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第137話・愛の女神リリティア

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 愛の女神リリティア。
 桃色の長い髪、薄いワンピース、背中に生えた天使の羽。
 見た目は人間だが、怖気のするような、とんでもない寒気を感じた一行。
 まさか、この場で女神と出会うとは……。
 リリティアは可愛らしく首を傾げ、右手の人差し指を顎に当てる。

「う~ん……君たちを倒すために勇者ちゃんたちに『力』を与えたんだけど、まさか君たちが直接、このわたしのところに来るなんてねぇ~……フリアエちゃんは何も言ってなかったなぁ?」
「フリアエ、だと……」

 ライトの顔色が変わる。
 この場で唯一、女神にリリティアに恐怖を抱いていなかった。
 復讐者としての顔が覗き、カドゥケウスをリリティアに突き付ける。
 リリティアは笑顔のまま頷いた。

「そうだよ! フリアエちゃんのお願いで勇者ちゃんたちに力を与えたの。今の勇者ちゃんたちは、今までとは次元の違う強さになっているよ!」
「…………だからどうした?」
「んー?」
「そんなことどうでもいい。あいつらは俺に『喰』われるんだからなぁぁ!!」
『あ、相棒……』

 ライトはカドゥケウスの引金を引き、リリティアに発砲した。
 リリティアは笑顔のままクスクス笑っている。

「あのね、聞いてなかった?」

 チュイン――――一瞬だけ、そんな音が聞こえた。

「わたし、女神なんだよ? 人間とは格の違う存在なの。勇者ちゃんたちに力を与えたわたしが―――勇者ちゃんたちより弱いわけないじゃん」
「ッ!!」

 カドゥケウスの弾丸は、リリティアの指二本で止められていた。
 ピースマークを作り、そこに6発の弾丸がギュルギュルと回転している。
 リリティアはつまらなそうに弾丸を捨てた。

「うん、決めた。見逃してあげる……わたしが手を出すより、勇者ちゃんたちと戦わせた方が面白そうだしね」
「……んだと」
「わかんない? 絶望的な戦力があるの。どう足掻いてもわたしには勝てない。女神が人間に負けるわけない。今のあなたじゃ、傷一つ付けられないよ」
「…………っは」

 ライトは、バカにしたように笑う。
 同世代の少女にしか見えない女神だ。勝てないなんて幻想……そう思い、仲間たちに目を向ける。

「……おい、お前ら」
「だ、ダメだよ、ライト……に、逃げよう」
「そ、そうですわ……か、勝てないですわ」
「……こ、こわい」

 リン、マリア、シンクは……震えていた。
 まともだからわかるのだ。実力があるからわかるのだ。
 目の前の女神リリティアの圧倒的な力が、戦力が、全てが。どう足掻いても勝てないという絶望を、全身で感じてしまってした。
 ライトだけが、動いていた。
 女神、それだけで戦う理由になる。

「お前ら、戦わないなら下がってろ」
「ら、ライト、まさか……」
「殺る。女神を逃がす理由がない。復讐に繋がるならここで殺す」

 左手の袖をまくり、銃口を頭に向ける。
 装填されている祝福弾は『硬化』と『強化』だ。身体能力を上昇させ、防御力も同時に上がっている。
 ライトは祝福弾を6発装填する。

『あ、相棒、悪い事は言わねぇ……引け』
「あ?」
『オレの力を完全に引き出せるならともかく、不完全なままで、しかも大罪神器が揃ってねぇ状態で女神と殺りあうのは無謀だ。ガチで死ぬぞ!!』
「腰抜け」
『…………あ?』
「お前、喰いたくねぇのかよ? 女神の肉だぜ?」
『…………』

 ゴクリ――――そんな擬音が聞こえた気がした。
 ライトは、不適な笑みを崩さない。

「カドゥケウス、喰おうぜ」
『……女神を喰っても祝福弾は作れねぇぞ』
「ふーん。でも、俺のやる気に繋がる」
『アホなのか?』
「お前はバカの腰抜けだけどな」
『…………』
「…………」

 答えは、決まった。
 ライトはカドゥケウスを女神リリティアに向ける。するとリリティアは首を傾げた。

「あれ、逃げないの? 女の子たちはオシッコ漏らしそうなくらい怯えてるのに」
「ああ。相棒がお前を喰いたいらしくてな。悪いけど挽肉になってくれ」
「……んー、挽肉はヤダなぁ。あのさぁ、逃がしてあげるって言ってるんだよ? わたしには勝てないって」
「関係ない。俺はお前を殺したい……なら、答えは一つだ」
「…………はぁ~、わかったよ。ちょっとだけ遊んであげる」

 女神リリティアは翼を広げた。
 ジュワッと周囲の雪が溶け、チリチリとした熱が広がっていく。

「愛ってね、すっごく熱いんだよ? それを教えてあげる」
「抜かせ。俺を燃やせると思うなよ、クソビッチが」

 こうして、戦いが始まった。
 絶望的なまでの戦力差がある、戦いにならない戦いが。
 女神リリティアと、大罪神器【暴食】のライト。
 勝ち目は、ゼロに等しい。

 でも、ゼロではない――――。
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