勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

文字の大きさ
139 / 214

第140話・涙声

しおりを挟む
 リリティアは、異空間に作った自分の家に帰ろうとした。
 女神は、基本的に万能だ。不完全な力しか出せない魔神と違い、大抵のことなら指を鳴らすだけで実現可能だ。
 帰ってお風呂に入ってデザートを食べて、一休みしてからフリアエに報告。その後はお昼寝でもしながら、のんびり日光浴でも……。

 そう、考えていた。
 翼を広げ、異空間の入口へ向かって飛び――――。

「え?」

 ガクンと、動きが止まった。
 能力による停止ではない。物理的な力で動きを止められた。
 リリティアは振り返ろうとして……。

「捕まえたぁ……」

 片目が真っ赤に光るライトと目が合った。
 ゾワリと、リリティアの背筋から冷たい汗が一筋流れ、ようやく自分を拘束している物の正体を知った。

「な、なにこれ。手……うわわっ?」

 それは、巨大な『漆黒の手』だった。
 ライトの左腕が伸び、手が肥大してリリティアの胴を掴んでいた。
 そのまま左手を伸縮させ、完全に油断しているリリティアを引き寄せる。そして、ライトはリリティアの背中に抱きついた。

「な、き、きったない!? 触んないで!!」
「離さなねぇ……っくく、くはははは、なぁ、まだ気付かねぇのか?」
「え?」

 リリティアの背中に抱きつき、右手を首に回し、片足をリリティアの脚に絡めていた。桃のような甘い香りがライトの鼻孔をくすぐるが、そんなことどうでもいいのか、凶悪な笑みを浮かべている。
 リリティアが本気になれば、ライトの拘束程度簡単に抜け出せる。
 そして、ライトは言った。

「上、見ろよ」
「え、っぽごもおっぼべぇげべべべべべべべっどぶぎゃばばばっ!?」

 リリティアが素直に上を見上げた瞬間、黒い紐のような物が口の中に侵入してきた。しかもそれは長い。さすがのリリティアも、肉体に異物が入る感覚は無視できない。苦しみ、嘔吐する。だが黒い紐は止まらない。
 涙を流すリリティアの耳に、ライトは囁く。



「第五階梯・『咀嚼する悪魔の左手ヴァイト・オブ・ディアボロス』……あらゆる形状に変化、巨大化、硬質化する万能の左手……食事のために調理器具であり、魔神カドゥケウスの『食器』だ」



 果たして、リリティアに聞こえただろうか。
 異物が、リリティアの腹に、内臓全体に行き渡っている。今まで感じたことのない『何か』に、リリティアは……リリティアは?

怖いか?・・・・
「っひ……」
「なぁ、教えてくれよ……」
「っあぁ……や、やだ」

 ぐりゅんぐりゅん、どぎゅんどぐん……。
 ライトの左腕が、リリティアの内臓を蹂躙する。
 そして……。

「女神リリティアの内臓って、どんな色をしてるのかなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「お゛ぉっおオ゛!? おぉぉぉオ゛オオ゛オぉぉっぼぼぼえげぇぶべべべべべっ!?」

 ライトはリリティアの腹の中で左腕を膨張させる。すると、リリティアの肉体が、腹が、パンパンに膨らんでいく。
 ライトはリリティアを蹴り飛ばし、全力で左腕を引き抜いた。

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「!!!?!?!?!?★pxqwjっdcjw**!!??」

 ぼちゅぼちゅちゅびちゅ、ぼちゅびちゅちゅッ!! と、気持ちの悪い音が響く。
 声にならない声を上げ、リリティアの顎が外れ、喉が裂け、ピンク色の臓物が口から引きずり出された。

