うん」

 それから30分後、休めそうな洞窟を発見した。
 危険の有無を確認し、馬車ごと中へ。
 各自分担して野営の作業を開始。ライトはテントを立て、リンとマリアは夕食の支度、シンクは馬の世話を始めた。

「おいしい?」
『ブルル……』『ブルヒヒィン』

 シンクは馬にニンジンを食べさせ、丁寧にブラッシングをする。敵には容赦しないが、仲間や動物には優しい意外な一面だった。
 リンとマリアは夕食の支度。こちらも手慣れたもので、温かいスープと表面を焼いて肉と野菜を挟んだ簡単なサンドイッチを作った。
 
「夕飯できたよー」
「ああ、わかった」
「ごはん!」
「もう、焦らないでもちゃんとありますわ」

 四人で夕飯を終えると、ライトはさっさとテントに入って寝てしまう。
 その間、女子三人は身体を拭いたり着替えたりする。リンの水魔術のおかげで、どこでも身体を洗ったり髪を洗ったりできるようになったのは本当にありがたい。
 そして数時間。女子はお茶を飲みながら食休みをして、完全に夜が更けるとライトが起きてくる。
 時間にして夜の11時頃だろうか。見張りの交代である。

「あとは俺が見てるから、お前たちは寝ろ」
「ん、ありがとう」
「では、お言葉に甘えて」
「おやすみー……くぁ」

 女子は、野営なのに規則正しい睡眠をしていた。最初は夜間の見張りをすると言ったのだが、ライトは有無を言わさず先に寝てしまうのだ。ライトなりの不器用な気遣いだと知り、今は何も言わずに甘えている。
 深夜、この時間はライトとカドゥケウスの時間だ。
 だが、今夜は……というか、最近は違う。

『はぁ~……最近、美味いメシ喰ってねぇなぁ』
『あらあら、【暴食】のカドゥケウスが情けない……ライト、こいつに美味しい物食べさせないほうがいいわよ。ピーピーやかましいからね』
『そうですね。前々から感じていましたが、あなたは品がなさすぎる。同じ大罪神器として私の品格まで疑われてしまいます』
『おめーらやかましい!! なーにが品格だよ。そんなもんクソと一緒に流しちまえっての。オレらみてーな魔神がお上品にふるまってどーすんだっての。なぁ相棒』
「…………つーか、お前らうるさい」

 ライトの傍には、マリアの歪羽とシンクの爪の一部が置いてあった。ライトがヒマしないようにとマリアとシンクが気遣ったのだが、大罪神器たちのやかましさにライトはぐったりしている。

「はぁ……それにしても、第三相かぁ」

 ライトはポツリと呟き、洞窟の外を見た。
 
 やはり、まだ気付いていない─────。

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