勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

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第157話・ダンジョントラップ

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 食事を終えたライトたちは、これからどうするか話し合う。
 リンは、事前に水筒に入れておいた紅茶を『影』からカップと一緒に取り出し、全員に配る。食後のお茶はとても美味しい。

「どうする? このペースならあと十階層くらいいけそうじゃない?」
「……まぁ、それでもいいけど。どうする?」

 リンの質問にライトは答えず、マリアに渡す。
 マリアは優雅にお茶を味わいながら答えた。

「この程度なら二十階層まで進めますわ。わたしもシンクも問題ありません。ライトとリンはどうです?」
「俺も問題ない。急ぎじゃないし、明日でもいいけど……シンクは?」
「へーき。おやつなくなったら帰る」

 いつの間にかクッキーをコリコリ齧っていたシンク。
 ライトは肩に重みを感じ振り向くと、メリーがスヤスヤ眠っていた。

「おい。って、無駄か……リン、こいつ影の中に入れとくのはどうだ?」
「さ、さすがに可哀想だよ。仲間だし、物みたいに扱うのは……」
「運ぶのも楽じゃないんだけどな。マリア、頼めるか?」
「構いませんわ」

 メリーは、マリアの百足鱗で運ぶことにした。
 話し合いで決まったのは、四十階層まで進んで今日は帰るということだ。普通の冒険者グループには絶対不可能な速度で魔獣を屠り、階層を下っている。
 ライトもマリアもシンクも、魔獣など敵ではない。自信の力を試すだけの動く的としか認識していなかった。

「じゃ、行くか」
「うん」

 カップを『影』に収納し、ライトたちは立ち上がると――――。

「なぁ、あんたら……この先に進むのか?」

 壮年の冒険者に声をかけられた。
 年相応の、経験深そうな冒険者だ。冒険者の等級を表すタグは青、青銅級冒険者で、仲間は4人、内2人がリンと同じ銀級冒険者だ。
 ライトは口を出さず、同じ冒険者のリンと交換した。

「はい。まだ余裕があるので、先に進もうと思います」
「そうかい。なら、いいことを教えてやる。この先の最初の分岐を左に進みな。下の階層に続く近道だからよ」
「え……?」

 いきなりの親切発言に、お人好しのリンも警戒する。
 だが、壮年の冒険者は苦笑した。

「勢いのある若いやつに助言するのはロートルの役目だ。オレらも中堅としてここらで稼いでるが……未だにこのダンジョンは攻略されてねぇ。おめーらみたいな勢いのある連中なら攻略できるだろうと思ってな」
「え、えっと……ありがとうございます」
「おう。気をつけな」

 リンは頭を下げた。
 ライトたちは先へ続く通路の前でリンを待ち、リンが合流すると下の階層へ向かって歩き出した。

「…………気をつけな」

 壮年の冒険者が、ニヤリと笑う。

 ◇◇◇◇◇◇

 ライトたちは通路を進む。
 すると、壮年の冒険者が言った通り、道が分岐していた。
 T字路のようになっている道で、ライトたちは立ち止まる。
 リンが左の通路を見ていた。

「確か、左だよね」
「ああ。信じるのか?」
「んー……まぁ、同じ冒険者だしね」
「リン、優しいですわね……本当に可愛い♪」

 うっとりするマリアを無視し、ライトは右の通路を見ていた。

「ちょ、ライト?」
「……右のがヤバいんだよな?」
「そ、そうかもだけど……まさか、行く気?」
「正直、行きたい。魔獣やトラップ程度、かいくぐれないと、これから先やっていけないだろうからな」
「だ、ダメだって。何があるかわからないし……それに、賞金首だっているかもしれないんでしょ?」
「俺としては望むところだ」
「あん、ズルいですわライト。わたしも行きたいです」

 ライトとマリア、そして百足鱗で拘束されているメリーが、右の通路に向かった時だった。

「――――あ」
「――――え」
「……zzz」

 地面が、横にスライドした。
 ライト、マリア、メリーはスライドした地面の下……落とし穴のトラップに引っかかり、落下してしまったのだ。

「ッッ……ライト、マリア!!」

 リンが叫ぶがもう遅い。
 スライドした地面が元に戻り、ただの地面になってしまった。
 これがダンジョンのトラップ。完全に油断してしまった。

「……リン、こっち見て」
「え……」

 残されたシンクとリン。
 シンクが左の通路を見ていた。そして、リンたちが歩いてきた通路の地面が迫り上がり、壁が生まれた。
 これで、リンとシンクは左側の通路にしか進めなくなってしまった。
 それだけじゃない。

「な、なに、これ……」
「敵」

 シンクの両腕が巨大爪に変化する。
 リンも刀を抜いて構えた。

「ま、まさか……ゾンビ!?」

 左の通路奥から、大量の『ゾンビ』が現れた。
 ゲームや映画で見るようなゾンビそのものに、リンの顔が青くなる。
 ゾンビ。その言葉にリンは聞き覚えがあった。

「え、S級賞金首……『迷宮ゾンビ』」
「やっと四肢を狩れる……リン、行こう」

 全く怯えのないシンクは、ゾンビに向かって突っ込んだ。

 ◇◇◇◇◇◇
 
「おい、大丈夫か?」
「ええ。落とし穴とは……驚きましたわね」
「背中の奴は?」
「寝てますわ」

 ライト、マリア、メリーの3人は、落とし穴に落ちても問題なく着地した。
 リンの心配はしていない。シンクもいるし、そもそもリンは強い。
 問題は、ここが地下と言う事だ。階層を一つ下がったのは間違いない。

「とりあえず行くか。予定通り、十階層降りて外に出よう」
「リンはどうします?」
「シンクもいるし、魔獣程度なら問題ないだろ。俺たちは言わずもがな」
「そうですわね」

 全く変わることなく、ライトとマリアは歩き出す。
 最初に比べると、この2人のいがみ合いはまるでない。何度も共に戦い、身体を重ね、信頼を築いてきたのだ。

『…………』

 そんな2人に全く気付かれることなく、一つの影が岩壁に張り付いていた。
 まるで、暗殺者のように。まるで気配を感じさせずに。
 ライトを、マリアを、メリーを見る一つの影。

『…………』

 SS級賞金首『マカハドマ』は、ライトたちの後を静かに追う。
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