 即死。即死。即死。生きているハズがない。
 ライトはリリティアの内臓を投げ捨て、ぺらっぺらの骨と皮になったリリティアを見下ろした。

「俺の勝ちだ」

 ◇◇◇◇◇◇

 マリアとシンクは気絶していたが、リンは全てを見ていた。
 傷の治ったライトが左腕を伸ばしたところ、女神リリティアを拘束し、内臓を引きずり出して殺したこと。

「…………ぁ」

 リンは、自分の下半身が生温かく濡れていることに気が付いた。
 ライトは、女神を殺した。
 マリアとシンクを治すことも忘れ、リンは女神リリティアの投げ捨てられた臓物を見て、吐き気を堪えられなかった。

「おっぶえぇぇっ!! うげぇっ!!」

 尿を漏らし、吐瀉物を撒き散らす。
 内臓を引きずり出し、女神を殺した少年。果たしてアレは、同い年の少年なのだろうか。リンは自分を保とうと、マリアとシンクの治療を始めた。

「女神を、殺した……殺した」

 震える手で、リンは二人を治療した。

 ◇◇◇◇◇◇

『イルククゥ……これ、マジなの?』
『現実でしょう。まさか……女神を殺すとは』
『ライト、あいつ……とんでもない奴ね。マジで全ての女神を殺せるんじゃない?』
『ええ。可能性はあります。くっくく、大罪神器を全て集め、全ての女神を滅ぼせる日は近い……!!』
『ほんっと、信じらんない……』

 イルククゥとシャルティナは、この結果に驚いていた。
 不完全なカドゥケウスで、最弱の部類であるとは言え、女神を殺した。
 これは、とんでもない快挙だった。

「っぅ……」
『おはようマリア。女神は死んだわよ』
「ん~」
『おはようございます。シンク』
「ん~……おはよう」
「女神が、死んだとは……? あ、リン」
「二人とも……」

 リンは二人の治療を終えた。傷一つない姿にホッとする。
 三人の視線はライトへ向き、立ち上がり傍へ。
 ライトは、ペラペラのゴミみたいなリリティアを見下ろしていた。

「よぉ、終わったぞ」
「お、お疲れさまですわ……ぅ」
「ぺらぺら。なにこれ?」
「女神。内蔵引きずり出して殺した」

 あっけらかんと言うライト。
 マリアは口を押さえ、シンクは平然としていた。リンは蒼くなり、リリティアの臓物を見ないようにしている。
 ライトの左腕が、リリティアを掴む。

「カドゥケウス、喰えよ。お待ちかねの女神肉だ」
『ああ……その、相棒』
「ん?」
『悪かったな、いろいろ……オレは相棒を舐めていた』
「別にいいよ。それより喰えよ。こんなおぞましいの掴みたくない」
『ああ――――いただきます』

 女神リリティアの死体は、カドゥケウスの左腕に吸い込まれていった。
 ついでに臓物も左腕に吸い取らせ、女神リリティアの存在はこの世から完全に消えた。女神を、喰ってしまった。

『――――――』

 カドゥケウスは、何も言わない。
 どうしたのかと声を書けようとして―――。



『――――うめぇ』



 ポツリと、言った。
 そして、カドゥケウスの声が泣き声のような、感極まるような声色になる。

『ああ――――旨い、美味い、うまい……こんなの、初めてだ』
「カドゥケウス……」

 ピシ、ピシ、ピシ。

「え……」
『ありがとう、ありがとう相棒――――オレ、魔神でよかった』

 ピシ、ピシシ、ピシ……。

「お、おい? カドゥケウス……お前、亀裂が」

 カドゥケウス本体の拳銃に、亀裂が入った。
 ピシピシと亀裂が入り、パーツがばらばらと落ちて……。

「え……うわっ!?」

 カドゥケウス本体が砕け散った。そして……ライトの右手には、全く新しい拳銃が握られていた。
 一回り大きくなった大型拳銃だった。銃口が二門あり、今までは6発装填だったシリンダーが12発装填になっている。
 カドゥケウスが、進化した。

「か、カドゥケウスが、変わった……」

 カドゥケウス・セカンド。
 ライトの新たな力の誕生だった。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...